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第2章 · 冒険者ギルドの観察期

ブラック企業で日々残業に追われる社畜OL・白忻バイシン

気づけばデスクの上で眠り込み、目を覚ました場所は――剣と魔法の異世界!?

しかし最初の出会いでなぜか「パンツ悪魔」と誤解され、街の人々から奇異の目で見られることに……。

普通の女の子のはずが、検査によって判明したのは規格外の魔力。

仕方なく冒険者ギルドに加入させられ、社畜ライフの次は異世界で伝説(?)が始まる――。


勘違いコメディあり、シリアスあり。社畜OLの異世界サバイバル、ここに開幕!

第2章 · 冒険者ギルドの観察期


――ギルド会長の宣告


白忻ハクシン……その力は、決して無駄にはできない。君は怪物なんかじゃない。磨かれるべき宝石なんだ。」


彼女の瞳には、まず真摯な賞賛が宿っていた。稀有な希望を見つけたかのように、大切そうな色を帯びている。

だが、その熾烈な光の奥には、徐々に別の感情がにじみ出していく。


――それは単なる称賛ではなく、偏執に近い「独占欲」。

心の奥に刻み込むような誓い。この輝きは、誰にも渡さない。


白忻は思わず肩をすくめ、椅子に沈み込んだ。顔は真っ赤に染まっている。

心の声:うわぁぁ! 宝石って何よ! 私なんて残業で擦り減った社畜の小石だってば! その目……ちょっと危ないんじゃない!? 「弟子兼ペットにしよう」って目つきじゃないよね!?


沈黙していた監察官は、ようやく長く息を吐いた。

「……ならば、君に任せよう。彼女の力を放置すれば、いずれ災厄を招く。」


白忻は飛び上がらんばかりに叫んだ。

「ちょ、災厄って何よ! 私、そんな最終ボス顔してる!?」


衛兵たちは口をつぐんでいたが、その視線は明らかに「うん、ボス顔だな」と言っていた。


会長はそれ以上何も言わず、すっと手を差し出して白忻を立ち上がらせた。

「行くわよ。ギルドへ。」


拘留所はギルドの隣にあり、重い鉄扉を押し開けると、そこはまるで別世界だった。


石造りの広大なホール。高いアーチ天井から吊るされた鉄製のランプが炎を揺らし、任務掲示板には羊皮紙がぎっしり貼られている。新しい依頼もあれば、血に染まった紙も混じっていた。

冒険者たちは三々五々で集まり、杯を掲げて大声で笑う者、机を叩いて口論する者、討伐した魔物の角を抱えて報告する者。

ドワーフは樽を抱えて高笑いし、オークは無骨な刃を研いでいる。酒の匂い、血と汗の臭気が入り混じり、ここ全体が巨大な酒場兼傭兵市場のようだった。


鉄扉が開いた瞬間、ざわめきはぴたりと止んだ。

数十の視線が一斉にこちらへと注がれる。


「……誰だ?」

「服装が妙じゃないか。」

「噂の……ズボンを穿かない女ってやつか?」


白忻ハクシンの体は硬直し、顔がみるみる赤くなる。

心の声:うわぁぁぁ! 見ないでよ! 短パンとTシャツ、どこが変なの!?


彼女は小声でぶつぶつと呟いた。

「……そんなに見ても、噛みついたりしないから……」


だが声の大きさは、ちょうど前列の冒険者に聞こえる程度。

彼らは吹き出しそうになり、危うく酒を噴き出すところだった。


会長は全く動じず、笑い声も視線も無視して白忻を伴い、人混みを堂々と進んでいく。

白忻は必死に後ろで抗議する。

「ちょ、ちょっと! そんな早足で行かないでよ! 私の“社会的死亡ゲージ”もう振り切ってるからぁぁ!」


――会客室と属性テスト


二人が入ったのは静かな応接室だった。

机の上には、すでに異世界風の服と長靴が整然と並べられている。


会長が顎で示した。

「着替えなさい。いつまでも裸足で歩くわけにはいかないでしょう。」


白忻ハクシンは服を抱きしめ、顔をしかめた。厚い布に硬い革――見るからに蒸し暑そうで、動きにくそうだった。

「えぇぇ!? こんなの絶対暑いよ! 着たら蒸し焼きじゃん!」


会長は額に手を当て、ため息をついた。

「好きにしなさい。ただし靴だけは履くこと。草原を裸足で走れば、すぐに石で足を潰すわ。」


しぶしぶ長靴を履いた白忻は、歩くたびにぎこちない顔をした。

心の声:うぅぅ、重いし硬い! 私のスニーカー返してぇぇ!


