32 おでけけ
ルークが来て初めての休日。
今日はいつもよりもゆっくり起きて、リビングに行くとすでにルークと大樹がソファーに並んで座っている後ろ姿が目に入った。
「おはよう~お姉ちゃん」
「おはよう~。もう朝ごはんは食べたの?」
「ぼくは食べたけど、ルークはこれからだよ。お母さんは仕事に行っちゃった」
小学六年生の大樹は、意外にも朝に強い。休みの日でも5時半には起床するというとても健康的な生活をしている。
ルークがまだ朝ご飯を食べていないということは、彼もお寝坊だったのかしら?
そう疑問に思って問いかけてみる。
「ルークはこれから朝ごはんだよね?」
「はい。ことりと一緒に食べようと思って」
きゅんっ!! 何でしょう。この可愛らしい台詞は!!
こんな髪ボサボサのまま、ご一緒しても大丈夫っすか? 全く女子力ゼロの状態で申し訳ないくらいだ。
「え? ひょっとして、私が起きるまで待っていてくれたの?」
毎週休日に、私が起きるまで朝ごはんを食べないと言われるとそれはそれで…困る!!
そう思ってルークの行動を把握するために確認してみる。
「早く目が覚めたので、ランニングしてシャワー浴びたらちょうどこの時間になりました」
何と素晴らしい回答でしょう!! 待っていたのかイエスかノーで答えられる質問だったのに、私が気に病む回答にならないように、グットタイミングだったのだと、絶妙なタイミングに起きてきただけだというような神回答をいただきました!!
なんでしょうね。 この人を傷つけないように答えるスキル。
只者ではありませんね。
「ランニング…えらいね。ルークも健康に気をつけているの?」
私は今週の思わず触ってしまい、極秘情報として扱っているルークの実はいい鍛え上げられた腹筋と胸板について遠回しに聞いてみる。
いや、本当に。 すごかったから。 着やせしているのに、その下は…グフフフ。
「そうですね。 筋力トレーニングはしています。 体力落ちないように」
やっぱりそうか! 次の質問をしようとしていたら、大樹も気になったのか会話に加わってくる。
「え?! ルーク、筋トレしてるの? ぼくにも教えてよ!! こないだお風呂で見た時、ルークの身体、めっちゃカッコよかったもん。ユア ボデー グレイト!!」
大樹は忘れかけていた、ホームステイに到着したその日に目撃したルークのボディーを思い出したのか、懇切丁寧に説明してくれる。
そうか。やっぱり服の下には隠れた財宝…もとい筋肉を蓄えていたのか。
ちょっと、無邪気な大樹が羨ましい。私も、機会があれば拝んでみたいものだ。
「大樹、ありがとう。そういえば、ことり。今日は何をしますか?」
「ん~、特に予定はないけど、ルークはどこか行きたい場所ある?」
「買わないといけない物があります。持ってくるのを忘れていました」
「学校で必要な物?」
「はい」
それは大変だ。必要な物があれば平日に買いに行くより、土日を利用して買いに行ったほうが時間的に余裕があるはず。
「何が買いたいの?」
「来週の授業で必要な水着です」
オッフ。筋肉の話をしていたせいか、私の欲望の声が漏れそうになる。
「……確かに。来週、水泳の授業があるわね」
私の通っている明幸高校は室内に温水プールがある。日焼けはしないから安心だけれど、その代わり年中問わず時々、水泳の授業があるのだ。夏じゃなくてもね!
「じゃあ、キャップとゴーグルも買わないといけないわね」
「そうですね。…ことり、いい店知っていますか?」
「電車でいけるところに、スポーツ用品店があるからそこに行こうか」
「はい。宜しくお願いします」
「大樹も一緒に行く? お留守番、つまんないでしょ?」
「ん~、ぼくはいいや。お姉ちゃんとルークで行ってきていいよ」
どうやら、弟は留守番している間にゲームをやるつもりらしい。
目線がチラチラっとゲームを見ているのは、お見通しなんだよ!!
「じゃあ、今日はことりとデートですね?」
「え?」
デート。デエト。そうなのか? やったことないからわからないけれど、これが世間一般で言うところのデートというやつなのか? 恋愛的な展開を期待して異性と会うと言われているアレなのか?
「そう…なのかな?」
「はい。そうです」
「ひゅ~お姉ちゃん~やるぅ~」
茶化すな弟よ。
お姉ちゃんはデートの定義について検索したくてスマートフォンを触りたいくらいなんだから。
でも、ひとまずホストファミリーとしてルークの必要な物は買いにいかないといけない。
今日の予定は、決まったわ。ルークとお出かけね。
「ルークとお出けけ。ワクワク」
大樹は相変わらず、私の心に波風を立てたいようで、アニメでピンクの髪をしたホストファミリーならぬ、別のなんちゃらファミリーの女の子の真似をする。
『デートとは』
出でよ! ChatGPT!!




