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5.家族愛

「わたしたちーは、もりのとーぞくだん♪みんなのきのこをいただくゾッ♪」

「森の奥地で眠ってる…黄金きのこはうちらのもーのだー」

「……」


 今日も、村中に響き渡る盗賊団の歌。先頭を歩くのは、ヘリカちゃん。その後ろを軽やかに跳ねるサイちゃん。そして最後尾、俺――通称『戦車(タンク)』。なぜそんな物騒な呼び名なのかというと、ずんぐりとした身体に、重そうに見えるからとサイちゃんは言っていた。見た目かよ。以来、この三人が揃った時はこの不名誉な名前で呼ばれている。


そんな俺たちは今、村の真ん中を堂々と歌いながら闊歩(かっぽ)している。周囲の大人たちは苦笑しつつも道を譲ってくれる。――正直、こっちはそれどころじゃない。


だって、周りの目が痛すぎる。特に、俺に注がれる視線だけ、ちょっと質が違う。好奇、警戒、そして、ほんの少しの(おそ)れ。特に高齢そうなエルフには嫌われている。子どもやセレナさんぐらいの世代の人は、あまり気にしていない様子だが…。まあ、無理もない。ここはエルフの村。金色の髪と尖った耳を持つ彼らの中で、黒髪黒目の俺は異物以外の何者でもないのだから。


戦車(タンク)、お前も森の盗賊団。だから、歌うの。3、2、1はいっ!」

「もりーのきのこは……」

「下手くそッ」


ベシッと、頭にチョップが入った。痛い。あれからサイちゃんはよく家に来るようになった。三人で遊ぶことが増え、最初は家の中だけだったのだが、庭、通路、村と段階的に人目につくような場所へ移動していった。今日の盗賊団の活動内容は村の警備らしい。それ、盗賊団じゃないよね。とツッコミをいれそうになるが、これは良い行いなのでそっとしておこう。


「ねぇ、弓旨。今日、私の家でご飯たべてくよね?」

「うん…もちのろん」

「よっし!じゃあね(コソコソ……)」


ヘリカちゃんがサイちゃんの耳に口を寄せて、何やらこそこそ話している。なんだろう?聞こえそうで聞こえない。俺が眉をひそめると、サイちゃんがちらっと振り向いて、にやりと笑った。

あの顔は何か(たくら)んでる時の顔だ。前もあの顔をしたあと、何かの白い幼虫をポケットに忍ばされた経験がある。帰った後、セレナさんに怒られたのは言うまでもない。



村の市場は、いつにも増して賑やかだった。木で編まれた露店が並び、果実や布、香草(こうそう)の匂いが風に乗って(ただよ)ってくる。


「ねぇ、見て見てポテト!これ、きのこの帽子!」


ヘリカちゃんが手に取ったのは、丸い布を縫い合わせた子ども用の帽子。先っちょが少し垂れていて、紫色に、斑点(はんてん)がアクセントになっている。まるで、毒キノコそのものだった。


「かわいいでしょ?盗賊団の正式な帽子にしようよ!」

「かわいい、けど」

「けど?」

「どくっぽい?」

「毒!?かっこいい!!じゃあポテトは…いや、戦車はこっちの赤いのね!」


押し付けられたのは真っ赤な帽子。被ると、視界がちょっと狭くなって前髪が顔にかかる。サイちゃんはというと、横で弓を構えてキリッと胸を張っていた。ちなみに弓旨というコードネームは弓がクラス一上手いからという事らしい。自慢するように何度も聞かされた。ヘリカちゃんは言わずもがなだが、足がクラス一速いから瞬足らしい。


