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第3話 A 小さな太陽

「ギルドマスターが退場し、ついにハイシン初の魔法レッスンです!」

ギルドマスターは冷たい視線でハイシンを睨みつけ、まるで自分の手で試練に押し出そうとしているようだった。

そのとき、従者が慌ただしく駆け寄り、耳元で何事か囁く。


彼女は眉をひそめ、唇をきゅっと結ぶ。そして、鉄を削るような不快な舌打ちを放った。


「……チッ。領主の呼び出しだ。本当は自分の目で見届けるつもりだったが――仕方ない。老いぼれ、お前に任せる。ついでに魔法の使い方も教えてやれ」


ハイシンはぽかんと固まる。

――えええ!? まさか来ないの!?

《なに今の視線!? “ちゃんと生きて帰ってこい”みたいな雰囲気!? わ、私はペットじゃないからな!!》


ギルドマスターが去ると、あの圧迫感も少しずつ消えていく。


老魔導師ハイオが杖を突きながら前に進み、しゃがれた声で言う。


「お前の魔力はあまりに大きい。そのまま放っておけば、すぐに災いを呼ぶだろう」


「え、ええ? そんなに大げさ?」

ハイシンは腰に手を当て、顎を突き上げる。


老魔導師が杖を掲げると、杖先に炎が灯った。

それは宙で回転し、小さな火球となり、やがて槍のように伸び、最後には火花になって散る。


「魔法の本質は“イメージ”だ。槍と思えば貫く。剣と思えば斬る。矢と思えば遠くまで飛ぶ。ただ爆ぜろと願えば、火球となる。心の形次第で、魔法の形も変わる」


「う、わー……」

思わず声が出てしまい、慌てて顔を引き締める。


「ふん、知ってたし。別に大したことじゃないし」

《なにこれ、イメージで自由に切り替え!? かっこよすぎ! 呪文とかいらないの!? 完全に私向きじゃん!》


老魔導師は低い声で続ける。


「魔力は呼吸のように体を巡っている。静かに心を澄ませ、感じ取れ」


ハイシンは目を閉じ、深呼吸。……十秒後、目を開けてきょとん。


「んー……なんとなく分かったような……いや、全然分かんない!

