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胡蝶の夢  作者: 夜半堂
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プロローグ

月明かりだけが、赤く濡れた格子窓を照らしていた。


夜の花街は、人ならざるものを招く。


行き場をなくした者。

現世に疲れ果てた者。

忘れられぬ夢に、心を喰われた者。


──皆、この街へ辿り着く。


香が揺れる。


鈴が鳴る。


その最奥。


白い蝶に囲まれた女が、静かに微笑んだ。


「さあ、今宵はどなたがおいでなんし」


金の簪が、かすかな音を立てる。


女の名は、胡蝶。


花街一の花魁。


人の悪夢を視る者。


そして──


怪異にさえ、救いを与える女。


帳の奥で、

獣のような影が、ゆっくりと目を開く。


夢喰い獏。


それは人の苦しみを喰らう怪異。


けれど。


獏が喰えぬ夢も、この世には存在した。


胡蝶は、

誰にも見えぬように目を伏せる。


まるで、

自らの悪夢を隠すように。


そして、静かに囁いた。


「人は皆、夢から覚めるのが怖いのです」


夜は、まだ明けない。

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