会長が手を叩く。

「魔導師を呼んで。」


しばらくして、胸まで白い髭を垂らした老魔導師が入ってきた。杖には符文が刻まれ、歩みは遅いが、その眼光は鷹のように鋭い。彼が姿を見せるだけで、外の喧騒すら自然と鎮まる。


老魔導師はまず白忻を一瞥し、それから会長を見やる。

「……この者が、異界からの来訪者か。」


白忻は思わず胸を張り、わざとらしく鼻で笑った。

「ふふん、そうよ。珍しいでしょ?」


会長は咳払いして話を戻す。

「属性を測定して。」


杖の先が石床をなぞると、古代文字が浮かび上がり、やがて五角形の魔法陣を描いた。

五つの角には火・水・風・土・雷の紋章が淡く輝いている。


「これが最古の属性導陣だ。」老魔導師の声は重い。

「一つ灯れば凡才。二つなら稀才。三つ……私は生涯で一度しか見ていない。」


白忻は床を凝視し、心の声で叫ぶ。

えっ、これ完全にガチャ召喚台じゃん!? 踏んだ瞬間、異世界ダンジョンに飛ばされるとかやめてよ!?


会長の鋭い視線が突き刺さる。

「立ちなさい。」


「ひぃ……その目! 『さっさと派手なの見せろ』って言ってるよね!? わかった、わかったからぁぁ!」

渋々、白忻は陣の中心へ足を踏み入れた。


――「ブゥゥゥンッ!!」


床が鳴動し、五つの角が同時に爆ぜた。

炎が噴き上がり、水が奔流となり、風が唸り、雷が閃き、大地が盛り上がる。

五本の光柱が天へと伸び、天井で絡み合って眩い光網を描いた。衝撃で机や椅子が揺れ、空気が震える。


外の冒険者たちも光を目にし、一斉に騒然となる。

「ば、ばかな! 五属性が全部!? 」

「伝説の光景じゃないか!」


老魔導師は目を見開き、震える声でつぶやいた。

「……五つ同時に……そんな馬鹿な……!」


白忻は飛び跳ねるように叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待って! 私何もしてないよ!? 立ってただけだよ!? 爆発しないよね!?ねっ!?」


会長は彼女を凝視し、瞳に狂熱と独占欲を宿していた。口元には抑えきれない笑み。

「やはり……この力は……」


老魔導師は杖を震わせ、叫んだ。

「これは奇跡だ! この娘、いったい何者だ……!」


白忻の脳内は真っ白になり、手をぶんぶん振る。

「ちょ、ちょっと待って! 私ただの凡人だから! 変な称号とか付けないでぇぇ!」


――テスト後の反応


光が消え去ったあとも、部屋の空気には焦げたような震動が残っていた。

白忻ハクシンは隅に縮こまり、全身を震わせる。

心の声:うわぁぁ! これテストっていうより核爆実験じゃん! 新人扱いどころか、もう兵器認定されてるよ私!?


外のホールからはどっと騒ぎ声が響いた。

「五属性同時だと!? ありえん!」

「幻術だ! いや……雷が本当に走ってた!」

「まさか魔王の間者じゃ……?」


羨望、嫉妬、恐怖――視線が渦巻く。中には部屋に飛び込もうとする者まで現れ、衛兵が必死で押しとどめていた。


老魔導師はなおも震えながら呟く。

「五属性……これは奇跡だ……」


会長が一歩前に出て、獲物を射抜く鷹のような眼差しを放った。

「この者は、今この瞬間から――冒険者ギルドが直接監督し、保護する。誰一人として手出しは許さない。」


「はっ!」衛兵たちは一斉に答えた。


白忻は涙目で叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待って! 監督? 保護? それってどう聞いても“監禁”じゃん!」


会長はかがみ込み、視線を合わせる。その声は柔らかいが、圧迫感を帯びていた。

「白忻……君は囚人じゃない。だがこれからは、ギルドの核となる存在だ。」


「はぁ!? ついさっきまで“ズボン悪魔”扱いだったのに!? なんでいきなりコアメンバー!? 意味わかんないってばぁぁ!」


――宿舎と規則の説明


その後、会長に連れられてギルド宿舎へ。

扉を開けるとすぐ、三つ編みを結んだ受付嬢が厚い冊子を抱えて駆け寄ってきた。


「こちらは新米冒険者が必ず知っておくべき基礎規則です。会長の命令で、私が直接説明します。」


彼女は柔らかな笑みを浮かべつつ、教師のようなきっぱりした口調でページをめくった。

「まず、この国で流通している通貨は“ソル”。単位は統一で、銅銀金といった区別はありません。たとえば――黒パン一つ十ソル、薄いビール二十ソル、安宿一泊五十ソルです。見習い冒険者用の宿舎は無料ですが、夜十時消灯を守っていただきます。」


