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25 激しく動くこともあります

 保健室に運ばれた私は、足首を冷やして固定してもらい、学校帰りに病院で診察してもらってから帰宅した。

 お風呂上りにリビングでくつろいでいると、ルークが二階から降りて来たので今日のお礼を述べる。


「ルーク。今日は病院まで付き添ってくれてありがとう」

「ことりのことが心配でしたから、一緒について行きたかったんです」


 そう言うと、ルークはソファに座っていた私の横にゆっくりと腰を下ろした。


「まだ、痛いですか?」

「うん。ちょっとね」


 お風呂上りの私は、捻ってしまった左足首をさする。


「あっ! 湿布貼って、薬飲まないと!」


 処方された薬をきちんと飲んで、早く治さないといけない。

 学校の帰り道は、タクシーに乗って病院まで向かい、再びタクシーで帰宅したのだ。

 電車で大丈夫だって言ったけれど、ルークは心配症なのかタクシーを手配してくれて学校のカバンも全て持ってくれたのだ。


「はい、湿布貼るよ」


 ルークは流れるような動作で、自分の膝の上に私の左足を乗せると病院の看護師さんが貼ってくれていた場所と同じ場所に湿布を貼ってくれる。


「ルーク。自分でできるよ?」

「いいえ。心配だからやらせてください」


 そうか。ルークは私が上手に包帯が巻けない不器用な人だともう見抜いていたのね! さすがだわ!!

 心の中でルークの性格判断は合っているよ! と拍手を送る。

 やってもらえるなら、お言葉に甘えてしまおう。


 そんなことを考えている間に、手際よくクルクルと足首に包帯を巻きつけてくれる。

 さすが、我が家のルークくん。志願するだけあって、とても上手だわ!!


「ルーク、上手だね」

「よく自分で怪我した時も包帯を巻きますからね」

「へぇー、ルークもよく怪我するの?」

「えぇ、激しく動くこともありますからね」


 激しく動く…勝手にいろんな意味に捉えて解釈できてしまうのは、どうしてでしょうか。

 思春期だと脳内変換に誤作動が起きるのかしら。

 きっとルークは、アメリカでスポーツをやっている時のことを言っているはずだけれど、言葉がいろいろと不足していていろんな意味で受け止めることができてしまう。


「えっと……アメリカの人は身体は大きいから、よくぶつかるとか?」

「アメリカンフットボールとかは、ぶつかりますね。でも、そうじゃないです。一人で踊っている時とかに身体を痛めてしまうことがあるんです」

「ルークが踊り…」


 はっ!

 シャイなルークは一人で踊るのが好きなのね!! 隠れた趣味というのかしら? 


 私は暗い部屋の中で、一人でひたすらリンボーダンスの練習をするべく、低い位置の棒の下を触れないようにくぐり抜けて踊っている長身のルークを想像して……そういう踊りだと負傷することもあるよねと自分に言い聞かせる。


 踊りの種類がこれしか思い浮かばなかっただけだけどね!


「はい。終わりました」


 ルークが優しく私の痛めた足首を指でなぞる。

 いけないいけない! ドキッとしてしまったわ。

 身体を委ねておいて、いつの間にか終わってるなんて…素晴らしいテクニックだわ!


 ふと隣のルークを見上げると、見慣れた眼鏡はやはりない。

 そっと手を伸ばして、ルークの前髪を触らせてもらう。


「こ、ことり?!」


 慌てたルークが動揺しているのが、手に取るようにわかる。


「ふふふふ。メガネのないルークの瞳がどんな感じなのか、見られるチャンスかと思ってね」


 私は悪戯っぽく笑いながら、ルークの前髪を少しだけよけて瞳を覗きこむ。


 ドキンッ


 恥ずかしそうに目を丸くしているルークと視線が絡まる。

 いつも眼鏡越しで見ている瞳とは違って、とてもキラキラとした瞳をしている。


「ルークの瞳…ぱっちりしていて…綺麗だね」

「そ、そうですか?」


 ついついドキドキしながらも、こげ茶色をしているパチクリお目めが気になって視線を外すことができない。


「ルークの目って大きくてカッコいいのに…もっと見せないの?」

「えっと……自信がないわけではありません。ただ…」


 ちょっと言い淀んだ声に被せるように、私は発見したことを告げる。


「あっ! カラコンなんだ! だから瞳が大きく見えたのかぁ~」


 至近距離でルークの瞳を覗き込んで、それでルークがカラーコンタクトで目をパッチリさせているのだと気が付く。


「カッコイイね、カラコン。私も入れてみたいなぁ~。ルカ様と同じ色のカラコンとかあるのかなぁ」

「どうでしょうね」

「ルカ様が見ている世界を私も見てみたいなぁ~」


 いつの間にか推しのルカ様の話題にすり替わってしまったけれど、ルークは嫌な顔をすることなく聞いてくれる。


「案外、同じ景色を見ているかもしれませんよ」

「そうだといいよね!!」


 私は、ルークの優しさに感謝しながらも、その言葉の意味を理解していなかった。

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