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連作短編集『 十六の標本 -愛の物語- 』

【標本No.1】硝子の美

作者: 湯琉里羅
掲載日:2026/03/10

それっぽく書けたのでは!?かなり自信作です!



彼の愛は、林檎の皮を剥くように丁寧で、瑞々しい。


だが、僕の愛は違う。


僕は彼女の喉元に、溶けた熱い硝子を流し込む。


悲鳴さえも透明に固め、彼女が永遠に腐らない「置物」になるのを待つのだ。


硝子の林檎は食べられないが、決して枯れることもない。



窓からさす光が、朝の訪れを知らせる。


硝子に覆われた彼女の瞳に、日の光が屈折した。


深くて、美しくて、透明な、瞳。


それは、嘘一つない純白よりも綺麗で正しい。



小鳥のさえずりはもう彼女の耳には届かない。


生命の鼓動を止めてもなお、美しくあり続ける彼女は私の完璧な作品だった。



その吐息すらも、ありったけの透明に閉じ込めた。


彼女は、時間が進んでも美しくあり続けるだろう。


かつて聖母マリアが美しく、穏やかにその生命を止めたように。



カーテンを開けると、緑の爽やかな香りがした。


それらを彼女が知ることはない。



私はコーヒーを淹れることにした。


黒く濁った液体のそれは、彼女の美しさをより一層際立てる。


最高の朝だ。


私の指先には、少しだけ硝子が張り付いている。


同じ硝子なのに、その色は少しくすんで見える。



街の喧騒が耳を突く。


出勤に向かう会社員の走る音。


列になって進む自動車の走行音。


踏切の鳴らす甲高い音。


そして、電車が風を切って通り過ぎる。


神はこう言った。


「愛とは、脆く神秘的なものだ」と。


触れたら壊れてしまいそうなその硝子を、愛おしく眺める。


神はこうも言った。


「愛とは、脆いからこそ美しいのだ」と。



――私の心に幸せが満ちたとき、地底の底で眠っていた獣が、微かに身じろぎをした。



立てかけていた硝子が、音を立てて割れる。


高く、澄んだ、悲鳴のような破砕音。


神々しいほどの美しさを放っていた彼女の姿は、もうそこにはない。


彼女の皮膚に少しばかり残った硝子が僅かな光を反射する。


机の上のコーヒーカップも音を立てて割れる。



ああ、神よ。どうして...。



私はうなだれた。


拾い上げようと伸ばした指先に、彼女の破片が深く食い込む。


鋭利な切断面が皮膚を裂き、赤い線が引かれる。


床に散らばった無数の破片は、光を反射し、周囲の景色を歪ませる。


その面からは、触れるもの全てを傷つけるかのような冷たい輝きを放っている。



神はこう言った。


愛とは、脆く神秘的なものだ。


愛とは、脆いからこそ美しいのだ。



私はこう言った。


愛とは、神秘的で美しい。


けれど、脆い必要はないのだと。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

よければ他の短編も読んでほしいです...!

感想・リアクション・アドバイス等、お待ちしています。

よければ、ブクマ登録もよろしくお願いします!

気に入っていただけたら、☆☆☆☆☆つけてくれるとなお嬉しいです。


標本No.2の投稿予定は3月12日、朝8:00です。

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