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34 上限なし!! 

 今日は休日なので、電車は混んでいない。

 学校に向かう方と反対に向いて行く駅のホームに辿りつき、到着した電車に乗り込む。


 乗客も少なかったので座席に並んで座る。


 うっわ~。ルークの足、なっが!! 

 同じ位置に腰かけたのに、私の右に座ったルークの膝が遥か遠くに感じる。しかも、ひざ下の長いのだろう。少し前に放り出した感じで座っているけれど、人が通る時にはきちんと足を手前に引き寄せるので、膝の高さも自然と高くなっている。


 今日はルークのお腹に埋もれることは無さそうね。

 ちょっと残念な気もするし、自分がこんなにも筋肉に興味があったのかと意外な一面を発見して驚く。

 決して、健康的な筋肉に興味があるだけで、他意はない。本当に!!


 目的の駅に降りて少し歩けば、すぐに大きなスポーツ用品店がある。

 もう夏休み明けということもあり、水着はセール品になっているはず。

 お店に到着するまでの道中もルークは、私に腕に捕まるように言ってくれたのでお言葉に甘えて少し身体を預けさせてもらいながら歩いてきた。


「うっわ! あの人、めっちゃ背が高くない?」

「モデルとかかな?」

「サングラスしているし外国の有名人かもしれないよ」


 通りすがりの人は好き好きに妄想して、夢を膨らましている。

 うむうむ。我が家のルーク。スタイル抜群だからね。目がいっちゃうのも頷けるよ。

 せめて前髪を切るなり、おでこを出すなりしたらもっと視界良好でルークの人柄が出るんだけどな……


 そう思いながらも、チラリと横を見上げるとやはり前髪をわけているルークの横顔は、とても整っているような気がする。鼻筋も通っているし、唇も薄すぎず、少しぽってりしていてなんだか色気も感じる。

 お化粧をしたら映えそうな顔だなぁ。


 そんなことを考えていたら、ルークが水着を選び終わったようで2着持ってきた。

 ひとつはダブッとしたゆったりめの水着で、もう一つは細身でピタッとした水着だ。


「学校では、どちらの水着を着ればいいですか?」

「一応、授業だからこっちのピッタリしていて空気が入らないタイプがいいかな。タイム測定もあるし」

「タイム測定? あぁ、泳いだタイムを計るのですね?」

「うん。そう」

「じゃあ、こちらの水着にします」

「屋内にあるプールだからラッシュガードは必要ないけれど、どうする?」

「う~ん。要らないと思います」


 そう言い切ったルークの水着にもう一度視線を送る。

 そうか。ラッシュガード着ないのか……腹筋、もろ見えちゃうけど……。

 ドキドキ

 ちょっと見てみたい気もするけれど、私だけの極秘情報にしておきたかったから少し残念な気がしてしまう。

 くっ。ルークの腹筋を見たら、筋肉に惚れてしまう子も絶対出てくるはずだ。

 ちょっと嫌だなという嫉妬のような感情が自分の心に湧き上がるのを感じる。


 イケないイケない! 我が家のルークが学校のみんなに受け入れられて、楽しい日本での生活を送れるならそれで充分じゃないの!! 彼女でもないのに、えらそうな考えを抱いてしまってすみません!!

 私は心の中で謝罪する。


 私がそんな悩みを抱えている間も、ルークはキャップとゴーグルを選んだようですでにお会計のところまで行っていた。


「お支払いは?」

「あ! 待って下さい! 私が!!」

 ホストファミリーなのだから、彼の必要な物も購入してあげたいと思ってしまう。

 すると、さっと腕が伸びてきて、ルークはクレジットカードを店員さんに素早く渡し、さっさと会計の手続きをしませようとする。


「カードで」


 静かに差し出されたクレジットカードを見て、目を見開く。

 あれって……ブラックカードと呼ばれているカードじゃないかしら? 

 本物を見た事がないので、よくわからないけれど支払い金額に上限が無いタイプのカードじゃないかしら……


 ルークはアメリカから留学に来たくらいだから、裕福な家庭のご子息であることは間違いないだろうけど、ひょっとしたら財閥の一人息子とか、御曹司と呼ばれる部類の人間なのかしら?


 ちょっとだけ、彼が我が家のような極貧家庭ではなくて、もっと裕福なお家からやってきたのだと気が付いてしまい、頭の中は混乱してしまう。


 今日の晩御飯、ほうれん草のお浸しと豚のしょうが焼きの予定なんだけど……一流シェフの味が懐かしくなっていないかしら。


 そんなことを考えていたら、楽しいはずのデートはあっという間に終わってしまった。

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