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9 隠れファンでしょ?

「あ! 今日、ネットにルカ様の写真があがってる!!」


 箱推ししているW2が活動休止しても、兵役についていない残りのメンバー四人は時々、何をやっているのか写真を投稿してくれることがある。


「はぁ~、活動休止していても写真をあげてくれるだけで、推しが見ている世界を共有できるなんて最高ね!!」


 ルークを部屋に案内して、一息ついた私は一足先にリビングに降りてきてソファでスマートフォンをいじっていた。


「ん? ルカ様、どこかへ旅行に行っているのね!」


 投稿されている写真には、飛行機の中から写した雲海が広がっている。


「あ! もう一枚、写真があった!!」


 もう一枚の写真には素敵な水色のスーツケースの角が見えた写真だ。アップで撮影されているから、背景はどこかはわからない。

 推しが目的地に安全に到着したなら、その情報だけで十分だ!!

 ありがとう!! 航空会社さんとルカ様の旅の安全に関わっている全世界の人たち!!


 心の中で、無事に送り届けて下さった人々の仕事に、手を合わせて感謝を伝える。


「へぇ~。ルカ様、水色のスーツケースなんだ~。どこのメーカーかなぁ。私も次に買う時は水色のスーツケースにしよう!!」


 ニヤニヤしながら、ルカ様の写真をうっとりと見ている時だった。


「何、見ているの?」

「うわっ!!」


 ソファの後ろからルークが両手をついて、私の顔の真横に……しかも耳元で囁かれて驚いてしまう。


「ルークか……びっくりしたぁ…」


 ホラー映画に突然現れたゾンビを見た瞬間くらい、心臓がバクバクといっている。


「ごめんなさい……ことり……」


 ルークが初めて、私の名前を呼んでくれたので少し嬉しくなる。

 きちんと名前、覚えてくれたようだ。


「こちらこそ、ごめんね。ルークが後ろにいたのに気が付いていなかったの」


 ビックリしたのは、後ろに人がいて話しかけられたからではなくて、耳元で甘い声で囁かれて動転しちゃったんだけど、さすがに恥ずかしいから濁しておいた。

 ルークの声……小さいけれど、いい声してるのね……。


 聞き取るのが精いっぱいだったから、素敵な声をしていることに気が付くのが遅れてしまった。


 私は右後ろを振り返り、何を見ていたのかスマートフォンの画面をルークにも見せてあげた。


「ルークはW2って知ってる? 世界的に有名な音楽グループなんだけど、そのメンバーの一人が今日、飛行機に乗って移動したみたいなの。ほら、見て。ルークみたいな同じ水色のスーツケース持っている人なんだよ~」


 ルークにルカ様の投稿した写真を見せる。

 ルークの前髪に目が隠れたままだから、表情は見えないけれど、スッと息を軽く吸い込んだような音が聞こえた。


「え!? ひょっとして……」


 勘のいい私はピン!ときて、ルークに質問をする。


「な、なんですか?」

「むふふふ。ひょっとして……ルークと同じ飛行機にこの色のスーツケースを持っている人がいたんじゃない?」


 冗談めかしてルークをソファから振り返って見上げながら、尋ねてみる。

「ソンナワケナイデショ!!」「そうだよね~」

 そういうジョークのやり取りをしようと思って、投げかけた言葉だった。


 するとルークは、手のひらで口元を覆うと、そっぽを向いてしまった。

 アレ? 冗談が通じなかった?

 初対面の外国人にはちょっと難しすぎるやり取りだったようだ。


「ごめん、ごめん! 冗談だよ!! ルーク、気にしないで!」


 私は、慌ててルークに謝る。困らせたかったわけじゃない。

 でも、しばらくすると私の方に顔を向けて、小さな声でルークが返事をする。


「……いた…かもしれません……」

「え~! 本当!? ルークはラッキーだったかもしれないね!!」


 内心、水色のスーツケースで今日、飛行機に乗っている人なんて、何万人もいるんだからルカ様ではないだろうと思いながらも、せっかくルークが「いたかもしれない」と会話を続けてくれたので、私はルークの気分を害さないように褒めちぎっておいた。


「写真のスーツケース、同じスーツケースかもしれません……」

「えっ!? 羨ましいな~、W2のメンバーのルカ様と同じスーツケースなんて~」


 私はルークのそこそこ堪能な日本語に驚きながら、メーカー名などヒントになりそうな写真では無かったから、軽く聞き流しておく。

 ……ルカ様と全く同じスーツケースっていう可能性は、さすがに言い過ぎなんじゃない!? 他メーカーの水色スーツケースだってあるだろうし……と、ルークの言葉を100%は信じていなかった。


 でも、何かが引っかかる。

 あれ? さっきルークもスーツケースの写真を撮っていたよね……


「はっ!!」


 気が付いてしまった!! 


「ルークもひょっとしてW2の……ルカ様のファンなの!?」

「……」


 何も返事をしないルークをほったらかしにして、私はウンウンと頷く。

 名探偵ことりの推理だと、ルカ様の投稿した写真を先に見ていたルークは同じ構図になるように、ルカ様の真似をして撮影したんじゃないだろうか!! そうだ! 真実はいつも一つ!! そうに違いない。


 ルークはきっと隠れルカ様ファンなのだ。ただ恥ずかしくてオープンにはしていないのだろう。

 私はそんな予感がして、ルークがW2のファンである証拠を見つけることを目標にこれから接していこうと心の中でガッツポーズを決めた。



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