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頭のマップで歩いた経路がわかるので、草原を一直線に広場まで戻る。
ゴブリン老人に別れを告げてから、帰り道、会話の内容を二宮さんに教えた。二宮さんは俺のことばはわかったようだが、老人のことばはまったくわからなかったようだ。
さすがに二宮さんも、俺の説明にうんうんとうなずくばかりで、信じられないという顔つきをしている。
先ほどの集落……ゴブリンがことばを話し、理性を持って社会生活をしている、そんなところだとは、夢にも思わなかった……
地上で人間が文明を築いたように、ここはゴブリンが独自の文明を築いた世界なのか?
ここは、ほんとうにダンジョン?
二人でそんな感想を述べ合ったあと、
「でも、なんでミヤジ君だけゴブリン語がわかって、私はわからないの?」
二宮さんが当然の疑問をぶつけてくる。
「俺にもその理由はわからないよ。強いていうならばミケからもらったスライムの?チカラかな。それしか思い当たるものがない……」
「スライムのチカラの中にゴブリン語も入っているなんて、なんだか変! それなら、猫のチカラにもゴブリン語が入っていてもよくない? なんだか、納得できないなぁ」
二宮さんは少しプンプンしている。
「俺も変だと思うけど……」
ふだん学校の勉強、マジメにがんばってるからね、だから神さまがご褒美を下さったのさ、と冗談でも言おうかと思ったが、ケンカになることは明白なので、もちろん言わない。
広場を囲む林に入ると、スライムが二宮さんに襲いかかる。素早く身体を交わし、爪で仕留める。行きと同じで襲うのは二宮さんばかりだ。
ウサを晴らしていませんか? 二宮さん……
俺には、襲ってはこない……やっぱりミケから授かったのはスライムのチカラかな?
草原が見えてきたので、はい、と俺は手を出す。
恥ずかしい気持ちはほとんどない。
ほとんど? ……ちょっとだけ恥ずかしい……
手を繋がなければ保護膜が通れないからな。プンプン気味だった二宮さんもふつうに手を繋いでくる。ウサが晴れたのかもしれない……
ここで調子に乗って、手を組み合わせた恋人握りをしてはいけない。
きっと頬に手の跡がつくだろう。
森と草原の境目にある保護膜を手を繋いで通り抜ける。
通り抜けたら、お互いに手を離した。当然だ。保護膜を通るためだったのだから。嫌われたわけじゃない……うん……
保護膜の中の草原では微かな霧の中、数匹のスライムが飛び跳ねている。
待てよ? 俺が保護膜を通れるのもスライムのチカラなのか?
教えてくれ! スライムくん!
こころの声に反応するかのように、一匹のスライムが振り返ってこちらを見てうなずいている……気がする……
やっぱりスライムのチカラなんだ!?
自意識過剰なんじゃない? って、二宮さんにからかわれそう……
転移陣に乗って地上に戻ってから時計を見たら針は動いている。針は四時四十分近くを示している。
四時四十分??
二宮さんにまずは報告。
「時計を見たら、針が動いていて、今、四時四十分ぐらいなんだけど」
「四時四十分? 四時ぐらいに洞窟に入っているから、四十分ほどしか経っていないっていうこと? 三時間は経っていると思うんだけど。まさかもっと経っていて、朝の四時半過ぎとか?」
顔を見合わせたあと、朝の四時半過ぎってないわー、それはないでしょ、と二人で言い合いながら、急いで地上に戻る。
洞窟を出ると。
明るい。暑い。
朝ではない。太陽の向きからみて夕方だ。
おかしい。まさか丸一日経っちゃったとか?
浦島太郎の話もあるから一日どころじゃないかもしれない。
「これは夕方ね、まさか丸一に経ったとか? 家に帰って確認しましょう」
落ち着きをなぜか取り戻した二宮さんは階段を登り、さっさと家に向かう。
俺も短刀をしまって、急いで後を追った。
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