13 So dear to knight
私が通っている高校にルークが通う初登校日。
制服の注文は、ルークが来日した次の日に採寸に行ったけれど、十日ほどかかるらしい。
母が事前に高校に制服が間に合わない可能性があると伝えたところ、とても穏やかな校風のおかげで、制服が間に合うまで、白いシャツと黒っぽいズボン、あとはネクタイを締めていればどんな格好でも構わないと了承を得ていた。
さすが、緩すぎずほどよく順応してくれる高校だ。
身支度を整えると玄関で靴を履き、ルークが玄関まで来るのを待つ。
先生から事前に、私と同じクラスになることは聞いているので一年間は学校でも、家でも顔を合わすことになりそうだ。
階段からカバンを手に降りてくるルークは、相変わらず黒縁眼鏡で前髪もモッサリしている。
んー。大丈夫かなー。馴染めるかなぁ。
同居人が学校に馴染んでくれるか少し不安になる。日本人の場合、相手の目元が見えないからちょっと話しかけにくい印象を受ける気がする。
かといって、「前髪切ったら、もっと格好良くなるよ!」とかも言えない。心の扉を全開放するほど、まだ仲良くはなっていない。残念ながら。
ルークが気に入っている髪型なら、何も言わないほうがいいかもしれない。
玄関で元気よく「いってきまーす!」と挨拶をすると母が「いってらっしゃーい!」と出勤前でバタバタとしながらも返事をしてくれる。
「……いってきます」
ルークも小さな声で玄関ドアを閉める前に挨拶をしているのが聞こえた。
よしよし。声量はともかく、日本語で基本的な挨拶はできている。
素晴らしい! 挨拶は基本だ!
そんなことを考えながら、ルークと一緒に駅まで歩く。
行きは下り坂になっているので、ウキウキと下っていけるのだ。
逆に帰り道は疲れているし、買い物袋などがあると重たいし上り坂だから結構ハードな道だ。
「ねぇ、ルークってさぁ~」
私は横を歩くルークにチラッと視線を送ってから、思い切って尋ねてみる。
「W2のファンでしょ? うふふふ。だって、この間、W2のルカ様の投稿写真を真似して、スーツケースの写真を撮影したんじゃないかなって思ってたのよ!」
「……じ、じつは…」
ルークは何て説明しようか少し考えているみたい。ひょっとしたら、日本語がわからなくて返事に困っているのかもしれない。
「W2なんです…」
「そうよね! 私も大好きな推しグループはW2なんですよ!」
ボソボソと小さい声で返事をしてくれたルークの声を輪唱するかのように、私も好きなんだと伝える。
ルークの日本語が少しおかしいと思ったけれど、多少、単語が抜けていても察知して読み解いた私はえらい!
「いえ…」
ルークが何か伝えたそうに私の方に顔を向けながら歩き続ける。
「そうではないと…」
「So dear to knight? あの曲が好きなの? 確かに!! 私も好きなんだ!!」
ルークが言った言葉が英語の曲名に聞こえた私は、推し活している友人が同居していることに喜びが増して、朝からルンルン気分になる。
それから駅に着くまでは、ルークは私の鼻歌を静かに聞いて、少し口元を押さえながら笑っているように見えた。
良かった。ルークも私と同じ推しだなんて!! 毎朝、W2の話題ばかり花を咲かすことができそうだ。




