6 お迎えは三人でね!
ついにホームステイする男性がやって来る日が来た。
飛行機のフライトを土曜日到着にしてもらい、仕事を休んだ母だけでなく、学校のない私と弟も空港に駆けつける。
国際線の到着ロビーの出口にボードを持って弟は今か今かと出口を見つめている。
「もう、気が早いわね。ほらあの電光掲示板を見て御覧なさい。ARRIVINGと書いてあるでしょ? あれは空港に着陸したけれど、また荷物の搬出を完了していないのよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
大樹は飛行機に乗ったことがないから、仕組みがよくわかっていないらしい。
「あのね、入国検査を通らないといけないのよ。ほら、日本に入ってもいいですよってね。それから、ベルトコンベアーで運ばれてくる荷物を見つけて、スーツケースとかをそこで拾ってからこの出口に出てくるのよ」
私は一度だけ海外に行ったことがある。……正確には推しのW2のアジアツアーで韓国に来た時に駆けつけたのだ。今まで貯めた貯金を全て使ってコンサートが終わり次第、深夜便で帰国したというハードなスケジュールだった。
弟は、「ようこそ! ルーク!! By ささなみファミリー」と小学生らしい文字のボードを掲げている。
「ねぇ、ルークって平仮名とカタカナ読めるよね?」
「え? 今更? さすがに読めるんじゃない? 英語で名前を書いておくべきだった?!」
私は大樹と、まさかボードが読めなくて素通りしてしまわないか心配になってくる。
まぁ、出口で待っていると伝えているらしいから、最悪、ペンを買いに走って英語を書き足せば何とかなるはずだ。
「ねぇ、お母さん。ルークの写真とかないの?」
「そんなものありません! 宇宙人だろうが身長三メートルの巨人だろうが、ねずみに変身できる特殊能力を持っていようが全て受け入れるのよ!!」
わかっている。母が想像しているよりもマシだと思う人間が来るということは。
外見的な特徴がわかれば、すぐに見つけられると思っただけだ。
「ねぇねぇ、アメリカ人なんでしょう? じゃあ、金髪とかハリウッドスターみたいな格好いいお兄ちゃんかな?」
夢の膨らむ無垢な弟が、ものすごく期待してハードルを上げてきた。いや、ハリウッドスターが来たら、空港はもっとごった返すし、そもそもホームステイで留学なんてしないでしょとツッコミたくなる。
「ねぇ、大樹……あんまり期待しすぎると……イメージと違ってガッカリするかもよ?」
「そんなことないよ! 我が家に来てくれるだけで、マジ感謝! マジリスペクト!」
どこで覚えたんだ、そんな陽キャのリア充が使うと思われる単語を。
ユーチューバーの台詞なのか? 違うのか?
なかなか現れない人物に待ちくたびれた私の思考もおかしくなってくる。
立って待っているのも、なかなか疲れるものだ。
そんな時。
出口からパイロットやCAさんがスーツケースを優雅に、颯爽と引きながら出てくる。
あれは、ルークが乗ってきた飛行機会社の制服じゃないの!!
ひょっとしてそろそろかしらと心臓が歓迎ムードになり跳ね上がる。
「大樹! そろそろ出口に出てくるはずだから、しっかりボードを持って笑顔で迎えるのよ!」
「イェッサ!!」
私と弟は微笑みながら、出口から一人で出てくる男性に注目する。
アメリカ人だから、きっと金髪で肌は色白に違いない。そんな特徴の人を目で追う。
すると、私の目の前に一人の男性が立ち塞がった。
ちょっと……出口が見えないじゃない!! そう思って、ひょいっと身体を避けて、出口を見続ける。
「は…はじめ…まして……ルークです」
「「えっ!?」」
私と弟は同時に声を上げる。なぜなら……予想していたような……高校生男子ではなかったからだ。