第14章 A 独角の魔人
みなさん、こんにちは。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです
第14章 独角の魔人
——北境古代遺跡 · 中庭
灰雲が頭上を覆い、冷たい風が崩れた穹頂から吹き込む。折れた石柱は枯骨のように空を突き、地面はひび割れと焦げ跡に覆われ、元の紋様はもう判別できない。空気には鉄臭さと甘ったるい血の匂いが混じり合い、本能的に心臓を締めつけた。
ハイシン、アレン、メアリーの三人は中庭に立つ。背後には崩れた拱門、そして正面にはゆっくりと歩み出る独角魔人。赤い瞳は炎のように燃え、長槍の穂先は黒霧の中で冷たい光を放っていた。
魔人はすぐには攻めず、ただ獲物の震えを楽しむかのように静かに見つめていた。風が唸り、石屑がぱらぱらと落ち、広い中庭には圧迫感のある沈黙が響く。
メアリーが先に動いた。腰のポーションを取り出し、半分を一気に飲み干すと、胸元に淡い光が浮かぶ。彼女は目を上げ、低く鋭い声で告げた。
「……気をつけて。この男、普通じゃない。さっきまで横にいたのに、次の瞬間には背後。これは単なる速度じゃない。」
アレンは汗を滲ませ、大剣を握り締めて頷く。
「同感だ……影すら捕らえられなかった。瞬きする間に消えて、また別の場所に現れる。」
ハイシンは喉が渇き、手のひらが冷汗で濡れるのを感じる。心の中で叫んだ。
「うわわわ! これ、人間の動きじゃないでしょ!? 完全に瞬間移動じゃん!!」
だが口では意地を張り、歯を食いしばって低く呟いた。
「ふん……くだらない見せかけね……」
独角魔人はそれを聞き、唇を吊り上げる。低く響く笑い声が中庭に轟いた。
「どうした、人間。これが貴様らの限界か?」
鉄を擦るような耳障りな声。「私の力の一割すら見抜けず、もう恐怖に震えるか? ハハハ……」
長槍をゆっくりと掲げると、穂先が空気に赤黒い残光を残す。だがその足音はなく、空間を「ずらす」ように近づいてくる。
「来ないのか?」赤い瞳が三人を射抜く。殺気が実体のように押し寄せた。
「ならば……こちらから行くぞ!」
次の瞬間、黒霧が爆ぜ、魔人の姿は掻き消えた。戦鼓のような轟音が沈黙を打ち砕いた——
黒霧が渦巻き、息苦しいほどの重圧が満ちる。ハイシンが息を止めたその瞬間、独角魔人の姿が「歪む」ように一閃し、次の瞬間にはアレンの目の前に現れた。長槍が耳を裂く破風を伴い、直線で突き出される!
アレンの瞳孔が縮む。ほとんど本能だけで大剣を振り上げ、鋼と鋼がぶつかり火花が散る。衝撃は全身を揺らし、足先で石板を削りながら半歩押し戻された。
魔人の双眸がわずかに輝き、唇が吊り上がる。
「ふん……悪くない。至近距離でこれを防ぐとは、少しは骨があるな。」
アレンは返さない。目は鉄のように冷え、大剣を震わせて長槍を弾き飛ばす。すぐさま連続斬撃を放ち、刃は嵐のごとく交差して空間を切り裂き、魔人の逃げ場を少しずつ封じていく。
魔人は槍身で受け、黒霧を震わせながら応じる。余裕は崩さぬものの、その瞳の奥にはわずかな愉悦が浮かんでいた。
「ほう……正面から押してくるか。思ったよりは持ちこたえるな。」
その時、メアリーが踏み込み、蒼い気流を掌に凝らす。風の魔力が拳を包み込み、次の瞬間、嵐のような連打が炸裂。拳が振るわれる度に轟音が響き、石板に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
「はっ!」冷たい声と共に、拳影は嵐のごとく押し寄せる。
だが魔人の表情は揺るがない。姿は明滅し、目の前でアレンと渡り合っていたはずが、瞬きする間に別の位置へ「転移」するかのように移動する。長槍で受け流し、あるいは身を翻し、二人の攻撃を寸分違わず捌いていく。
