第12章 B 港町の影
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——ギルド · 応接室
重い扉が「ギィ」と開く。
壁には古い真鍮灯、揺らぐ炎が輪を描く影を落とす。
中央には分厚い長卓。表面の剣痕と煤の斑が、幾度もの険しい議論を物語る。
三人は並んで腰を下ろし、メアリー(メアリー)が端的に来意を述べる。
ボルド(ボルド)は黙って聞き、すぐには口を開かない。
狭い室に重い呼吸だけが響き、眉はさらに険しく。
やがて卓脇の木箱から黒い石を取り出し、ドンと置いた。
「……これを見たことは?」
——「トン」。
黒石は半回転して止まる。
表面は冷たい光を帯び、靛色の不穏な霧がうっすら滲む。
灯火に照らされた影は、まるで自ら蠢き、内側で何かが囁くかのよう。
アレン(アレン)とメアリー(メアリー)は息を詰め、警戒と疑念の色。
だが白忻の胸に稲妻が走り、思わず口が先に。
「……暗影の欠片。」
言い終えると同時に、空気が固まる。
アレン(アレン)が鋭く振り向く。
「白忻……どうしてそれを——」
メアリー(メアリー)も目を細め、驚きを隠せない。
「知っていたの?」
白忻はハッとして口を押さえ、心臓バクバク。
心の声(白忻):
「うわわわ! 終わった! なんで自分から言っちゃうの私! “ワケあり”自己申告じゃん!」
ボルド(ボルド)は「ふむ」とだけ。灰の瞳が白忻を静かに掃く。
「その通り。暗影の欠片だ。年若いのに、名を言い当てるとはな。」
白忻の脳裏に、伯爵邸の夜が閃く。
揺れる蝋火、溢れる黒霧、呑み込まれかけたあの瞬間——同じ欠片。
掌に汗、引きつった笑みを無理やり貼る。
心の声(白忻):
「うわわ……どこ行ってもコイツ出てくるの!? この世界、“暗影欠片オンラインRPG”なの!?」
その時、扉がそっと開く。
先ほどの受付嬢がうつむき気味に入ってきて、ずしりと重い袋を会長の手元へ置き、目も合わせず足早に退室。
「チリン」と金属の触れ合う音。
ボルド(ボルド)は袋の口を解き、金属の札を数枚取り出す。
灯に鈍く光る——冒険者の身分金札。刻まれた名と番号。
白忻は息を呑み、アレン(アレン)が低く問う。
「……『銀翼』の金札、ですか。」
卓上に四枚。黒石の隣で静かに横たわる。
冷たい金属光と暗影石が相互に影を落とし、室内の圧はほとんど窒息へ。
アレン(アレン)は険しく、掠れた声を絞る。
「……『銀翼』は、もう……。」
ボルド(ボルド)はゆっくり頷き、顔に陰を落とす。
「確かに、彼らは既に……」
言葉を切り、深く息を吸い、三人を見渡す。
「だが、話はそれだけでは済まん。」
灯が「パチ」と跳ね、壁の影が伸びる。
見えない何かが覗いているかのよう。
白忻の背に冷たいものが走り、肩をすくめる。
心の声(白忻):
「うわわ……この空気、怖すぎる! 今すぐダッシュで撤退したいんだけど!!」
——目撃者報告
——表紙は血で黒ずみ、紙の縁は波打っている。インクは斑になり、書き手の手が震えていたのが見て取れる。
ギルド会長ボルド(ボルド)はそれを三人の前に広げ、節で卓をコツンと叩いて低く言った。
「三週間前、唯一生き残った冒険者の記録だ。自分の目で見ろ。」
『生存冒険者・手記』
記録者:匿名(重傷で臨終、署名なし)
……依頼を終えて帰路、古い遺跡のそばを通った。
遠くに人影。入口に立ち、身体は揺れ、片足を引きずっている。
我々は負傷した冒険者だと思い、急いで駆け寄った。
——彼はゆっくりと振り向いた。
神よ……その顔。半分は人、もう半分には黒い鱗が生え、目は真紅。灼かれたように。
口は引き裂かれたみたいに途切れ途切れで、「……助けて……」と。