白忻の心の声:十ソルでパン一個!? 異世界なら肉食べ放題だと思ってたのに、結局ブラック労働者物価! しかも十時消灯!? これ宿舎っていうより刑務所じゃん!


受付嬢はさらに淡々と続ける。

「冒険者の等級は七段階。見習い、鉄、銀、金、白金、黒曜、最上位は王命級です。あなたは今、見習いですので安全な仕事しか受けられません。」


白忻の心の声:七段階!? うわぁ、テンプレのランク制じゃん! どうせ最後は“王命級”で無双する流れでしょ!? でも……ちょっとワクワクしてる自分が悔しい!


受付嬢の目は鋭くなり、言葉も強まる。

「見習いは禁止事項があります。単独で城外に出ることはできません。選べるのは“見習い可”と記された任務のみです。配達、搬送、薬草採集など。報酬は百五十から三百ソル程度。」


白忻の心の声:ちょっ! 異世界冒険者ライフって、ドラゴン退治とか宝箱ドロップじゃないの!? なんで私、宅配バイトスタートなの!? ブラック企業の亡霊に取り憑かれてるぅぅ!


「そして三つの規則は必ず守ってください。」

受付嬢は指を三本立てた。

「一、報酬の横領禁止。二、仲間への攻撃禁止。三、見習いの単独外出禁止。三回違反すればブラックリスト入りです。」


白忻の心の声:三回でアウト!? 前の会社ですら二回は警告あったのに! ここゼロ容赦!?


「最後に、これはあなたの身分証です。」

受付嬢は銅色のチップを差し出した。表面には細かな紋様が浮かんでいる。

「あなたの魔力波動を感知し、任務報酬や宿泊記録も紐付けられます。紛失した場合、再発行に五百ソルかかります。」


白忻の心の声:五百ソル!? それって私の半月分の命じゃん! 異世界の本当の魔物は、ゴブリンじゃなくて罰金システムだったぁぁ!


冊子を閉じた受付嬢は、再び柔らかい笑みを見せた。

「最後にひとつ。あなたは今、観察期にあります。期限は二週間。会長も私たちも、あなたの魔力安定性と感情制御を記録します。どうか良い成果を見せてくださいね、白忻さん。」


白忻の心の声:二週間の観察期? これ絶対“保護兼監視兼収容”ってやつじゃん! 新人研修どころか緊箍児みたいな縛りじゃないのぉぉ!


――宿舎の夜


その夜、白忻ハクシンはギルド宿舎に割り当てられた部屋に案内された。

豪華とは言えないが、清潔で整っている。木のベッド、小さな机と椅子、魔法灯が一つ。

ほのかに薬草の香りが漂い、落ち着いた雰囲気だった。


ベッドに倒れ込んだ彼女は、まるで電池が切れた人形のように動かない。

握りしめているのは、渡されたばかりの銅色の身分証。


「……はぁぁ……これ、どういう展開なのよ。」

銅色の身分証を顔の前に掲げ、心底うんざりした声を漏らす。

「昼間はゴブリンに追われて、“ズボン悪魔”呼ばわりされて、拘留所送り……。そして壁ドンされてギルドに収容……。結果、渡されたのは銅の板一枚!? ねぇ、これ絶対シナリオ間違ってるよね!?」


頭の中に浮かぶのは今日一日の出来事。

――牧童が彼女の脚を凝視していたこと。

――ゴブリンが「人間の雌」だと下卑た笑みを浮かべたこと。

――衛兵に「なぜズボンを穿いていない?」と問い詰められたこと。

――監察官の水晶眼鏡に覗き込まれた視線。

――会長が近づいてきたときの、全身を呑み込むような眼差し。


「ひぃぃ! 思い出すだけで胃が痛い! 脳みそパンクするぅぅ!」


最終的に、彼女は布団に潜り込み、丸くなって眠りに落ちた。


――翌朝の召集


翌朝、窓から差し込む陽光と小鳥のさえずりで目を覚ます。

「ドンドンドン!」と扉を叩く音。


「白忻、起きなさい。」

会長の冷たい声が響いた。


「えぇぇ……もう朝……? まだ寝かせてぇぇ……」

髪は鳥の巣のように乱れ、目も半分しか開いていない。

心の声:昨日異世界に来たばかりなのに、もう強制的に早番!? ブラック企業よりタチ悪いよぉぉ!


