第5章 下篇 A · 領主の召見
第5章の後半、ついに伯爵邸の奥へ。
ライオンの潜入、罠と帳簿、そして暗影の瓶。
一方、大広間では――伯爵に引き出され、社死寸前の舞踏へ。
白忻の運命、そして会長の怒り。
宴はますます危険な色を帯びていきます。
第5章 · 潜入者の歩み(捜索)
伯爵が大広間で「小さな太陽」を誇示し、拍手と喝采が渦巻く中――
ライオン(ライオン・ミロス)は、するりと群衆を離れた。
足取りは音もなく、柱の影をすり抜け、誰の視線にも引っかからない。
(……一通り歩いたが、目立った仕掛けは見当たらねぇ。
となると狙い目は――伯爵の執務室か、寝室だな。)
軽やかに階段を上り、鼻歌でも歌い出しそうな余裕を装いながらも、
金色の瞳は鋭く光り、壁際を一歩一歩踏みしめる。
――その瞬間。
燭火の影で、赤い線がちらりと光った。
ライオンの瞳孔が縮む。
(……罠か。曲がり角に張られた赤い糸――踏めば一発で警報ってわけか。)
心の中で舌打ちをしながらも、口元は不敵に歪む。
「へっ、安っぽい芝居道具だな。こんな牛筋みたいに太いワイヤー、素人でも気付くぞ。」
身をひねり、足先を軽く跳ね上げる。
影の中で身体がふわりと回転し、赤線を優雅に飛び越える。
着地の音はなく、燕のように静か。
ライオンは袖口を払う仕草までつけて、にやりと笑った。
「完璧。……やっぱ俺って天才。」
狐めいた笑みを浮かべたまま、彼はさらに奥の闇へと進んでいった。
第5章 · 潜入者の歩み(書斎)
重厚なオーク材の扉が小さく軋み、ライオン(ライオン・ミロス)はすり抜けるように書斎へと忍び込んだ。
部屋に漂うのは、古い墨と酒の混じった匂い。
壁一面に本棚が並び、中央には彫刻の施された巨大な机。
その上には、整理もされぬ帳簿が積み重なっている。
(……へぇ、ここが伯爵の金庫か。虚飾まみれの紅玉の階段より、よっぽど価値があるぜ。)
ライオンは迷いなく机へ歩み寄り、帳簿を繰る。
指先で素早くページを捲りながら、金色の瞳が細まった。
――そこには帝国財務の印が押された莫大な支出記録。
だが数字のあちこちが削られ、墨の濃淡も不自然。
刃物で削った跡すら残っていた。
「ふん……やっぱりな。帳簿の改竄。」
低く笑い、数枚を抜き取り懐に収める。
その時、視界の隅に奇妙な物が映った。
机の端に置かれた、半透明の小瓶。
中身は空だが、近づいた瞬間――肌を撫でる冷たい気配。
瞳孔が収縮する。
(……この感触。暗影の気配? 中に入っていたのは、暗影の欠片か。)
瓶を掌に取ると、かすかに黒い煙が瓶壁にまとわりつき、薄く消えていく。
(やれやれ……伯爵の野郎、金を貪るだけじゃ飽き足らず、禁忌まで手を出してやがる。)
口元に危うい笑みを浮かべ、瓶を懐へ滑り込ませる。
「思わぬお宝ゲットだな……狐の狩りはやっぱり当たり付きだ。」
第5章 · 潜入者の歩み(寝室)
書斎を後にし、ライオン(ライオン・ミロス)は足音を殺して廊下を進む。
燭火に照らされた金色の瞳は、獲物を探す狐のように光っていた。
(帳簿も暗影の瓶も手に入れた……だが決定打が足りねぇ。
こういう成金貴族は、大物を“絶対安全だと思ってる場所”に隠すもんだ。)
扉を押し開けると、豪奢な寝室が広がった。
厚いカーテン、王宮の玉座さながらの天蓋付きベッド。
その無駄な華美に、ライオンは鼻で笑う。