「ふふふ、これで完璧。戦車はこれ」


サイちゃんが俺に渡したのは盾のみ。なるほど、武器は自分で選んで良いって事か。サイちゃんにしては気が利くな。ならと思い、かっこいい斧を取ろうとした時――。


「ダメ」

「へ?」


ベシッとサイちゃんに手をはたかれる。選択を間違えたかな?まぁ確かに片手で斧は持ちにくそうだからしかたない。よし、ここは無難に剣にしよう。


「ダメ」

「いたっ!?」


ベシッと次は強くはたかれる。もっと自分にあった武器があるのだろうか?だいぶ喋れるようになった言葉で聞いてみる。


「ボク盾だけで、戦うの?」

「せーかい!!」


何が『せーかい』だ。まるで難問に答えられた回答者に言うようだ。だってこれじゃ……。


「盾だけ、戦えない」

「大丈夫。私が弓でビュンと倒す」

「そしてっ!私が剣でザクッってね!!」


いや答えになってないんですが……。カラカラと笑っている二人。とはいえ、ふたりが笑っている顔を見ると、文句を言う気にもならなかった。気づけば、いつのまにか周囲の視線も気にならなくなっていた。


村の警備が終わると、三人で森の外れの丘に登った。そこは村全体を見渡せる場所で、夕陽が木々の隙間から金色に射していた。


「よし!これで今日の仕事しゅうりょー!!」

「なんとも大変な一日だった……」

「……疲れた」


森の盗賊団の仕事が終わってもなお元気なヘリカちゃん。疲れてないのに、疲れてそうなアピールをするサイちゃん。地味にこっちを見て肩を揉めという視線やめてください。


「ねぇ、ポテト」


ヘリカちゃんがふと真剣な声を出した。そうだ、仕事がおわってるから戦車(タンク)ではないんだ。


「明日からポテトも“森の(その)”に通うんだよね」

「うん、そうみたい。“入園”って、やつ?」


この異世界でも前世と同様に幼稚園というものが存在しているらしい。主にサバイバルを訓練する、とヘリカちゃんとサイちゃんから聞いている。良かった。この村を去る前に、あらかじめ生きていく、土台ができそうだ。


「へー!懐かしいんな~、よくサイとは勝負したっけ?」

「うん。私が全部勝ってたけど…」

「うそーー!!私の方が、ずぅぅと勝ってたもん!!

「違う。私の方がずぅぅぅと勝ってた」


度々みる争いが起きた。仲が良いのはわかるのだが、どちらも負けず嫌いだ。これを、良い友情だなと一歩後ろを引いていつも見ている。ちなみに、俺は、ずぅぅぅぅとヘリカちゃんとサイちゃんに負けています。


「入園の前日は大事。心機一転。盗賊団の誓いをする日」

「そうそう、ポテトも立派な仲間になった証が必要だよね♪」

「祝いの日だ」

「どういう、こと?」


何を言ってるのかわからなかったけど、その笑顔があまりに自信満々だったから、俺はそれ以上突っ込めなかった。太陽が森の向こうに沈みかけるころ、ヘリカちゃんがふと立ち上がる。


「そろそろ帰ろっか。お母さん、きっと待ってる」


家に近づくにつれて、香ばしい匂いが漂ってきた。焼いた魚の香り、甘い木の実の香り、そしてスープの湯気の匂い。


扉を開けた瞬間――


「――おかえりなさい!」


セレナさんの笑顔とともに、部屋いっぱいの明かりが(はじ)けた。天井には花飾(はなかざ)り、机の上には、見たこともないほど豪勢(ごうせい)な料理が並んでいた。大皿には焼きキノコの盛り合わせ、森の獣のロースト、果実を煮詰めたジュース。どれも色鮮やかで、見るだけでお腹が鳴った。今日は何かの祝い?なんかあったけ?


