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第4章A · 伯爵の召見

泣いた後は、容赦なく処刑用ドレスの試着タイム。

会長との「降維打撃」差に絶望するハイシン。

そして噂だらけの廊下を抜け、待つのは……。


――領主邸、黄昏。


夕陽の光がステンドグラスを透かし、広間に金紅の影を落としていた。

伯爵は椅子に身を預け、グラスの赤ワインをゆったりと揺らす。

対面にはギルド会長。机には依頼書が積まれ、二人は淡々と街の治安について語り合っていた。


「最近、北の商隊から山賊が増えたと苦情が来ている。ギルドは何もしないのか?」

伯爵の声は気怠げだが、その眼差しは鋭い。


会長は羊皮紙をめくりながら冷ややかに答える。

「三度討伐を依頼しましたが、頭を替えてまた現れるだけ。根絶には軍を動かすしかありません。……兵を出されますか?」


「フッ……やはり冷たい。よくあんな酒臭い冒険者どもをまとめられるものだ」


「少なくとも、屋敷に並んだ空の酒瓶よりは清潔でしょう」


伯爵が口元を吊り上げかけたその時――

「ガンッ!」と大扉が開き、一人の騎士が駆け込んだ。


「はっ、はぁっ……ご、報告します! 北門のゴブリン騎兵……撃退されました!」


「ほう? 海欧の老人、まだそこまで腕が立つのか?」伯爵が眉を上げる。


「ち、違います! 新しく来たあの女が……城壁の上で……城楼より大きな火球を呼び出し、一帯を焼き払ったのです!」


「……っ!」会長の瞳が鋭く光り、部下に無言の警告を投げる。


だが伯爵は一拍置いた後、低く笑った。

「フハハ……なるほど。街が騒がしいわけだ。あの娘……面白い」


「彼女はまだ見習い冒険者。力も安定していません。公にすべきではない」

会長の声は冷ややかだった。


「見習いで天火を? ますます興味深い。明日の夜、私の邸に連れて来い」


「伯爵、それは――」


「明日だ。」

低い声ながら、誰も逆らえぬ威圧が広間に満ちる。

「城壁を支えている財が誰のものか、忘れるな」


会長は唇を噛み、静かに頭を垂れる。

「……承知しました」


――公会宿舎 · 夜


夜の帳が降り、酒場の喧噪だけが遠くで響いていた。

ハイシンはベッドに枕を抱え、ゴロゴロ転げ回っていた。


頭に浮かぶのは――

――「ファイアーボールくらえぇぇ!」と叫んで声を裏返した自分。

――ぽかんと口を開けた守備兵たち。

――「救世主だ!」と騒ぐ声と「魔女だ!」と罵る声。


「ウワアアアア! 完全に終わったぁぁ! ただの社畜ルートのはずなのに、なんで救世主ルート突入なのぉぉ!?」


バタンと枕に顔を押しつけてジタバタしていると――

「カチャッ」

ドアが開き、冷たい気配が流れ込んだ。


逆光に浮かぶ会長のシルエット。

長い外套をまとい、氷刃のような視線がハイシンを射抜く。


「ヒィッ……! か、会長……その……火球、ちょっと大きすぎました、かな……エヘ」


会長は無言で手袋を外し、机に「パシン」と叩きつける。

背を向けたまま、冷たい声を落とした。


「明日。領主邸に行くわ」


「ハァァ!? りょ、領主!? なんでそんな大物が私なんかにぃぃ!?」


「今日のお前の行動は街中に知れ渡った。伯爵の命令を、私が拒めると思うか?」


「で、でもあれは事故で! 火球が勝手にデカくなって! ウワワワワ!」


会長の視線が突き刺さり、空気が凍りつく。

やがて彼女は低く呟いた。


「私は必死で流言を抑えた。『神の使い』と崇める者。『魔王の手先』と罵る者。『災厄の魔女』と恐れる者。――たった一発の火球が、街を真っ二つにした」


ハイシンの心臓がドクンと跳ね、肩をすくめる。

「で、でも! 私が撃たなかったら、城門は破られてたんだよ!」


会長は瞳を細め、わずかに声を和らげた。

「否定はしない。ただ――力を抑えねば、必ず狙われる。この世界は……お前が思っているより遥かに狡猾だ」


その一瞬、彼女の目に浮かんだのは責めではなく、隠しきれない憂慮だった。


ハイシンは胸がチクリと痛み、けれど顔を枕に隠して叫ぶ。

「ウワワワ! でも明日、領主邸なんて絶対イヤァァ! どう考えてもエロトラップだよぉぉ!」


会長の目がさらに冷える。

「私がいる。誰にも触れさせない。ただ……お前自身が余計な真似をすれば、私でも庇えない」


布団の中でハイシンは絶叫する。

「ウワアアアア! なんで異世界って社畜よりブラックなのぉぉ!」


会長はその震える布団を見下ろし、胸の奥で静かに思った。

――誰にも渡さない。この光は。

ドレス姿でエレンの前に現れて、まさかのお茶吹き。

空気は完全に社死モード。

でも会長の冷たい一言で、次章への不穏な予感を残します。


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