「経験則ってやつさ……こういうバカ貴族、秘密はだいたいベッドの下だ。」
膝をつき、手探りで床板を撫でる。
指先が鉄の取っ手に触れた瞬間、口元に皮肉な笑み。
「図星だな。」
板を持ち上げると、燭光が差し込み、金色の輝きが一気に溢れ出す。
袋に詰められたソル幣、積み上げられたインゴット――
床下は金山そのものだった。
ライオンの瞳が細まり、口端が冷たく歪む。
(間違いねぇ……ここだけで百万ソルはある。
三年間で吸い上げた予算、全部ここにブチ込んでやがった。
伯爵の野郎、帝国の血を自分の腹に蓄えてたわけだ。)
静かに板を閉じ、深く息を吐く。
「……十分だ。これだけあれば、あのクズの首を落とすのに証拠は山ほど。」
袖口を直しながら、金色の瞳に嘲笑を浮かべる。
「さて……宰相様の望む“証拠”は献上した。
追加の“サービス料”でも請求してやるか?」
第5章 · 宴会の途(共舞)
伯爵ロデリックの演説が終わり、再び楽が鳴り響いた。
ヴァイオリンとフルートが軽快に交わり、舞曲は軽やかなのに、場の空気は重苦しい。
ロデリックは杯を片手に、まっすぐハイシン(白忻)へと歩み寄る。
唇に浮かぶ笑みはいやらしく、声は妙に甘やかだった。
「せっかくの宴だ。舞がなければ完成しない。――小さな太陽、お嬢さん。
私と一曲、踊っていただけますかな?」
その瞬間、全員の視線が突き刺さる。
ハイシンの頭は真っ白、心臓は暴走。
「ひぃぃぃっ!? お、踊る!? 無理無理無理! 全員見てるぅぅ!」
必死に会長の背後へ隠れようとするが、伯爵の大きな手が有無を言わせず彼女の手を取る。
会長の瞳が鋭く細められる。
(……公衆の面前では、あの男も手荒な真似はしない。
だがこの舞は――『これは私の獲物だ』と全場に宣言するためのもの。)
ハイシンは半泣きで引き出され、舞踏の中央へ。
ざわめく声が追い打ちをかける。
「伯爵、本気だな……」
「第二夫人の噂、広まるぞ。」
「ひぃぃぃぃぃっ! これ、完全にKPI会議より恐ろしい社死イベントじゃん!!」
内心の叫びを押し殺しながらも、ハイシンの足は意外にリズムを掴んでいた。
過去、社畜時代の無理やりな接待で覚えたステップ――それが今になって役立つとは。
スカートが翻り、動きはぎこちないながらも端正に見え、会場に一瞬ざわめきが広がった。
ロデリックの目に驚きと、さらに増した欲望の色。
「ほう……思った以上に様になる。これはますます私好みだ。」
「ち、違う! 上手く踊りたいわけじゃない! ただ、ただ足踏み外したくなかっただけなのにぃぃ!」
ハイシンは心の中で絶叫。
――
舞踏の輪を外れた会長は、冷徹にその光景を見つめていた。
唇を固く結び、瞳は氷の刃。
(……ロデリック。この場で私の前で主権を誇示するか。――越えてはならぬ一線を踏み越えたな。)
ライオン(ライオン・ミロス)は群衆の端で杯を口にし、にやりと笑う。
(狐と猟犬が同じ骨を奪い合ってる……滑稽で笑えるじゃねぇか。)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ライオンが掴んだ「帳簿」と「暗影の瓶」。
一方で、伯爵の腕に引き出され社死寸前の舞踏――
会長の怒りはすでに限界を越えようとしていました。
この先、宴はさらに危険な局面へ。
続きは本日【午後3時】に更新予定。どうぞお楽しみに!
――つづく