思わず肩を支えようと手を伸ばした。次の瞬間、彼は刀を抜き、空を裂いた。
隣の剣士が斬られ、血が噴いた。
なのに彼は同時に叫んだ。「すまない……来るな!」
剣光と懇願が重なり、正気と狂気が交錯する呪いのようだった。
我々は……選べなかった。——彼を、終わらせた。
(インクは震え、次の段は大きな血痕で滲む。辛うじて文字の形が追える。)
……血の足跡を追い、遺跡の門へ。
三人の冒険者が外で倒れていた。無惨。目は見開かれ、瞑れぬまま。
胸、腕、そして喉元に……同じ黒い欠片が刺さっていた。
それは暗紫の光を放ち、遺骸を呑み込もうとしているかのよう。
今にも手を伸ばし、我々を引きずり込むかのように——
——記録はここでぷつりと途切れる。インクは「影」の字を半分書いたところで止まり、最期の瞬間まで抗っていたかのよう。
机上の綴りはわずかに震え、墨痕がまだ温いと錯覚させる。
白忻は「助けて……ごめん……」の行に目が釘づけになり、伯爵の歪んだ顔が閃いた。
——心の声(白忻):
「うわわ……あの日と同じ! 伯爵もこれで狂った……欠片は人を狂わせて、そのまま……全部、制御不能に……!」
背中に冷汗。手は椅子の縁をぎゅっと握る。
ボルド(ボルド)は綴りを閉じ、重い面持ちで言う。
「これが生存者の報告だ。『銀翼』は……遺跡に葬られた可能性が高い。だが事態は、それだけじゃない。」
応接室の灯が揺れ、壁の影が伸び縮みする。ボルド(ボルド)は黒い石を三人の前へ押しやり、低く続けた。
「これは我々が——暗影の欠片と呼ぶものだ。普通の鉱石ではない。百年前のネクソス災変の置き土産。魔王の死後に砕けた魔核の破片が、死地の陰能に染み切った。触れた者は、遅かれ早かれ蝕まれる。」
一拍置いて、三人を見渡す。声はさらに沈む。
「初めは心を誘惑する。力、持久、剣技も魔法も異常に増幅される。だからこそ、愚かな冒険者や貴族が“近道”として隠れて用いる。」
拳が鳴り、節がコキリと響く。
「だが時間が経つほど、肉体は魔化し、鱗や骨刺が生え、理性は喰われる。最後は……完全な怪物。剣士だろうと魔導師だろうと、結末は一つ——仲間の手にかかって斬られる。」
アレン(アレン)が眉間に皺を刻み、低く。
「つまり、『銀翼』は……」
「そうだ。」ボルド(ボルド)の声は重い。
「報告によれば、彼らは遺跡前で仲間の急激な魔化に遭った。“助けてくれ”“来るな”と叫びながら斬りかかる。残った神智と暴走が交錯し、誰にも救えない。」
灯りが顔に影を刻む。
「入口で見つかった遺体は、全員に同じ欠片。つまり——暗影の汚染はすでにこの土地へ滲んでいる。誰かが裏で流しているなら、どんな魔物災潮より厄介だ。」
白忻は反射的に拳を握る。脳裏を伯爵事件の狂相が過ぎり、肌が粟立つ。
——心の声(白忻):
「これ、あの日と完全一致じゃん! 欠片は人を壊して、怪物に……! ひえぇ、鳥肌……!」
ボルド(ボルド)は気にも留めず、空気を押さえ込む低音で締める。
「だから言った。『銀翼』の崩壊は行方不明ではない。暗影の災いが広がっている。三人とも、この調査を負うなら、いつ“同袍”が怪物として立ち塞がっても受け止める覚悟がいる。」
室内は静まり返り、灯の「パチパチ」だけが微かに。
——応接室・続
沈黙を破ったのはメアリー(メアリー)。冷静だが、眉根は深い。
「……妙ね。なぜ隊全体で半魔化が同時多発? 欠片の汚染は確かに恐ろしいが、通常は時間がかかる。『銀翼』は一月で全滅し、全員から欠片……」
声はさらに沈み、思索の光。
「背後に“人為”がある。誰が流通させ、なぜ冒険者を狙う?」
白忻は首をすくめて小声で毒づく。
