3話 暗殺
ダグラスに連れられ、王城の謁見の間へと案内された。
……展開がまったく読めない。
僕は内心焦りまくりながらも、ひとまず周囲を観察する。
レッドカーペットを挟んだ両サイドには、
十二の紋章を背負った十二師団長たちが厳かに並び立っていた。
その先、玉座には――白光する豪奢なドレスを身に纏った女王が静かに座している。
ダグラスは右手と左足で床につき、騎士礼のように頭を下げた。
僕も慌てて真似をする。
「頭を上げてください」
透き通るようなか細い声。
その一言で空気が変わった。
「リーン師団長。先ほどは助けていただき、感謝します。詳しい説明を」
リーン師団長は少し不遜な態度で前に進み、軽く会釈する。
「メディア女王様。暗殺を防げたのはコイツ、タクトのおかげです」
「えっ、僕……ですか?」
「コイツの警告が俺の耳に届いたので、いち早く動けました」
いやいや、あの騒音の中で聞こえたってどんな耳してるんだよ。
女王は静かに頷く。
「そうですか。旅の方、ありがとうございました」
「いえ、たいしたことしてませんよ。リーン師団長のおかげです」
「強引に連れてきて悪かったな」
リーン師団長はバツの悪そうな笑みを浮かべる
「いや、ほんとですよ……」
その時、鋭い声が響いた。
「そんなことより、刺客はどうなった?」
向かって左側。黄金の鎧に金髪ウェーブの、厳格な面持ちの師団長が尋ねる。
「地下牢に捕らえております」
女王の傍らに控えていたしゃがれ声の老人――参謀らしき人物が答えた。
「左様か……して、尋問は?」
「近衛兵がある程度……。見せしめに処刑して――」
言い切る前に、リーン師団長が手で制す。
「悪いが、処刑は少し待ってくれ。俺も聞きたいことがある」
参謀らしき老人が血相を変えて怒鳴る。
「貴様、このわしの判断が不服と申すか!」
「そこまで言ってねえよ。それに、決めるのは女王様だ」
女王は少しだけ笑みを浮かべた。
「リーンが言うなら任せてみます。損はありませんし」
「……っ」
ナハトは悔しそうに歯噛みした。
このやり取りだけで、帝国が一枚岩じゃないことが察せる。
女王が締めくくる。
「ではひとまず解散とします。戴冠式は後日。リーン師団長と旅の方は、尋問の結果を報告してください。それを踏まえて報酬を考えます」
その一言で場が動き出す。
「ほら、行くぞ」
「え、どこに?」
「尋問に決まってるだろ」
リーン師団長はさっさと歩き出し、僕を連れて別棟の地下牢へ向かった。
「どうして僕を?」
「今回の功績はお前のもんでもあるからな。それに……チビスケも救えた。感謝してる」
「チビスケ?」
「あー……その、だ。気にすんな」
リーンが恥ずかしそうに髪をかく。いや、そこ気になるんだけど。
「それと尋問なんて、僕は参加しなくても――」
「情報はできるだけ集めたいんだよ。こう見えて、俺はお前を買ってるんだぜ?」
「買い被りすぎですよ……」
そんなやり取りをしているうちに、最下層の牢獄へ到着した。
湿度と腐臭が肌にまとわりつく最悪の空気。
「おーい、元気か?」
鉄格子の中には、両腕を鎖で吊られた金髪の女兵士。
ボロ布の服。青痣。胸元ははだけ、拷問の生々しさが残る。
リーン師団長に気づくと、慌てて胸を隠すように背を向けた。
「貴様らに話すことなどない!」
強情そのものだ。
リーンはため息をつく。
「あの狸ジジイ――参謀ナハトの仕業か」
「どういうことです?」
「コイツはナハトの手の者だ。尋問なんてしてねぇ、形だけ痛めつけただけだ。口を割られちゃ困るんだろ」
「なるほど、それであの態度……」
僕らが考察をしている間も、女兵士は一切反応を見せない。
リーン師団長がぼそっと呟く。
「背中に……奴隷紋の跡か」
「っ……!」
女兵士が初めて反応した。
胸と背中、どっちを隠すべきか分からず羞恥で震えている。
「そんなに嫌なら見ねえよ。代わりにタクト、お前が見ろ」
「えっ」
いやいや、違う意味にしか聞こえないだろこれ。
「お前、西の出なんだろ?そいつはエルフだ。尖った耳を見りゃ分かる。何か気づけば報告しろ」
……ああ、あのときの適当な嘘がここで効いてくるのか。
口は災いの元。ホント気をつけよう。
僕は女兵士に背を向けて尋ねる。
「名前は?」
「見るなと言っているだろ!」
「じゃあ見ないから、話して。名前は?」
「ステラ」
「素敵な名前だね」
「余計なことは言うな!聞きたい事があるならさっさとしろ!」
怒りで鎖が鳴る。
僕は静かに核心へ踏み込む。
「キミは……ナハトの手の者だね?」
ステラは黙ったまま。
「その拷問も彼の指示だ。口封じにキミを処刑したがっている。今さら義理立てする理由なんてないよ」
「……っ」
反応はある。けど口は割らない。
「ありがとう。リーン師団長、行きましょう」
「今ので何が分かったんだよ!」
僕はリーンを半ば強引に連れ出し、謁見の間へ戻る。
「リーン師団長。この後、僕に話を合わせてください」
「は!? お前なに企んでんだよ!」
軽くあしらいながらも、謁見の間に戻る。
そこにはメディア女王、ナハト、そしてフルフェイスの近衛兵が控えていた。
「リーン師団長、旅の方。早かったですね。で、何か分かりましたか?」
女王の問いに、僕は一歩前へ出た。
「名乗っていませんでしたね。私はタクトと申します」
軽く礼をしてから、静かに告げる。
「結論から言うと……何も分かりませんでした」
そのままナハトへ笑顔を向ける。
ナハトはわずかに顔を引きつらせた。
女王が小さく息を漏らす。
「そうですか……それでも、私を救った功績は大きいです。望むものを言ってください」
「では、お言葉に甘えて――」
僕は一呼吸置いて、
「牢獄にいる、あの暗殺者の女兵士を……僕にください!」
と、はっきり言い放った。




