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29 いちごオ・レ VS カフェ・オ・レ

 今日は昨日の高橋くんお姫様抱っこ事件があったせいか、廊下から教室内を見にくる女の子が多いような気がする。


「笹波さんってどの子?」

「え? あのパッとしていない子? 本当にあの子?」

「あの背の高い外国人が邪魔で見えないんだけど」


 廊下から見物と、どんな女子を抱っこしたのか調査に来ているのは明らかだった。


「ことり、大丈夫? オレの身体で少しでも隠れられるといいんですけど」

「ルーク、ありがとう。人の噂なんてすぐに収まるはずだから、大丈夫だよ」

「そう? じゃあ、少し席立つけどいい?」

「うん。いってらっしゃい!」


 ルークの広い背中で隠れられていたけれど、それが取り除かれたせいかこちらからも私の方を見ている視線をもろに感じてしまう。

 私も昼食のお弁当を取り出し、手を洗うとルークが戻ってくるのをエリちゃんと待つ。


「はい。ことり」

「わ!! ありがとう、ルーク!!」


 お弁当の横に、ピンク色の紙パックが置かれてびっくりしてしまう。


「わぁ~、私の好きないちごオ・レだ!!」

「元気出してね」


 ルークは、私が少し元気がないのを感じ取っていたのか、机をくっつけながらも励ましてくれる。

 そんな時、廊下が少し騒がしくなったのを感じる。


 何となく気になって視線を廊下に向けると、廊下から私たちの教室を覗きこんでいる高橋くんの姿が目に入った。


「あ! 見つけた!!」


 そういう高橋くんがこちらに向かって手を振っているような気がする…。

 いや、手を振り返したら実は後ろにいた人に手を振っているという可能性もある。

 きちんと背後に高橋くんのお目当ての人物がいないか確認しないと、恥ずかしい勘違い女だと余計に噂が広まってしまう!!


 私は、念の為振り向いて左右と背後を確認する。

 よし、白い壁と窓しかない!! 


 高橋くんは恐らく私とルークに手を振っているのだろう。

 それを確信してから、私も小さく手を振り返そうと思っていたら、彼の姿はすでに廊下にはなかった。


「もう! なんで後ろ向いているのさ~、笹波さん!」

「え? 私?」

「うん。お昼ご飯一緒に食べてもいい?」


 爽やかな笑顔で爆弾発言をする。

 いや…なんで今をときめく高橋くんが、よりによって私とルークとエリちゃんの傍にくるのだろうか。

 でも、ここで断るのも…おかしい気がする。

 何て答えたらいいか迷っていると、ルークが「いいよ」と答えてくれる。


 よし。ひょっとしたら、高橋くんは私とじゃなくてルークともっと親しくなりたいのかもしれない!

 それなら、もっと友人関係が結べるように協力しなくちゃいけないわね!!


 私は、考えを改めて静かにルークの意見に同意を示した。


「これ、笹波さんにお詫びの品」


 そう言って、いちごオ・レの横に置かれたのは茶色のパッケージの紙パック。

 そう、カフェ・オ・レ。


 いやいやいや…いちごオ・レがあるのに、カフェ・オ・レを置くのはどういう意図があるのでしょうか。

 二本飲めということでしょうか。


「ありがとう、高橋くん」


 受け取るべきか考えて迷った挙句、一応、彼なりの謝罪かもしれないと今回は受け入れることにする。


「ねぇ、ことりの向かい側の席に座ってもいい?」

「う…ん、いいけど…」

「へぇー、ルークは笹波さんの家にホームステイしているんだっけ? だからお弁当が一緒なんだね!!」

「うん。そう」


 ルークは多くを語らず、同じ弁当だということは認める。


「ルークはお弁当の何が好きなの?」


 エリちゃん、ナイスパス!! うまいこと話題が高橋くんから逸れて少し安心をする。


「この中なら…卵焼きが好きです」


 うひゃ! それは今朝、私が作った卵焼きだ!! さりげなく好きだと教えてもらえて、心がほんわかと温かくなる。

 ルークに気に入ってもらえて、良かった! 