ふらふらしながら扉を開けると、会長が無表情で立っていた。

「今日、君の小隊メンバーを紹介する。」


「はぁ!? まだ銅色の身分証渡されたばかりだよ!? 早すぎない!? 普通は自分で仲間選ぶんじゃないの!?」


会長は冷徹に言い放った。

「観察期は遊びじゃない。実戦でこそ、君の力は測れる。」


白忻は肩をすくめ、涙目で小声を漏らす。

「これ絶対、実験体扱いだよねぇぇ……」


――エレンとの出会い


大広間の中央には、すでに一人の青年が待っていた。

大剣を背負い、簡素ながら堅牢な鎧を纏い、人の良さそうな笑みを浮かべる大柄な男。


白忻は思わず立ち止まった。

心の声:わぁ……すごい安心感……“俺がいれば大丈夫だ”って雰囲気!

だがすぐ、別の思考がよぎる。

……でもちょっとバカっぽい? 子どもに飴を取られそうな顔してない?


彼女は小声で毒づいた。

「前衛っぽいけど……大型犬みたいにおバカそう……」


エレンは憨厚な笑みのまま自己紹介する。

「……俺はエレン。これから君の仲間になる。」


外見は落ち着いているが、内心は全く違った。


エレンの心の声:うっ……この子、顔が綺麗すぎる……目が光みたいに澄んでる……。それに……その短い布……あれ本当にズボンなのか!? 見たこともない……。だめだ、見るな俺! 俺は護衛だ! 妄想するなぁぁ!


必死に視線を顔に戻すエレン。だが次の瞬間――白忻が悪戯っぽく顔を近づけ、にやりと笑った。

「ねぇ~イケメンさん? 初対面からそんな近いと、顔赤くならない?」


「っ!!?」

エレンの顔は一瞬で真っ赤になり、頭が真っ白になる。

心の声:やばい! バレた!? 俺が脚チラ見したの、気付かれた!?


白忻は口を押さえ、涙を流しながら笑った。

「ぷははは! やっぱりね! 鋼の童貞だぁぁ!」


「なっ……!?」

エレンは拳を握りしめ、耳まで真っ赤にした。

心の声:この女……からかいすぎだ……! でも守らなきゃ……俺は護衛だ……!


笑い転げる白忻をよそに、会長の冷ややかな声が空気を切り裂く。

「彼は仲間であると同時に、君の監視者でもある。」


「はぁ!? 監視って……もっとマシな言い方ないの!?」


「必要ない。君は特異すぎる存在。何が起きてもおかしくない。」


白忻は崩れ落ちそうな顔で心の声を漏らす。

やっぱり! これチーム編成じゃなくて看守付きじゃん!


そんな彼女に、エレンは憨厚な笑みを見せた。

「大丈夫。俺が守るから。」


白忻は一瞬、心が温かくなる。

心の声:……え? バカっぽいけど……なんか本当に安心するかも……

しかしすぐに頭を振り、頬を叩いた。

だめだめ! 外見に騙されるな! こういうタイプこそ油断すると人身売買しそうなんだからぁぁ!


会長は二人を見て、口元に笑みを浮かべた。

称賛の色を帯びつつも、その奥には誰にも気付かれない冷たい影。


この子は稀有だ。全属性を持ち、膨大な魔力を宿している……。果たして駆使できるのか、それとも器が壊れるか……。どちらにせよ、この光は私の手から離さない。


その時、大広間の扉が乱暴に開かれた。

砂塵まみれの衛兵が駆け込み、膝をついて叫ぶ。

「報告! 東門外にて偵察隊より信号! ゴブリン騎兵が草原に集結中!」


一瞬で場が静まり返る。冒険者たちは武器に手を伸ばし、緊張の色を浮かべた。


会長の瞳が冷たく光り、口元には微かな弧が描かれる。

「……いいわ。ちょうどいい。新しいコアの実戦テストに。」


白忻の瞳孔が震えた。

心の声:えぇぇぇ!? まだまともな火球も撃てないのに!? なんでいきなり前線投入ぉぉ!?


第2章・完

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!


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