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「ネコマタではない」
そう言ってミケは姿が見えなくなった。
ミケが消えた? なぜだ?
えっ? 身体がおかしい……身体の内側、胸の辺りが急に熱くなり、それはゆっくりと手足に広がっていく。
なにがあったんだ、俺の身体がおかしい……ミケがなにかしたのか?……
驚きと恐怖で、動けない俺の身体がゆっくりと熱を失っていくとともに、背中の洞窟の中が、見えないところも含めて見える気がしてきた。
洞窟の先は背中越しだがなぜか、みえる(気がする)。向き直って洞窟の正面を見ると、なおも先がみえる(気がする)。
ミケも消え、俺の身体もおかしい、視覚もおかしくなっている、おまけに平衡感覚も……
クラクラするし……事態も把握しきれない……洞窟の先も気になるが、ここは帰らざるを得まい……
時間を確認すると、もう六時近く。
無理をしちゃいけない、もう帰る頃合いだ……
フラフラしながら、二宮さんの玄関まで戻る。ここまで戻って来た記憶がはっきりしない……
ばあさんが、玄関先で迎えてくれて、おつかれさま、ケーキを買ってあるよ、と言う。たいへんのんきである。
俺、体調、悪いんだけど……
「……ありがとうございます。うれしいです」
ばあさんに心配させてはいけない……俺は、たとえ、ばあさんの前でも、ええカッコしいでありたい……
やっとの思いで、ばあさんにそう言うと、ジャージをはたいて、ほうほうの体で、なんとか居間まで上がった。
居間ではじいさんがお茶を飲んで、待っていたかのように泰然と座っている。
じいさん、その姿、渋いよ……
今日は渋栗モンブランとお茶だった。
一休みして、お茶を一口飲んで、なんとか体調が戻ってきた俺は、モンブランを食べながら今日の驚きの報告をする。
驚くかと思ったら、じいさんもばあさんも、そうかそうかと頷くのみだ。
驚いてくれよ、俺は驚いたんだから……怖かったし……ボケちゃったのか?
そう思っていたら、
「明日からが本番じゃのう」
「あのミケが手助けするのですから」
などと知った風のことを言う。
「明日からは奉納した短刀も身に付けて行くといい」
「剣道はしたことがあるかい? 素振りもしなされ」
二人ともなにを言っているのか、わからない。
俺が怪訝な顔をしたのだろう、
「ボケちゃおらん。年をとるとわかることも多くなる」
じいさんはそう言うと、大きくうなずいた。
その自信はどこから生まれるのですか?
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