第七章 遅すぎた理解
王妃付きの応接室に、幹部女官と女官長ミレーヌが顔を揃えた。
その日、ある“証拠”が提出されたのだった。
「では、こちらをご覧ください。バルトン領宛の旧書簡記録です」
若い女官がテーブルに置いたのは、シモーヌが王宮を離れる直前に提出していた文書の写しだった。
ミレーヌが「王子に取り入ろうとした女」としてシモーヌを非難し、事実上の追放を決定したその翌日――
「誤解を招いてしまい申し訳ございません。私の立ち居振る舞いに配慮が足りませんでした」
「私の行動が、王家や皆さまの名誉を傷つけるようなものに見えたのであれば、それは本意ではございません」
そう記された、潔白と謝罪を両立させた手紙が残されていた。
王妃は静かに、それを読み上げた。
「この文体、礼節、そして相手を立てつつ自らを律する姿勢……これが“策略家”の書くものですか?」
室内に重苦しい沈黙が落ちた。
さらに、ある若い女官が続けた。
「その後、シモーヌ様の関係者から領地に送られた物資の記録も確認されましたが――王子殿下に向けた私的な贈答は一切ありませんでした」
「むしろ王子殿下の方が……そっと“スイーツのお取り寄せ”を希望された形跡が……」
ごほん、と誰かが咳払いする。
王妃はふと微笑み、柔らかく言った。
「私には、あの子の“誰かを疑わず、信じ続ける強さ”の方が、よほど王宮に必要な資質に思えますわ」
その瞬間、ミレーヌは初めて気づいた。
自分がずっと、「貴族社会の常識」という狭い世界でしか人を見てこなかったことに。
そして、その“狭さ”が、シモーヌという少女の本質を見誤らせたのだと。
「…………」
言い訳を探す舌が、喉の奥で乾いた。
会議が終わった後。
女官の一人が、そっとミレーヌに話しかけた。
「……リュシエール様、王宮で冷たくされたこと、恨んでいないそうですよ」
「……え?」
「むしろ、“あの頃があったから、私はスイーツの優しさに気づけた”って、笑っておられたとか」
その言葉は、ミレーヌの胸を焼いた。
罵られる方が楽だった。
許されることのほうが、残酷だった。
その日の夕暮れ。
執務室に残されたのは、シモーヌから贈られたスイーツの箱。
誰もいなくなった部屋で、ミレーヌはそれをそっと口に運んだ。
口の中に広がる、優しい甘さ。
そして――涙。
「……こんなもの、もっと早く……知っていれば……!」
それは、彼女の“自業自得”にして、“遅すぎた理解”だった。




