17 カテイカとエプロン
「私が入っているのは、家庭科クラブよ」
「カテイカ…」
部活の名前を言ってみたけれど、いまいちピンと来ていないみたいね。
「例えば、お料理作ったり、手芸? ソーイング?したりかな」
「料理とソーイング…」
「しかも週二回しか活動がないの。私は家の手伝いもあるからちょうどいいのよ」
「ことりは、晩御飯作ったり洗濯とかアイロンしたりお母さんの手伝いありますね」
ルークは静かに私の話を聞いていたけれど、意を決したように私の両手を大きな手で包み込む。
「ことり! カテイカ見てみたいです!! いつ行きますか?」
「え? ルーク、家庭科クラブに興味があるの?」
「はい!」
いつも小声でボソボソと話すのに、興奮しているのか声量が大きいルークを初めてみたため、私も目を見開いてしまう。
おうおう、声を出そうと思えば出せるのね。
緊張していたから小声だったのか、興奮した時だけ大きくなるのかはまだわからないけれど。
両手を不意に触られてドギマギしている私の顔を覗き込むように、ルークが顔を近づけてくる。黒縁眼鏡の奥に真剣な瞳が見えた。
あらまぁ、何て綺麗なこげ茶色の瞳なんでしょう。
ぱちくりお目めだから…カラーコンタクトにも見えるけど…。
いつもこちらから見えない瞳の色が見えて、少しドキリとしてしまう。
いやいやいや…。男性に免疫がないから心臓がお祭り騒ぎしているわ。
しかもルークの距離感!!
横で「あらあら、まぁまぁ」なんてエリちゃん呟いていないで、助けてくれたまえ。
私のオロオロしている姿をエリちゃんは楽しんでいる。
ちっ! エリちゃんはそういう子だったわね!!
「明日は家庭科クラブあるけど、一緒に行く?」
「行きたいです」
「明日はクッキングの日よ! しかもテーマは『和食を作ろう!』なのよ。 大変!! ルークの身体に合うエプロンを放課後、買いに行かなくっちゃ!!」
私はすかさず、手をブンブン振ると自然とルークの手から解放される。
ルークの大きな手のひらが離れていって、少し寂しい気もするけれど私の心拍数を平常に戻すためは必要な行動だった。
初登校日は、放課後もルークの身長を活かしたい目論む各運動部からの勧誘が耐えず、エプロンを何とか購入して帰宅する坂道を上っている時には暗くなり始めていた。
「遅くなっちゃったわね。急いでご飯作らないと!」
私は速足で家までの道のりを歩いていく。
横のルークの息が切れていないか心配になって、彼の横顔を見上げてみるけれど足が長い分、ゆっくりと私に歩調を合わせてくれているようにしか見えない。
神様。背のちっこい者には試練が多すぎませんか?
そんなことを一瞬考えたけれど、ルークの口元がほころんでいるのを見て、つい嬉しくなる。
「ルークの身体に合うエプロンが見つかって良かったね!」
「はい。とても気に入りました」
我が家にあるのは、女性ものの可愛いエプロンと大樹の料理実習用の子供エプロンしかなかったため、背の高い男性用のエプロンを探しに、我が家とは反対方向の百貨店に寄ってからエプロンを探してきたのよね。
最近は料理男子も多いとのことで、品揃えはとても豊富だったけれど、ルークはとてもシンプルなエプロンを二枚購入した。
一つは黒地に白いエスプレッソカップと直火のエスプレッソメーカーがプリントされている柄で、もう一つは濃い緑地に黄色い鳥一羽が刺繍されているデザインだった。
それを手にした時のルークの表情を思い出して、私は火照る顔が暗さで見えていないことに安堵する。
「こんなに可愛い鳥さんの柄のエプロンでいいの?」
「えぇ、小鳥です。ことりとずっと一緒にいられます」
……!!
どっちの意味なのよ!!
何でも良い方に理解しがちの私の脳は、勝手に勘違いしちゃうけどいいの?!
男性に免疫のない私は、終始ドキドキする生活が続きそうだ。
お読みいただきありがとうございます。
次話から第三章「動き出した想い」になります。