え、なにこれ? 聞いたのに分からないって逆にすごくない!? 説明になってないから!!」


老魔導師の髭がぴくりと震え、杖でドンと地面を叩く。

「馬鹿娘! ちゃんと聞け!」


彼は骨のように痩せた掌を差し出し、真剣な声で語る。


「自分の身体を古井戸だと思え。心臓は泉、呼吸は風穴。

魔力は泉の水だ。恐怖すれば濁り、暴れて溢れ出す。だが、心静かなら澄んだ流れとなる。

意識を腹の奥――お前の“根源”に沈めろ。そこが術者と世界を繋ぐ座標だ。流れを感じ、掌へ導け。そうして初めて魔法は形を持つ」


老魔導師の掌に光が灯り、小さな炎がふっと浮かび上がった。


「えええ!? そういうこと!? 私、太陽に向かって瞑想とかしなきゃいけないのかと思ってたんだけど!」


言われた通りに腹の奥に意識を沈めると、温かい流れが集まってくる。

《うわわわ……本当に動いてる……! なんか体の中に小さなストーブできたみたい!?》


火がふっと掌に宿る。彼女は思わず跳ねそうになり、必死に澄ました顔を作る。

「ふ、ふん。こんなの楽勝だし。誰でもできるし」

《やばいやばい! 手毛焦げるかと思った!! こわっ!》


「……すごいじゃないか」


低い声に振り向いた瞬間――


「ひゃっ!」

思わず火が消えそうになり、慌てて手を振る。


そこにはアレンが立っていた。いつの間にか近づいてきていたらしい。陽光を反射する甲冑姿の頬が、緊張で赤い。


「い、いつからそこに!? 心臓止まるっての!」

《なにこの無音接近! フル装備で忍者!? 怪物かと思った!》


アレンはぎこちなく頭を下げ、結結巴巴に言う。

「ご、ごめん……ただ、励ましたかっただけで……」


《なにこれ、めっちゃ緊張してる!? 顔真っ赤じゃん……あ、これ絶好のからかいチャンス!》


「ふーん、突然出てきて“励まし”ねぇ? 実は覗きに来たんじゃないの?」


「ち、違う! そんなことない!」

耳まで真っ赤、今にも湯気が出そう。


ハイシンは指先で甲冑にくるくる円を描きながら、にやり。

「ふふん~。じゃあなんでそんな顔真っ赤なの? ほらほら、正直に言ったら?」


「な、ないってば!」

アレンは石像のように固まり、顔を背ける。


ハイシンは爆笑しながら腰を折った。

《やばっ! この人からかうの楽しすぎ! すぐ赤くなるんだもん!》


「……こほん」

老魔導師の咳払いが響き、場が一気に冷めた。


三人はギルドの外へ。馬車が待っていた。


ハイシンは勢いよく飛び乗り、板がドンと鳴る。二郎足を組み、腰に手を当て、ぷりぷり文句。

「なにこれ硬っ! 座るたびにケツ割れるわ! 最悪!」

《うわわわ……マイカー恋しい……クッションと冷房のありがたみよ……!》


アレンはぎこちなく隣に腰を下ろすが、顔はまだ真っ赤。

「ふふん、まだ赤いよ? ほら、もう一周ぐるぐる描いてあげよっか?」


「い、いい! いらない!」

彼は慌てて窓の外を凝視。

《だ、だめだ……二郎足……反則……視界に入れたら死ぬ……》


ハイシンは口元を押さえながらくすくす笑う。


だが老魔導師が低く言い放った。

「いい加減にしろ。門の外は戦場だぞ」


ピタリと口を閉じるハイシン。だが口元はどうしても緩んだままだった。


車内の空気はしばし沈黙。


やがてアレンがおずおずと口を開いた。

「そ、その……ハイシンさん……」


「ん?」


「き、君と……これから一緒に戦うなら……もっと、お互いを知ったほうが……」


「ふふん、なるほどね。じゃ、自己紹介タイムだ!」


アレンは真っ赤になりながら答える。

「ぼ、僕はアレン・スタッド。北方の鉱山村の出身……十六で冒険者になって……今は、戦士です」


「ぷっ……真面目すぎ! 面接会場かよ!」

《やば、ガチ新卒面接感! お堅い!》


「じゃ、私の番ね。

名前はハイシン、二十歳。趣味はアニメを追うこととゲーム三昧、あと部屋に引きこもってカップ麺! 好きな食べ物はフライドチキンとコーラ! 嫌いなものは仕事! 夢はー……寝転びながらお金が降ってくること!」


……沈黙。


アレンの笑顔が凍りつき、目が泳ぐ。

「ア……ニメ? ゲーム? カップ……麺?」


「ぶははは! やっぱり分かんないでしょ! その顔、村の爺ちゃんが外国語聞いたときと一緒!」

《やばっ! 絶対呪文だと思ってる!》


アレンは頭をかき、耳まで真っ赤。

「その……“アニメ”って、狩りの一種? どんな獣を追うんだ?」


「狩りじゃないわ! 映像! 動く絵!」


そこで老魔導師まで口を挟む。

「ふむ……“ゲーム”とは? 電撃魔法と動力の複合術か?」


「ちょ、違うから! ただの娯楽! 幻術みたいなやつ!」


「幻術? 敵を倒せるのか?」アレンが真顔で問う。


「……倒せるのは肝臓だけ!」


「肝臓……? 魔物の名前か?」

「うむ……厄災級かもしれん」


「ぶはははは! ちがーう! やめて! 笑い死ぬ!!」


馬車の中は大混乱。ハイシンは涙目で転がり、アレンは混乱の極み、老魔導師は真剣に頷いていた――。

「ここまで読んでいただきありがとうございます! 次回はいよいよ城門での初陣です!」

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