8話 作戦会議
翌日、部屋の木扉を激しく叩く音で目が覚める。
「おーい! タクトー!」
ああ、またリーン師団長か。朝っぱらから元気だな…。
「どうしました。こんな朝早く?」
欠伸をかみ殺しながらベッドから起き上がる。
リーン師団長は勢いよく扉をあける。
「すまねぇ、ちょっとこれから他師団と合同演習があるんだよ」
「僕に何か関係が?」
「お前に会わせたい奴がいるんだ。おい、ミリアー! タクト、借りるぞー!」
「なんでミリアさんに確認を?」
問いかけると、リーン師団長は軽く小突いてきた。
「突然いなくなったら心配させるだろうが」
酒場で掃除をしていたミリアが大きく手を振る。
「いってらっしゃ~い」
そのまま強引に引っ張られ、王都北門を抜けると、朝露に濡れた草原が広がっていた。
風が冷たく、緊張をほどくには十分すぎる静けさだ。
「なんでお前は当然のようについて来てるんだ?」
リーン師団長がステラを睨む。
ステラは当然のように僕の後ろについて歩く。昨日の件以来、なぜか距離が近い。
「正妻として当然の努めを果たしてるだけだが?」
ステラは真顔で言い切る。
「お前、ミリアだけでは飽き足らず、こいつにも手を出したのか。意外と節操がないのな」
リーン師団長がからかう。
「ちょ、二人で勝手に話を盛らないで下さい」
ステラの怒声が草原に響く。
「なんだ、タクト! 私とは遊びだったと言うのか! 昨日はあれだけ熱い言葉を…」
「サイテーだなお前」
リーン師団長も便乗。
ため息混じりにタクトは両手を広げる。
「もう、二人で勝手にやってください…」
「相変わらずキミの周りは賑やかだね」
前方から背中に大盾を背負った白い鎧の青年が歩いてくる。
青い瞳に整った金髪。なるほど、イケメンだ。
「おう。ジーク、もう来てたのか!」
軽くため息をつく青年。
「キミが遅すぎるんだよ。ミーリア師団長がお怒りだ」
「げっ、あのセクシーババアが怒ると面倒くさいんだよな」
「そんな事言うから余計怒られるんだよ。
…と、そこの彼がキミの言ってた人かい?」
タクトに気付くと、ジーク師団長は胸に拳を当て頭を下げた。
「カラヴァルト王国、第二師団師団長、ジーク・アイギスだ。お見知り置きを」
「ったく、お前は相変わらず堅っ苦しいやつだな」
リーン師団長が吐き捨てるように言う。
「僕はタクトと申します。しがない旅人です」
僕も倣っても頭を下げる。
「ステラ・アズリーン・ストラテスです」
ステラも頭を下げる。
——苗字にミドルネーム。貴族の出なのだろうか。
「これはまた懐かしい名だね」
ジーク師団長の発言が少し気になったところで、遠くから女性の怒声が聞こえる。
遠くから怒声だけで空気が震え、僕の背筋が伸びる。
「オラー! リーン! 早くしろ〜!」
赤茶の髪が腰まで伸びる、胸元の空いたローブを纏った女性。
鬼の形相で立っていた。…二十代後半くらいにしか見えないが、これが噂の“セクシーババア”か。
「お前はいつまで私を持たせるんだー!」
リーン師団長はお説教を食らい、タクトはただ目を丸くする。
落ち着いたミーリア師団長がこちらに向き直る。
「あなたたちがリーンの言ってた奴ね。あたしは第二師団師団長、ミーリア・デュポン。よろしく」
ジークとは対照的に軽やかに自己紹介。タクトたちも丁寧に返す。
「へぇ〜あんた…」
ミーリア師団長はタクトを覗き込む。
エメラルドの瞳に思わず見惚れる。
「なんだ、婆さん、いい歳してナンパか?」
リーン師団長がからかう。
「うるさいわよ、犬っころ!」
怒声が草原に響き、二人のやり取りに思わず笑みがこぼれる。
「この子、マナが全くないのね…。こんな人を見たのはメーザイン以来」
ミーリア師団長がタクトを観察する。
「ほら、いい加減演習始めようぜ」
リーン師団長が肩を慣らす。
「ジーク、タクト、ステラ」
手渡された木剣を握りしめ、タクトは目を丸くする。
「えっ、僕もですか?」
「なんで、私まで…」
ステラも同じ反応。
「まあまあ、お互いの手の内を知るのも大事だぜ」
強引に、僕らも手合わせに巻き込まれる。




