2 推し活の影響?
「エリちゃ~ん!!」
私は教室に入るなり推し活話をいつもぬるい、もとい、温かい目で聞いてくれる、同じクラスの里賀 エリちゃんの元に駆け寄った。
「ことり!! ひどい顔じゃない! いや~、私もニュースを見てことりが落ち込んでいるだろうなぁとは思っていたけどさぁ」
どうやら私のぱっちり二重は腫れて悲惨な状態になっているらしい。
でも、今はそんなことどうでもいい!! それよりも大事な話をしなければならない!!
「どうしよう~W2が……うぅぅぅ。もう何もかもお終いだ~」
「何言ってんのよ。たかが音楽グループの活動休止でしょう? 待っておけばいつの間にか再開されるわよ」
エリちゃんの話は最もだけれど、なかなか自分の不安定な心を正常に戻す言葉がかけてもらえそうにない。
「ほら、良く考えてごらんなさいよ? 私たちは高校二年生なのよ? これから何が待っているの?」
エリちゃんは冷静な顔で悟りを開くかのような口調で尋ねてくる。どうやら説話が始まるらしい。
「えっと……何が待っているか? 青春?」
「……ことりの頭の中がお花畑だということはわかりました。違います。受験です!!」
「……受験……」
きちんと将来について考えようと思っていたけれど、推し活に夢中で自分の将来について疎かに考えていた私は、ぽかんと口を開けてエリちゃんの冷たい目と視線を合わせる。
これは、「おバカさんね」と心の中で言っている表情だ。
「そう。もうそろそろ受験勉強始めないといけないでしょう? 受験まであと一年半なのよ? そんな時に推し活していたら、どうなると思う?」
「受験の時に推し活? ……やる気がめちゃめちゃ出て受験勉強が捗る?」
「……違います。捗るかもしれませんが、推しに割く時間が多すぎて勉強不足に陥ります!」
「嘘!? 推し活って受験の妨げになるの?」
私は俄かに信じられなくて聞き返す。
「いや、人によるわよ? 推しをこよなく愛しながらも受験勉強が捗る人もいるけれど、ことり、あなたは残念ながらそういうタイプの人間ではないわ!! 私が保障する!!」
エリちゃんは、人差し指をピンと立てて力説する。
「思い出してごらんなさいよ。高1の時に、W2の新曲がリリースされた時期と学校のテストが重なった時はどうなった?」
「えっと……」
私は顎に右手の人差し指を当てて、考える。
「何度も曲を聴き過ぎて、テストの問題を解いている最中も曲が流れていた!」
「そうね……、他には?」
「曲の中に出てくる英語の翻訳を調べて、英語の勉強をした!」
「えぇ、テスト範囲ではないのにね。他には?」
「えっと……推しが出てくる放送番組を録画して、繰り返し見ていた!」
「そうよね……それで寝不足になったという黒歴史を覚えていないの?」
エリちゃんは、推し活が勉強に必ずしも良い影響を与えるのではないと、「悪い例」として私の行動を指摘する。
「言われてみれば……あの時のテスト結果は散々だったような……?」
「散々なんてものじゃありません!! 夏休み補習授業になって私に泣きついてきたことをもう忘れたの?」
「はっっ!!!」
私はエリちゃんの発言で、去年の忌まわしい過去を思い出す。
「……補習のせいで……補習のせいで……W2が出演するサマーソニックに行けなかった!!」
「……やっと思い出したか……」
「うわ~ん、悲しい過去を思い出しちゃったよぅ~」
「ほらほら、だからことりの場合は推し活が激しすぎて勉学に悪影響を及ぼしているのよ」
「……悪影響……」
思わぬ指摘に、推し活をダメ出しされたようで心が闇に包まれる。いや、今朝からすでに闇の中なんだけれど。
「だからね、こう考えなさいよ。これはW2がことりに受験に集中できるようにタイミングを合わせて、活動を休止したと思うのよ。ほら、何だか運命を感じない? 彼らの優しさが偶然だと思う?」
「思わない!! きっとこれは偶然ではなく必然だったのね!!」
「そ、そうよ!! きっとね! だから落ち込む必要なんてないのよ!」
「うわ~ん! エリちゃん有難う!! 何だかわからないけれど、少し元気になってきた」
私の頭をよしよしと撫でるエリちゃんが「チョロいな」と思っていたとは、全く気が付いていなかった。
でも、前向きになれたのは間違いないのだから、エリちゃん様様だ!!