「これ、は?」

「ええ、ポテトのために作ったのよ」

「ぼ、僕の……?」

「そう。今日はあなたの三歳の誕生日でしょ?」


……あ、そうだった。そういえば、朝から何となくみんな浮かれてたのは、それが理由か。もう異世界に来て三年。感慨深いものがある。


「さぁ、座って。今日はお腹いっぱい食べましょ」

「わーい!ごちそーだー!!」

「全部、私の胃袋に入れてやる」


ヘリカとサイちゃんが歓声を上げて席につく。俺も(すす)められるまま椅子に座った。どの皿も香りが濃くて、舌に触れるたびに広がる味が新鮮で――気づけば夢中で食べていた。


「ポテト、呑み込まずしっかり噛むのよ」

「うん!」


セレナさんの優しい声。彼女は時折(ときおり)、ヘリカやサイに微笑みかけながらも、ずっと俺を見守ってくれていたような気がした。そのまなざしは、まるで本当の母親のようだ。


「さぁ、プレゼントの時間よ」


食事が終わり、テーブルの上が片付くと、セレナさんが小さな箱を取り出した。


「まずは、私からね」


差し出されたのは、金糸(きんし)で編まれた細い紐。手に取ると、微かに温かい気がする。


「これは“魔除(まよ)けのミサンガ”。この村で昔から伝わっているものよ。これを身につけていると、魔物や災いからポテトを守ってくれるわ」


セレナさんが優しく俺の手首に結ぶ。光がふっと揺れて、糸が微かに輝いた。その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。そうか前に、編んでいた物は、俺に渡すものだったのか。完敗です。これは、言うしかない…。


「ありがとう……ママ」


でも、ちょっと恥ずかしい。前世の記憶がある分、余計に。でも、一番セレナさんが言ってほしかった言葉に違いない。顔を上げると、セレナさんは驚かずに、むしろ笑ってくれた。


「うん……ママ、でいいのよ」


「次は私たちの番!」

「大本命」


ヘリカちゃんとサイちゃんが顔を見合わせ、木の箱を取り出す。中には、木でできた小さな首飾りが入っていた。形は……きのこ。それも、三つ並んだ形になっている。


「これね、三人で作ったんだ。私とサイとポテトをイメージしてるの」

「森の盗賊団の証」

「あ、ありがとう」


首飾りを握ると、木の温もりが手の中に広がった。ただの木片じゃない。三人で過ごした時間が刻まれている気がした。ああなんか、自分らしくはないと思うが、ここに来て良かったと胸が熱くなる。涙もこぼれ始めた。


「ポテト、泣いてるの?」

「なんか、嬉しくて…」


心の底からでた言葉。それにヘリカちゃんが笑いながら、そっとハンカチで俺の目を拭いてくれた。その優しさに触れ、また涙が出始める。


「やっぱり、変な子」


それを見ていたサイちゃんがからかうように頬を突つく。それを見て笑うセレナさんとヘリカちゃん。こうして、俺の誕生日会は(まく)を閉じた。



その夜、窓の外では蛍のような光が漂い、森が静かにざわめいていた。

セレナさんはランプの火を小さくしながら言う。


「明日からポテトは入園なんだから。早く寝なさいね」


俺はベッドの上で小さく頷く。そして、隣のベッドからヘリカちゃんが顔を覗かせる。


「明日、楽しみだね!ポテトの事なのに眠れないよ」

「あのさ、ヘリカちゃん」

「なに?やっぱり、ポテトも寝れないよね!」


そうじゃなくて。これは認めるしかない。ここで言わなきゃ、逆に駄目だとすら思った。だって、俺はここの家族なのだから。


「お、お姉ちゃん、って呼ぶ。いい?」


ヘリカちゃんが驚いた様子でこちらを見る。次に口角が()り上って、満面の笑みに変わった。


「うん!」


力強く答えるヘリカちゃん。嬉しそうだ。ヘリカちゃんの笑顔が、ランプの(あかり)に照らされて金色に輝く。

――こうして、俺はこの世界で“家族”を手に入れた。

名前はポテト。ママはセレナさん。お姉ちゃんはヘリカちゃん、そしてサイちゃん。……今はもう少しだけ、この幸せを噛みしめていたい。

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