1 突然の大ニュース!
どうぞ宜しくお願い致します。
「ピヨピヨピ~ ヒョヒョヒョヒョヒョー♪」
「ん~! よく寝た!!」
朝の目覚めは優しい鳥のさえずり音のアラームから始まる。
私は、笹波 ことり 高校二年生。
敢えて大好きな推しグループの音楽で起きることはしていない。
だって、一度曲を流し始めたらずっと聴いていたいんだもん。
アラームとして消すなんてことはありえない。
私は、寝台の上の両膝をついて、窓に手を伸ばし、薄い黄緑色の葉っぱのシルエットが描かれたカーテンを勢いよく開けて陽光を浴びる。それから、階段を下りてリビングに入る。
これは毎朝の活動の合図だ。
「おはよう!」
「あら? 今日も時間ぴったりね。いつものチェックかしら?」
「うん! そう!!」
私は充電ステーションに置いてあるスマートフォンの充電コードを外すと、指でスライドして大好きな推しの情報をくまなくチェックするのが日課だ。
母はキッチンで卵焼きを作ろうとしているのか、カチャカチャとかき混ぜる音が聞こえてきた。
「どれどれ~」
朝から推しの最新情報を手に入れ、推しの毎日の笑顔を見て癒されてから登校しないと元気が出ない。
私の推しは、国際的なダンス&ボーカルグループ『Wonder Wild』、通称 W2。
構成されているメンバーの国籍が異なっているというのが売りらしい。
五人のメンバーで構成されているけれど、日本、アメリカ、タイ、韓国、ドイツと全く一貫性のない国の人たちで作品を作り上げているそうだ。しかも男女混合のグループなのにダンスも個性があって、曲だけでなく見ているだけで楽しむことができるアイドル。
どの国で歌や作詞をしているのか、どこでダンスの練習をしているのかとか謎が多い。
だからこそ、毎日更新される写真を見て、どの国にいるのか予想するのだ。
一見、明るくて和気あいあいとしたメンバーだけれど、一度、歌い出して踊り出すとそれぞれの個性がキラキラと活きて、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。
その謎多き日常とパフォーマンスとのギャップが……堪らないのよね!!
鼻歌混じりで早速、スマホのトップページを見るとニュースがポンと表示された。
「『World Wild 活動休止を発表 』!? どういうこと!? なんでこのタイミングで!?」
パニックに陥りそうになりながらも、スクロールして記事に目を通す。
「韓国出身のソンジュが兵役のため、祖国に一時的に戻り兵役義務を終えることを考慮して活動休止とすることにした……え!? なんで、このタイミングで? 今、ちょうど活躍し始めて軌道に乗り始めたばかりじゃないの!? 嘘でしょ!? 誰か嘘だと言って!!」
私は震える手でスマートフォンを握りしめる。
しばらく推しの活動を見る事ができなくなると思うと悲しさとショックで、脱力感が半端ない。
落胆している私を見かねて、卵焼きを完成させた母が近づいてきてテレビをつける。チャンネルを回してくれると、やはり一部の放送局では何度も彼らの活動休止の情報をクローズアップして、デビューした時の映像、最新の曲などを組み合わせた内容を放送してくれる。
「いやいやいやいや……夢だよね? 信じられないんだけど?! ってか信じたくないんだけど?! 私の生きる源なんだよ!! いつ活動再開するとか表明してくれないと……頑張れないよぅ……うぅぅぅ」
両手で目を覆い、朝から葬式のように泣きじゃくる。
何なら、今日は学校を休みたいくらいの気分だ。外にも出たくない。
それくらいショックを受けていても、陽キャの母には私の心なんて理解できないのだろう。
手際よく詰めたお弁当を手渡すと、目が腫れていても食欲が無くなっていても洗面所に追いやられる。
「大丈夫よ! 楽あれば苦ありよ!! 落ち込むからこそ、彼らの存在の有難さを感じることができたでしょう? ほら、明けない夜はないって言うし、いつか明けるから元気出して!!」
結局、私はボロボロに泣きはらしたひどい顔で私立明幸高校に向けて出発を余儀なくされた。
母は、せっかく早起きして作ったお弁当が無駄になるのが嫌だったのだろう。熱もないのに休むことなどできるはずもないとわかっていたのに悪あがきをしてしまったなとバスの中で反省した。




