【標本No.1】硝子の美
それっぽく書けたのでは!?かなり自信作です!
彼の愛は、林檎の皮を剥くように丁寧で、瑞々しい。
だが、僕の愛は違う。
僕は彼女の喉元に、溶けた熱い硝子を流し込む。
悲鳴さえも透明に固め、彼女が永遠に腐らない「置物」になるのを待つのだ。
硝子の林檎は食べられないが、決して枯れることもない。
窓からさす光が、朝の訪れを知らせる。
硝子に覆われた彼女の瞳に、日の光が屈折した。
深くて、美しくて、透明な、瞳。
それは、嘘一つない純白よりも綺麗で正しい。
小鳥のさえずりはもう彼女の耳には届かない。
生命の鼓動を止めてもなお、美しくあり続ける彼女は私の完璧な作品だった。
その吐息すらも、ありったけの透明に閉じ込めた。
彼女は、時間が進んでも美しくあり続けるだろう。
かつて聖母マリアが美しく、穏やかにその生命を止めたように。
カーテンを開けると、緑の爽やかな香りがした。
それらを彼女が知ることはない。
私はコーヒーを淹れることにした。
黒く濁った液体のそれは、彼女の美しさをより一層際立てる。
最高の朝だ。
私の指先には、少しだけ硝子が張り付いている。
同じ硝子なのに、その色は少しくすんで見える。
街の喧騒が耳を突く。
出勤に向かう会社員の走る音。
列になって進む自動車の走行音。
踏切の鳴らす甲高い音。
そして、電車が風を切って通り過ぎる。
神はこう言った。
「愛とは、脆く神秘的なものだ」と。
触れたら壊れてしまいそうなその硝子を、愛おしく眺める。
神はこうも言った。
「愛とは、脆いからこそ美しいのだ」と。
――私の心に幸せが満ちたとき、地底の底で眠っていた獣が、微かに身じろぎをした。
立てかけていた硝子が、音を立てて割れる。
高く、澄んだ、悲鳴のような破砕音。
神々しいほどの美しさを放っていた彼女の姿は、もうそこにはない。
彼女の皮膚に少しばかり残った硝子が僅かな光を反射する。
机の上のコーヒーカップも音を立てて割れる。
ああ、神よ。どうして...。
私はうなだれた。
拾い上げようと伸ばした指先に、彼女の破片が深く食い込む。
鋭利な切断面が皮膚を裂き、赤い線が引かれる。
床に散らばった無数の破片は、光を反射し、周囲の景色を歪ませる。
その面からは、触れるもの全てを傷つけるかのような冷たい輝きを放っている。
神はこう言った。
愛とは、脆く神秘的なものだ。
愛とは、脆いからこそ美しいのだ。
私はこう言った。
愛とは、神秘的で美しい。
けれど、脆い必要はないのだと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
よければ他の短編も読んでほしいです...!
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標本No.2の投稿予定は3月12日、朝8:00です。




