第一部最終章 スイーツよりも甘い日々
春の風が、花畑をそよがせていた。
色とりどりの花々が咲き誇り、蜂がぶんぶんと飛び交う。
シモーヌはその真ん中で、焼きたてのレモンタルトを手にしていた。
「ほら、男爵さま。今日は特別にレモンタルトですわ!」
「……また特別なのか?」
バルトンは呆れたように言いつつも、素直にフォークを受け取る。
「だって、スイーツは人を無条件に幸せにしますから!」
シモーヌはにっこりと微笑む。
「領民も、わたしたちも。お花畑とスイーツがあれば……」
「世界は幸せになる、か」
バルトンは彼女の口癖を続けるように呟いた。
その声は、最初に会った頃よりもずっと柔らかい。
彼はフォークでタルトを一口食べ、静かに笑った。
「……君と一緒に食べるなら、確かに幸せだ」
シモーヌの頬がかっと赤く染まった。
「そ、そんな……! お菓子より甘いことを言わないでくださいませ!」
バルトンはわざとらしく肩をすくめる。
「君がいつも甘いことを言っているんだろう。『花畑とスイーツで世界を幸せに』――誰が聞いても甘すぎる理論だ」
「だって本当なんですもの!」
シモーヌはむきになって答え、それから少し視線を落とした。
「……でも、今なら分かりますわ。いちばん甘いのは……隣にいる人の存在、なんですのね」
その言葉に、バルトンの胸が熱くなる。
彼は彼女の手をそっと取り、指先に口づけを落とした。
「――私にとっても同じだ」
花畑に、鳥のさえずりと風の音。
その中で二人は顔を見合わせ、こぼれるように笑った。
こうしてシモーヌとバルトンの結婚生活は続いていく。
花畑とスイーツに囲まれ、領民とともに笑い、そして何より――互いの存在が甘い日々を紡いでいく。
それは、どんなスイーツよりも。
どんな花畑よりも。
――世界でいちばん幸せな、甘い時間だった。




