第三章 郊外の男爵、バルトンとの出会い
道端で立ち尽くしていたシモーヌの前に止まった馬車から、落ち着いた雰囲気の男が降りてきた。
「お困りかな、令嬢」
肩まで流れる栗色の髪。切れ長の瞳には、冷静な光と計算の色が宿っている。
彼は名乗った。
「私はバルトン男爵。王都から少し離れた領地を預かっている者だ」
シモーヌは、はっとしてスカートの裾をつまんだ。
「わたしは……シモーヌ・ド・リュシエールと申します。今、少し……行き場がなくなってしまって」
正直に答えながら、内心では(この人、お菓子くれたりしないかしら……)と思っていた。
バルトンはシモーヌを上から下まで観察すると、ふっと口元を緩める。
「……あなた、甘いものが好きそうだ」
「えっ!? ど、どうして分かるんですか!?」
シモーヌの瞳がまん丸に見開かれる。
「目だよ。菓子を愛する者の目をしている」
真顔で言われ、シモーヌは思わず頬を赤くした。
「わたし……はい、甘いものが大好きなんです! それに、お花畑も! スイーツとお花畑は人を無条件に幸福にするんですもの!」
バルトンの目がきらりと光った。
「なるほど……幸福、か。いい理論だ。私も似た考えを持っている」
「えっ、本当ですか!?」
「私は金が好きだ。金があれば領地が潤い、人を養える。つまり、人を幸せにできる」
(お金とスイーツとお花畑……なんて完璧な組み合わせなの!)
シモーヌは感動のあまり両手を合わせた。
「あなたのお金と、わたしのスイーツとお花畑があれば……世界をハッピーにできますわ!」
バルトンは一瞬、唇を引き結び、それからあっさりと言った。
「……ならば、結婚するか」
「……はい?」
「あなたは幸福を広めたい。私は資金を回して利益を得たい。利害は完全に一致している。――結婚するのが最も効率的だ」
唐突すぎる提案に、シモーヌは呆然とした。
けれど次の瞬間、彼女の脳裏には「毎日スイーツが食べられる未来」が鮮明に浮かび上がる。
「……いいですね! 結婚しましょう!」
こうしてシモーヌは、王宮を去ったその日に、あっさりと新しい伴侶を得ることになった。




