16 部活に入ろう!
山田先生が教室に入って、朝の挨拶をする前から廊下がざわついている。
二組に来るまで歩いて通ってきた五、四、三組の生徒が転校生の存在を見つけて、騒いでいるようだ。
「何だよ~!!」
「うちのクラスじゃないじゃん!!」
大きな叫び声と残念がっている声がここまで聴こえてくる。
むふふふ。残念だったな、君たち。ルークは私のクラスなのだよ。
私は心の中で少しだけ優越感に浸る。
山田先生が廊下にいるルークに声をかけた。
「入って下さい」
そう合図をされて、ルークは頭をぶつけないように教室の上枠に気を付けながら静かに入ってくる。
すまない、ルーク。ジャパニーズサイズはどこも小さいかもしれない。
「自己紹介できるかな?」
「…はい。…初めまして。ルークです。アメリカから来ました。宜しくお願いいたします」
パチパチパチ!!
私は心の中で、良くできました!! とルークを褒めちぎる。
頑張ったわ! うちの子!!
「じゃあ、席は…笹波さんの隣の席に座ってくれるかな?」
「はい」
ルークは先生に聞こえるか聞こえないくらい小さい声でコクリと頷くと、私の隣の席までやってきた。
「せんせー! なんでルークは笹波さんのことを知っているんですか?」
私が笹波だと手を挙げていないのに、スタスタと真っ直ぐ私の隣の席まで歩いてやってきた行動に疑問を持ったのは、一番前の席の優等生の内藤くんだ。流石だな。
「あぁ、実はだな…」
山田先生はホームステイで留学に来ていることを、自分の口から話していいのか戸惑ったのか私の同意を求めるために視線を投げかけてくる。流し目で見られると先生とデキていると勘違いされるからご遠慮いただきたい。
でも、先生の言いたいことはしかと伝わりましたよ! もちろん、話していただいて構いませんよ!!
私は視線と微笑みでそれに応えると、先生も意思をくみ取ってくれて説明を続ける。
「笹波の家にルークはホームステイしているんだ。一年間、留学に来ている留学生だし、日本語を学びに来ているから、みんなは綺麗な日本語を使うんだぞ!!」
「「「は~い」」」
クラスのみんなが私とルークの顔を交互に見比べながら、「へぇ、そうなんだ~」とあまり興味なさそうに軽くうなずいている。
ふむ、どうやらあまり関心を持たれていないようだが、それでいい。
ルークはとても話し声が小さいから、目立つのは好きじゃないのかもしれない。実は陽キャ…という可能性もゼロではないけれど、ひとまず無口なルークを受け入れてもらえたらそれだけで、今日という日は、百点満点なんじゃない!?
■■■
休み時間に同じ階の人が転校生はどこだと廊下か様子を探りに来ていた。
しかも、すごいのは運動部の子が入れ替わりでルークに挨拶にきているということだ。
「ルークくんって、部活何に入るの? 背が高いしバスケなんてどう?」
「いやいや、身長を活かすならバレーボールでしょう」
「陸上とか興味ない?」
早速、部活動の勧誘を受けているけれどルークは静かに断っている。
「スポーツは…やりません。ごめんなさい」
ルークは丁寧な日本語で勧誘に来た人に入部できないことを伝える。留学生だから、途中で入ったり抜けたりしたら迷惑がかかると思っているのかもしれない。
先を見通しているなんて、えらいわ! ルーク!! 多分だけどね!!!
私は勝手に解釈して、ルークの言動を再び褒める。
「でも、なんで運動はしないの? 背も高いし苦手ってわけじゃないんでしょう?」
気になったのか、親友のエリちゃんが突っ込んだことをルークに尋ねる。
そうだね。真実はどうなんだい?
私もルークの本心を知りたくて、断っている理由を一緒に聞くことにした。
「スポーツは好きです。でも…今は、他のことをやってみたいです」
「他のことね…それはまだ決まっていないの?」
「はい…」
エリちゃんが聞いてくれたおかげで、私もようやく彼の希望が理解できる。
そうなのね。運動は好きだけれど、せっかく日本に来たのだから、別の事に挑戦してみたいってことね!!
そうか。ルークの隠れた腹筋を活かす場所は無かったか。残念。
「ちなみに…」
ルークが前髪の隙間から私の様子を窺っているような気がする。黒縁伊達メガネのフレームがキラリと光る。
「ことりは、どんな部活をしているのですか?」
「え? 私?」
ルークが私に興味を持ってくれるとは思っていなかったから、少し驚いたけれど自分のことを聞いてもらえるのってとても嬉しいのね!
ついつい嬉しくなってしまい、笑みがこぼれる。
「派手じゃないのよ? とても地味な部活なんだけれど…」
私は花形の運動系の部活ではないから、少し躊躇いながらどこに所属しているのかルークに打ち明けた。
お読みいただきありがとうございます。
ことりの部活は何でしょうね? 正解は次話で!




