第11章 A · 出発
みなさん、こんにちは。
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——ギルド宿舎 · 朝
朝の光が廊下に差し込み、冒険者たちは三々五々、装備を整えて出立の準備をしていた。
広間では、アレン(アレン)が剣を背負い、柱のそばに直立していた。姿勢は真っ直ぐで、眉間には緊張が刻まれている。
メアリー(メアリー)はいつもの微笑みを浮かべ、任務書を閉じてから、時折二階を見上げていた。
約束の時刻はすでに来ている。
アレン(アレン)は落ち着かずに天井を仰ぎ見て、低く呟いた。
「……白忻、まだ下りてこないのか?」
メアリー(メアリー)の笑顔の端に、冷ややかな鋭さが閃く。
「ふふ……やはり、ね。」
優雅な足取りで階段を上がり、二階の扉を押し開けた。
——ガチャリ。
そこにあったのは、布団を蹴飛ばし、枕に顔を埋めたまま幸せそうに寝息を立てる白忻。
四肢を投げ出し、「んふ~」と小さな寝言を漏らすその姿。
メアリー(メアリー)の口元に柔らかな笑みが浮かぶが、その声色は鋭かった。
「立派ですね、白忻さん。約束の時間だというのに、まだ夢の中で海港都市に行くおつもりですか?」
「うわわわわ!? ご、ごめんなさい! いますぐ起きるから!」
白忻は飛び起き、髪を鳥の巣のように乱したまま、慌てて服を着替える。
「恥ずかしすぎる! 社畜時代は遅刻寸前で病欠って言い訳できたのに、異世界じゃ受付嬢に現行犯で捕まるとか!? 私の冒険者人生、オワタぁぁ!」
——心の声(白忻)。
転びかけた彼女にタオルを渡し、襟を直してやるメアリー(メアリー)。仕草は優しいが、声には冷たさが残っていた。
「見た目を整えても、中身がだらしなければ、任務で恥をかくだけですよ。……恥ずかしくないんですか?」
「す、すみませんっ! もう絶対に遅刻しませんから!」
顔を真っ赤にして連呼する白忻。
やっと身支度を整えた三人が大広間に戻ると、会長が入口に立っていた。
まだ癒えきらぬ傷を抱えつつ、灰色の瞳は冷冽で、その奥にわずかな温情が光る。
「任務に出れば、無理は禁物。耐えられぬ危険に遭遇したら、即座に戻れ。……わかったな?」
セリアの低い声が落ちる。
アレン(アレン)はすぐさま頭を垂れた。
「はい!」
白忻も反射的に頷き、だが口だけは強がる。
「ふ、ふん……私は無茶なんてしないから!」
メアリー(メアリー)は微笑を崩さず、恭しく一礼した。
会長の灰色の視線が三人を貫き、最後に白忻でわずかに止まり、それから静かに外へと移った。
——こうして、新たな旅路が幕を開けた。
——出発 · 城外の街道
重厚な城門を抜け、石畳の大路がまっすぐ続く。馬車の軋み、行商人の掛け声、駱獣の鼻息が混ざり合い、草原の風が爽やかに吹き抜ける。
白忻は背中の大きな荷袋を揺らしながら、早くも愚痴をこぼす。
「うわわわ……重すぎでしょこれ! 社畜時代のノートパソコンバッグのほうがまだマシだったよ!」
気を紛らわせようと、隣を歩くメアリー(メアリー)に話しかける。
「ねぇ、道中って暇だし、何か話そうよ! メアリーさんは普段どんな趣味あるの?」
メアリー(メアリー)は一瞬だけ笑みを消し、目元が氷のように冷えた。
「は?」
途端に広間での天使の笑顔は消え、無表情の仮面。
白忻は心臓が止まりそうになり、慌てて声を上げた。
「ひぃ!? な、なにその顔!」
メアリー(メアリー)は無感情な声音で言い放つ。
「今は勤務中ではありません。わざわざ笑っている必要はないでしょう。」
「わわわわ! 笑顔天使が一瞬で下班ゾンビに変身したぁぁ!?」
——心の声(白忻)。
空気が凍りついたその場を、アレン(アレン)が慌てて和ませる。
「気にするなよ……道のりは長いんだ。馬車に乗れば休めるから。」
白忻はホッとしたように息をつきつつ、そっぽを向いて強がった。
「ふ、ふん……私は疲れてないもん!」
——馬車 · 道中
車輪が石畳を刻む音が規則的に響き、車体がゆらゆらと揺れる。窓の外には草原が広がり、商隊や駱獣の列がすれ違うたびに土煙が舞う。
白忻は最初こそ元気にアレン(アレン)へ喋りかけた。
「見て見て! あの駱獣、鈴までつけてるよ! かわいい~!」
アレン(アレン)は苦笑しながらも説明を返す。まるで小学生の遠足のような賑やかさ。
だが一方のメアリー(メアリー)は窓外に目を向けたまま、冷たい無表情。
