3 箱推しとはちょっと違う!
「W2が活動休止しても、個人の呟きや写真はネット上で更新してくれるんでしょう? それだったら、寂しく感じることはないんじゃないの?」
エリちゃんは、更に私を元気づける言葉をかけてくれる。
「確かに……新曲が聴けないだけで、残りの四人のメンバーはきっとどんな生活をしているのかネットには上がってくるよね?」
「多分ね」
「……じゃあ、何とか生きていけるかも!!」
私は、お先真っ暗だった人生に一筋の希望が見えたような気がして、嬉しくなる。
さすが、ポジティブな考えを持つ友だ。ドロドロの沼から這い上がれない私をさっと引き上げてくれた。
「それはそうと、W2の箱推しだったよね?」
「うふふふ。よくぞ聞いてくれました、エリちゃん!! そう私は長らく箱推しでした」
敢えて箱推しだったと過去形で述べてから、ちょっと気持ちに変化が現れたことをエリちゃんに伝える。
「でも、今は……ルカ様寄りの箱推しなのです!!」
「……一応、ルカを贔屓しているけれど、やっぱり箱推しなのね」
「違うよ~。ニュアンスが違うんだよ~エリちゃん!! ルカ様を中心に……箱推しということだよ!!」
私は、単なる箱推しではないのだとエリちゃんに説明するけれど、エリちゃんにとってはあまり大差がないようで、「はいはい、わかりました」と軽く受け流されてしまった。
「えっと、ルカってどの人だっけ?」
エリちゃん……メンバーの名前を把握していないのに、いろいろ私に質問していたのね……。
でも興味なくても話を聞こうと努力してくれるエリちゃんが、私は好きなのだ。
大丈夫よ。何でも教えてあげちゃうわ。何ならエリちゃんにもルカ様の良さを普及したいと思ってしまう。
「ルカ様はタイ人と日本人のハーフで、でも育ちはアメリカなのよ」
私は学生手帳にこっそり忍ばせているW2のメンバーの写真を見せて、エリちゃんに教えてあげる。
「あぁ~! わかったかも!! あの少し褐色肌で細めの人だよね? ルカって女性だよね?」
「それがね~、性別を公表していないからよくわからないんだよね。高音域も声も出しているけれど、映像で見ると背も高いし中性的な顔の作りなんだよね」
面白いことにW2のメンバーの公式プロフィールを見ると、日本出身は女性、韓国、アメリカ、ドイツは男性と明記されているのに、タイは?と記載されている。謎が多くて……それが返ってどちらなのかわからなくて、興味をそそるのだ。
「まぁ、いまどき性別にこだわる必要なんてないものね」
エリちゃんもルカ様の外見は男性にも女性にも見えると感じているようで、すんなり公式プロフィールを受け入れている。
「私の予想は女性だと思っているんだけどね! あんな格好いい女性がいたら飛びついてハグしてみたい!!」
「そうなのね。ことりの好みが良くわかったわ」
ちょうど、その時、一時間目を知らせるチャイムが鳴った。
あれほど、朝は胸が押しつぶされそうなほど苦しかったのに、今ではいつの間にか推しのルカ様の話題をにこやかに説明して普及することにも成功した。多分だけどね!
なかなか有意義な一日のスタートを切れた。
自宅で号泣したことも忘れて、今日も楽しい学校生活を送ることができそうだ。