 私はウキウキしながら、表情を緩ませる。


「へぇ~、俺も食べてみたいな。笹波家の卵焼き。それ、一個食べてもいい?」

「うん、いいよ。はい、どーぞ」


 ちょっとルークに卵焼きを推してもらえた私は、嬉しくなって高橋くんにも一つ、私のお弁当の中に二つ鎮座していた卵焼きのうちの一つを渡してあげる。


「うわっ。ふんわりしていてほんのりとした塩気がいいね!! 美味しいよ。これって笹波さんの手作り?」

「うん、そう。高橋くんの口にも合ったようで良かったです」


 私は美味しいと褒めてもらえて、ちょっと浮足だっていたようだ。

 あんなにもエリちゃんに、行動に気を付けるように言われていたのに卵焼きを褒めてもらえたことで失念してしまっていた。


「笹波さんなら、きっと素敵な奥さんになりそうだよね!!」


 グフッ


 さらりと言われたことの無い単語を言われて動揺してしまう。

 殿方に免疫がないんだってば!! 

 そう、簡単にドキドキするような言葉を安売りしないで欲しい。バナナの叩き売りじゃないんだから。


「ところで、笹波さんは彼氏いないよね? 気になる人とかいないの?」


 高橋くんがすごい勢いで私の情報を集めようとしてくる。


「えっと、私は彼氏いないけど…気になる人は…秘密です。…ルークは?」

「ん? カノジョはいませんが気になる人はいますよ?」

「へぇ~、そうなんだぁ」


 ルークの返事に高橋くんが間髪入れずに、相槌を打つ。

 ここで「高橋くんは?」と聞くのは悪手だ! 絶対、聞いてはいけないと私の脳内で危険アラームが鳴り響いている。


 そんなことを知ってか、知らずかルークはシレッといちごオ・レを手に取り、ストローをブスッと刺すと私の口元に差し出してくれる。


「ことり、どうぞ」

「ありがとう」


 そう言って、差し出されたストローから大好きないちごオ・レを吸い上げて、口を離す。

 すると、もう一本のストローが差し出された。


「あれ? デジャブ?」


 私は、差し出されたストローを見るとカフェ・オ・レを手にした高橋くんがこちらに差し出しているのが見える。


 あぁ、なんだ。ストローはデジャブだけれど中身は違う物だったのね。

 今、いちごオ・レを飲んだばかりなのに、なぜカフェ・オ・レを差し出しているのかちょっと理解できないけれど、これは飲むべきなのだろうか?

 どれが正解なんだい? 


 考えても答えに辿りつけない私はエリちゃんの顔を見る。

 エリちゃんは、口先を前に突き出している。

 はっ! これは「吸っちまいな!」のジェスチャーね!!


 私はそう解釈して、高橋くんのお詫びの品というカフェ・オ・レも一口吸い上げた。


「ありがとう、高橋くん。でも、もうお腹いっぱいだから二本は飲めないかも」

「そうなんだ。でも飲んでくれて嬉しいよ」


 そういうと、高橋くんは私が一口飲んだストローをそのまま自分の口に持っていき、カフェ・オ・レを一気に飲み干した。


 いや、男らしいですけれども。

 それ、間接キスですから!!!!!!


 そう思ったのも束の間。


「ことり、もうお腹いっぱいだった?」


 そういうルークも、私が中途半端に飲んだいちごオ・レを自分の口元に運び、残りを一気に飲み干してくれる。


 いや、これもなんかデジャブですから!!!

 それも、間接キスですから!!!!!!


 私にはなぜルークと高橋くんが同じような行動をとるのか、理解できなかった。

 うん。きっと二人は気が合うのだろう。

 そういうことにしておこう。


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