白忻は何度もチラチラ見ては心中で悲鳴を上げる。
「うわぁ……会長より圧があるじゃん! でもこのまま無言は気まずい……話しかけるべき?」
勇気を振り絞って声をかける。
「その……メアリーさん、大丈夫?」
メアリー(メアリー)はゆっくり首を傾け、冷たい瞳で睨むように見返し、一言。
「は?」
「終わったぁぁ!! 殺気がのってる! これ完全に地雷踏んだやつだぁぁ!!」
——心の声(白忻)。
慌てて別の話題をひねり出す。
「えっと、その……今回の任務って、自分の意志だって会長が……それってどういう意味?」
メアリー(メアリー)は一瞬だけ眉を上げ、冷ややかに吐き捨てる。
「あなたには関係ないでしょう。」
白忻は肩をすくめ、口をパクパクさせるだけ。空気は一気に氷点下。
だがしばらくの沈黙の後、メアリー(メアリー)の声が少し和らいだ。
「……さっきは言い過ぎました。」
白忻が驚いて顔を上げると、彼女は窓の向こうの雲海を見つめながら言葉を続けた。
「海港都市……あそこは、私の故郷です。」
「へぇぇ~! そうなんだ! じゃあ今回の任務、里帰りも兼ねてるってことだね!」
白忻が身を乗り出すと、メアリー(メアリー)は小さく頷き、再び静かな表情に戻った。
アレン(アレン)は胸を撫で下ろすように安堵する。
白忻はそんなメアリーを横目に見て、内心ニヤニヤ。
「ふふん……やっと人間味を見せたね、受付嬢さん!」
馬車は北へと進み、草原の果て、海港都市の影が遠く地平に霞んでいた。
——峡谷 · 危機勃発
隊商が通る峡谷は、両側の岩壁がそびえ立ち、陽光は斑に遮られる。風は狭い岩の裂け目を唸り、言いようのない不穏さを運んでくる。
突如、前方で耳をつんざく轟音が鳴り響いた! 大地が激しく震え、馬の蹄が一斉に跳ね、車輪は石道の上で激しくがたつく。
「な、何が起きたの!?」
白忻は馬車から放り出されそうになり、慌てて壁にしがみつく。
前方の商隊はすでに大混乱。
身の丈三丈を超える一つ目の巨怪が二体、道をふさぐように立ちはだかっていた。青灰の皮膚は石板のように厚く、独眼は凶光を燃やす。手には樹幹よりも太い棍棒。ひと振りごとに石屑が四散する。
護衛の冒険者たちが必死に迎撃するが、巨怪の膂力は常軌を逸していた——
「ドガン!」盾持ちの戦士が一撃で薙ぎ払われ、ぼろ布のように吹き飛び、馬車の板壁を砕いて転がる。息も絶え絶え。
「だ、だめだ! 逃げろ!」
御者と車主は恐慌状態で、転げるように白忻の馬車へ駆け込み、喉が裂けるほど叫ぶ。
「巨怪だ! ここに留まるな、命が惜しけりゃ逃げろ!」
しかしその叫びが、かえって巨怪の注意を引いた。二つの独眼が同時に動き、無傷の白忻たちを射抜く。石地を踏み鳴らす重い足音。圧が一気に迫る。
白忻は背筋が冷え、心臓が暴れる。御者が袖をつかみ、縋るように叫ぶ。
「早く! あなたたちじゃ無理だ!」
「白忻!」
アレン(アレン)が低く叱咤し、巨剣はすでに抜かれて冷光を放つ。
白忻は大きく息を吸い、強く頷くと歯を食いしばって馬車から飛び降りた。
「……社畜だって徹夜で爆走できる! たかが巨怪ごとき!」
心の声(白忻):
「うわわわわわ! 誰か助けてぇぇ!」
勇気を奮い立たせる間もなく、隣のメアリー(メアリー)が冷ややかに舌打ちし、躊躇なく地面へ身を投じる。
彼女はいつもの微笑みを捨て、刃のような冷眼で、うんざりした声音を落とす。
「うるさい。……一体はあなたたちに任せるわ。」
言うが早いか、地を蹴った彼女の姿が残像にほどけ、左手の巨怪へ一直線。
短刃が鞘走り、空を裂く。鷹の急襲のように無駄のない動作。
白忻は呆然、頭の中はひとつの言葉でいっぱい。
「……こ、これが本当の受付嬢? うそでしょ!?」
アレン(アレン)は剣を構え直し、沈着に告げる。
「白忻! 気を引き締めろ! もう一体は俺たちだ!」
白忻は歯を食いしばって頷く。指先に光紋が浮かび、青白い魔力が収束していく。
「ふ、ふん……怖じ気づくわけないでしょ! ここまで来たら、道端で助けを叫ぶモブにはならない!」
——かくして、峡谷に一つ目巨怪の咆哮と冒険者たちの鬨の声が轟き合う。
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次回更新:9月21日 13:00 JST
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