「わわわ……推理早っ! 名探偵さん、犯人のフルネームまで当てちゃう? まだ着いたばっかだよ!」
メアリー(メアリー)は横目で一瞥するだけ。黙殺。
アレン(アレン)は拳を膝に置いたまま沈黙していたが、やがて顔を上げる。炎より固い光。
「誰が相手でも……同業の死を見過ごせない。引き受けた以上、真実を持ち帰る。」
昂ぶりはない。だが動かない芯が通る。
ボルド(ボルド)は小さく頷き、さらに厳しい顔になる。
「ゆえに帝国はとっくに暗影の欠片を禁制にした。所持、売買、研究、いずれも重罪。狂わせるだけじゃない。“伝染”もする。広まれば、都市ひとつが機能不全だ。」
白忻は背筋を冷やし、内心で吠える。
——心の声(白忻):
「核廃棄物にゾンビウイルス乗せんな! そりゃ禁制だよ! ってか私、もう二回も遭遇してるの!? なんの呪い!?」
ボルド(ボルド)は綴りを閉じ、深く吐息。何かを降ろしたようだった。
「遺跡は最北の海岸。そこは年中霧が濃く、船も近づかん。調べるなら、まずはそこだ。」
立ち上がる背は大きいが、炎の陰で疲れて見えた。
「大言壮語はしない。お前たちは所詮、よそから回された三人だ。生きて帰りたいなら慎重に。消息を持ち帰るだけで、命を捨てるより価値がある。」
一拍置き、乾いた一言を継ぐ。
「せめて……『銀翼』より遠くまで辿り着け。」
重みが一瞬、室内を押し潰す。
白忻は椅子に沈み、「うわわ! それ、祈りというかフラグ!」と心で悲鳴。
——街路 · 黄昏
背後でギルドの重い扉が「ドン」と閉まり、室内の圧が切れる。
石畳に戻ると、潮の冷たさがあるのに空気は軽い。
夕陽が水平線に沈み、空は橙と紫に染まる。港の鐘、網を上げる声、木箱の衝突音。魚売りは最後の一篭を急ぎ、子どもは海鳥の影を追う。喧噪は続く。
白忻は長い息を吐き、両手を伸ばす。
「うわわわ——やっと出られた! あの部屋、窒息案件! ボルド(ボルド)の視線、上司会議の三倍怖い!」
胸をさすりつつ、まだ引きずる顔。
メアリー(メアリー)は腕を抱え、静かに。
「確かな情報は得た。『銀翼』は既に望み薄。次は北の遺跡。」
視線は遠く、灯台の光が瞬く。
アレン(アレン)は短く黙考し、低くも確かに。
「どうあれ、行く。かすかな希望でも、同胞の痕跡は捨てない。」
白忻はそっぽを向いて小声で。
「ふん……英雄みたいに言っちゃってさ……」
——心の声(白忻):
「でも……こういう時のアレン、ほんと頼れる……って何考えてんの私!」
灯りがともり、三人は人波へ。長く伸びた影は喧噪に紛れ、宵に溶けていく。
新たな調査は、北の濃霧の海岸で幕を開ける。
——北の海岸 · 夜 · 遺跡
濃霧の夜、砕けた石段に波が絶え間なく打ちつける。
海鳥が悲鳴を上げて飛び散り、潮に混じる血の匂いは折れた石柱の間に長く留まる。
一角の魔人が佇む。背の長槍は月に冷たく光る。
彼は破れた祭壇に片膝をつき、低く呟いた。
「……隕鉄は一つ。足りぬのは? そうだ、鮮血。」
手を上げ、人間の頭部を掴む。まだ滴る血を刻まれた陣へと注ぐ。
血筋は石の継ぎ目を這い、魔力の紋と絡み、地面は不気味な暗紫に輝いた。
魔人の口角が釣れ、独眼に残忍な光。
「脆い種族だ……陣路の充填材にすら値せぬ屍ばかり。ふ、転送陣さえ完成すれば、我が功は同輩を凌ぐ。あの方も、私を見てくださる……」
風が唸り、霧が渦を巻く。紋の光はさらに強く。
魔人は闇へ顔を上げ、低く呟く。
「御方は……まもなく降臨なさる。」
言い終え、歪んだ笑み。
濃霧に包まれた遺跡は、深海の怪物がひそかに目を覚ますように、静かに脈動した。
——第十二章 終。
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