後方でハイシンは杖を握りしめるが、まだ動けない。
「うわわわ……この速さ……消えては現れる、この感覚……全然理解できない!」
奥歯を噛み締め、胸の内に無力感が溢れる。無闇に魔法を放てば仲間を巻き込む。だが——力の差は残酷なほど鮮明だった。
中庭では鋼と風の衝撃が連続し、石片が飛び散り、古き壁は震える。三人と魔人の影が交錯し、剣閃、槍影、拳撃が黒霧の中で閃き、戦場は瞬く間に白熱へと突入した。
刀光と槍影が折れた石柱の間で閃き続ける。アレンと魔人の鋼鉄の衝突音は、まるで戦鼓のように中庭全体を震わせた。砕けた壁面からは石片がぱらぱらと落ち、黒霧が渦巻き、残された文様を覆い隠す。
三人と魔人はすでに幾度も交錯し、その速さはハイシンの目では追えないほどだった。彼女は必死に凝視するが、アレンの一撃を数える間に魔人の姿が「呑み込まれる」ように歪み、次の瞬間には別の角に現れる。
「うわわわ……この速度……目が追いつかない!」
心の中で叫ぶも、前衛二人が視界を塞ぐ以上、無闇に魔法を撃てば仲間を巻き込む。彼女は必死に杖を握りしめ、踏みとどまった。
アレンは冷静に剣を振るい続ける。大剣で軌道を制圧し、魔人の瞬きのような移動を狭い弧に追い込んでいく。汗が額を伝うが、視線は逸れない。
魔人は冷たく笑い、長槍を殘像のように振るい軽々と受け止める。
「ほう? やはり……限界はここか。」
その声音には嘲りしかなかった。
その瞬間、メアリーが踏み込む。背中の傷は薬で止血したものの、深層の痛みは残っていた。額には汗が浮かび、呼吸も乱れ始めている。それでも彼女は歯を食いしばり、拳に風の魔力を纏わせた。
「はあっ!」
拳影が連なり落ちるたびに爆ぜる音が響き、床石に亀裂が走り、石片が雨のように散る。疾風は渦を巻き、中庭全体を揺らした。
だが魔人は慌てない。黒霧に身を溶かすように瞬き、アレンと打ち合っていたはずが別の位置に現れ、槍で受け流し、かわし、二人の攻撃を嘲笑うように捌いていく。
メアリーの動きが一瞬遅れる。背の痛みが限界を超えたのだ。その隙を魔人は見逃さなかった。
「ふん……誰かが持たなくなったようだな。」
赤い瞳に狩人の光が宿る。
「この男……私の状態を見抜いた!? ありえない!」
メアリーが動揺する間もなく、槍が横薙ぎに振るわれた。
「ハッ!」
狂風の翼のごとき一撃に、アレンは数歩弾き飛ばされる。踏ん張り体勢を立て直すが、その間に魔人はメアリーへ迫る。槍尖は幻影のように連打し、彼女は必死に受けるが、傷が再び裂け、袖と鎧に切り傷が刻まれ、血が石板に滴る。
「くそっ!」
アレンが踏み込み、巨剣を振り下ろす。
「邪魔だ!」
魔人の左掌が放たれ、風の渦が爆ぜ、アレンを吹き飛ばした。靴が石を削り、深い溝を刻む。
槍が再びメアリーを狙う——その刹那、彼女は反転し、風を纏った拳を魔人の胸元に叩き込んだ。
「——っ!」
魔人は肩を抉られ、黒霧の中に赤い飛沫を散らす。よろめき後退し、怒りの咆哮が響く。
「卑怯な人間め!!!」
メアリーは口元の血を拭い、冷ややかに笑う。
「ここは戦場よ。おとなしく待って殺されると思った?」
空気は一層張り詰め、黒霧と風圧が石柱を軋ませる。
石柱がきしみ、雲は押し潰すように垂れ込めた。石板は剣痕と拳痕で裂け、焦げた匂いを漂わせる。
ハイシンは魔人がよろめく姿を見て、胸が高鳴る。
「今だ!」
掌に雷光が走り、瞬時に幾筋もの稲妻が交錯し、中庭を蒼白に染める。轟音が大地を揺らし、石柱を粉砕した。
魔人の瞳孔が収縮し、黒霧が爆ぜて瞬移する。雷撃は空を切り、柱を崩壊させた。
「小娘が!」魔人が低く唸る。
メアリーが畳みかける。疾風の拳が続き、石板を砕きながら襲いかかる。魔人は長槍を舞わせ防ぐが、黒霧は乱れ始める。
