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たいしたことはしていません。みなさんのおかげです。  作者: 那須 儒一


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10話 第一王女

第一王女、ラーミア・ユピテル・オーギュスタス・ベルグ。


セグリア王国には三人の王女がいる。

前女王が崩御する直前、年端もいかぬ第三王女メディアを次代の女王に指名した。


理由は明かされておらず、王都では今も憶測がくすぶっている。


「――あぁ、愛しのジーク。会いたかったわ!」

ラーミアは周囲の視線を気にすることなく、ジークの胸当てに頬をすり寄せていた。


「うげぇ……」

リーン師団長が心底イヤそうな顔をする。


「なぁに? 下民、何か文句でも?」


「いえいえ、王女様に文句など滅相もございません」

棒読みで頭を下げるリーン。


「まったく……ジークも、もう少し交際相手を選ぶべきだと思いませんこと?」


「そうだぜ。第二王女の方がよっぽどお淑やかで可愛いってのに」


「だれが下劣な捨て犬よ!」


「ははは、仲が良いですね」

ジークが苦笑する。


「どこがよ!」

「どこがだよ!」


二人が同時に怒鳴り、僕は思わず吹き出しそうになった。


……第二王女。そういえば噂も聞かない。どんな人なんだろう。


ミーリア師団長が、小声で僕の耳に息をかけるように囁く。

「王女はね、昔から騎士の中から夫を選ぶのよ」


「へぇ……じゃあメディア女王はリーン師団長を選ぶのかな。羨ましいなぁ」


「……っ」

横でステラに思いきり足を踏まれた。痛い。


ジークがラーミアに問いかける。

「ところでラーミア王女。今日はどういった御用でしょう? 伝達なら私が伺いましたのに」


その瞬間。

ラーミアの明るかった顔に、薄い影が差した。


「リーンと……そこの二人。メディア女王がお呼びよ。至急、謁見の間へ」


「至急……?」

胸の奥がひやりとする。

――まさか、ナハトの件?


ジークが立ち上がろうとしたが、ラーミアが必死に腕を掴んだ。


「いえ、ジークは残って! 本当に……お願い」

その声には、場の空気を変えるほどの焦りが滲んでいた。



謁見の間に足を踏み入れた瞬間、肌が粟立つ。

刺すような緊張感。

近衛兵、数名の師団長。


そして姿は見えないが、物陰に潜む鎧の擦れる音――包囲されている。


メディア女王が重い面持ちで立っていた。

「急にお呼び立てして申し訳ございません」


「メディア女王、これらどういう事だ?」

リーン師団長が声をあげる。


代わりに、ダインが進み出て深く頭を下げる。

「タクトくん。君の素性について……調べさせてもらった」


来た。

背筋が冷える。


「タクト……お前……」

リーンの眼が揺れている。怒りと、不安と、何かが混じって。


「君は、この世界の人間ではないね?」


僕は沈黙で肯定する。


「否定はしないのだね」


リーンが叫ぶ。

「外から来た人間は“理を乱す魔人”って迷信だろ! そんなの関係ねぇ!」


「迷信だからこそ、だ」

ダインの声が冷たく、謁見の間に響く。


「民は迷信で動きます。異界の魔人が騎士団にいると知れれば……混乱する」

メディア女王は伏せ目のまま言葉を吐く。


「おいチビスケ! 本気で言ってんのかよ!」

リーンがメディアに詰め寄った。


「リーン君、無礼が過ぎるぞ! 貴君も見ただろう、彼の危うさを!」

ダインの叱責が飛ぶ。


メディア女王が口を開いた。

その声音は、もう幼さを残した少女のそれではなかった。

「……タクト様を拘束してください。女王として、務めを果たさねばなりません」


命令と同時に、隠れていた近衛兵たちが雪崩れ込むように包囲する。


――そうか。

僕は選択を間違えたんだ。

ナハトを暴くつもりが、自分が暴かれた。


諦めかけたその時。

リーンが曲刀を抜いた。

ステラも短剣を抜く。


「リーン! お願いです、やめて下さい!」

メディアの声が震える。


「ステラ、剣を収めろ! 僕は大丈夫だ!」

必死に叫ぶ。


そうだ、僕は大丈夫なんで、前世では病の淵で全てを受け入れた。死など恐れない。

今は、キミたちを喪う方が恐ろしい。


「リーン君。それは反逆と取ってよいのかな?」

ダインが薄ら笑う。


「いいぜ!俺は自分の筋は曲げねえ」

リーンの声が吠えるように響く。


「リーン!」

僕の叫び声を遮ぬようにリーンが話す。

「俺は……ダグラスを親父みてぇに思ってた。だから――お前まで、失えねぇ!」


次の瞬間。


群狼ぐんろう

リーンの身体がいくつもの残像を残し、

近衛兵たちを次々と薙ぎ払っていった。

視界が裂けるような速度で退路を開く。


「ステラ! タクトを頼んだ!」


「止めてくれ、リーン師団長!」

叫んだが遅い。


ステラに肩を抱えられ、僕は城門へと連れ出された。

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