次の瞬間、彼の姿が消え、現れたのはハイシンの目前。槍尖が心臓を狙う。
「煩わしい! 死ね!」
「ハイシン!」
アレンが咆哮し、巨剣を振り抜いて割って入る。火花が飛び散り、金属音が中庭を揺らす。
アレンは力を込め、剣を叩きつける。魔人は後退し、石板が砕ける。
「……ちっ!」
その背へメアリーが迫る。拳風が直撃する寸前、魔人は瞬移で横に逃れ、槍を蛇のように突き出した。
「はっ!」
メアリーは左手で槍を払い、右掌に気を凝らして叩き込む。
轟音とともに魔人の身体が揺れ、鮮血が飛び散る。
「ドン——!」
彼は崩れた壁に叩きつけられ、石が崩落し、砂塵が舞い上がる。
静寂が訪れた。落石の音と荒い息だけが響き、稲光の余韻が血と焦げの匂いに混じり、古代遺跡は地獄の戦場と化していた。
石壁が崩れた塵煙がまだ渦を巻き、厚い幕のように場を覆っていた。三人は息を詰め、心の奥で「これで終わっただろうか」と思っていた。
だが黒霧の奥から低い嗤い声が響く。
「ふん……悪くない。私を傷つけるとはな。しかし——」
赤い瞳が煙の中で鬼火のように光り出す。
「——本当の戦いは、今からだ!」
ハイシンの心が跳ね、頭の中でただ一つの声が響く。
「うわわわ……マズい! まだ切り札があるの!?」
煙が晴れぬうちに、魔人の姿が黒霧に引かれるように一閃し、気配が一気に迫る。長槍はすでに横に構え、槍身に暴風の気流が纏わりつき、風圧が唸り、槍尖が振り下ろされる前に石板がひび割れた。
アレンとメアリーは一気に決着をつけるつもりだったが、その一撃をまともに迎えた。
「究極風刃——破!」
長槍が横薙ぎに放たれ、気流は巨大な風刃となって中庭を横断。石柱が列をなして折れ、石片が雨のように降り注ぐ。
「——っ!」
アレンは歯を食いしばり大剣で受け止め、両腕が痺れる。
メアリーも拳を交差させ風のシールドを張るが、その圧力に血が逆流し、背の傷が裂けるように痛んだ。
「くっ……!」膝が揺らぎ、護身の気旋が弾ける。
轟音が消えた後、二人はその場に立ち尽くし、胸が激しく上下し動けない。
「好機だ!」
魔人の瞳が冷たく光り、殘像のように走ってアレンの目前に迫る。長槍が唸りを上げて振り下ろされ、彼を断壁へと叩きつけた。
「アレン!」
ハイシンが叫ぶ。心臓が掴まれるように強張り、思わず手を伸ばすが何もできない。
魔人は倒れたアレンを追わず、赤い瞳でなお戦えるメアリーを射抜く。
「一人ずつ潰せば、お前たちの連携などもう無い!」
槍尖が風圧を纏い、胸元を狙って突き出される。
「くっ……!」
メアリーは必死に避けようとするが、背の痛みと逆流する血で一瞬遅れる。
「ズブッ!」
長槍が腹部を貫き、血が飛び散る。
メアリーは呻き、口から鮮血を吐き、石板に血の跡を残しながら吹き飛ばされる。
ハイシンの瞳孔が縮まり、喉から震える声が漏れる。
「だ、ダメ……何かしなきゃ!」
煙と血の匂いが交じり、空気が凍りつく。
魔人は肩口の傷から血を滲ませたまま、冷たい笑みを浮かべて低く吠える。
「人間……お前たちは本当に私を怒らせた。今こそ見せてやろう……真の絶望を!」
黒霧が狂ったように渦を巻き、長槍に纏う風圧は目に見える渦流となり、遺跡ごと引き裂かんばかりに荒れ狂う。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
みなさんの応援が、次の物語を書く大きな力になります。
もし気に入っていただけましたら、ぜひブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次回更新:9月27日 19:00 JST
どうぞお楽しみに!




