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シルバーファング

 10年杖を振り続けた。


 そして俺は人並みの魔法使いとなった。


 初めて三年は本当に成果が出ずに辛かった。だか杖を振ることだけに注力してやり切った結果、三年目にして魔法が発現した。杖の先に一瞬だか火の玉が出現してのだ。


 俺は浮かれた。大いに浮かれた。この世の全ての人がその程度で喜ぶなんてって嘲笑するほどに浮かれた。


 それでも嬉しかった。楽しかった。受け入れられたと思ったんだ。


 魔法に受け入れられずとも俺は杖を振るという決意は揺るがなかったと思うけど、やはり受け入れられるのは嬉しい。


 しかし、俺の浮かれた思いはすぐに打ち砕かれた。


 3年目からライターの炎より小さな火の玉が一向大きくならず、すぐに消えてしまう状況が5年続いて、8年もの間ライターみたいな杖を振り回していた。


 何事もうまくいくわけではない。むしろ一発でうまくいく方が珍しい。そう簡単に達成感を味わえるというわけではないのだ。


 この世界の本質は成功するまで続けることである。とは言っても、諦めてしまいたくなる時もある。何もかもが面倒に感じてしまう時もあるだろう。


 無駄な努力だと言われたり、変な奴だと思われたり、迷惑だと言われたり、他者の否定的な態度が諦めに繋がる時もあるだろう。

 8年目からは順調に魔法が強くなり、そして杖を振り始めて15年で俺は火の玉を放つことに成功した。


 まだ水風船をぶつけたような感じだが、燃えるには燃えるのでそれなりに強力な魔法だ。


 もうこっちの世界でも20歳になった。友達もコロコロ変わり、今は同い年の友達が多い。


 前世の知識を持った天才性も消え失せた、ただの凡人になった。なまじ変な知識を持ってるものだから変人とも言われている。


 現状散々だが、それでいい。


 俺は兄と初めての魔物退治に出た。


 兄は25歳でそれなりに魔物退治の経験がある冒険者だ。


「なぁ、兄者、今日の魔物は強いのか?」


「弱いぜ、ただの初級モンスターで、お前がはじめに倒すべき魔物だ」


「俺に倒せるのか?」


「倒せるさ、倒せなくても倒せるようになるまで付き合ってやるよ」


 俺の異世界の兄は俺より5歳年上の25歳だ。


 兄者は長男として責任感のある立派な人だ。まぁ、前世を付け加えれば俺の方が15歳も上だが。


 それでも兄は頼りになる男だ。剣術、魔法どちらも上級レベルで、上級の魔物リザードマンなどを1人で倒すことができる。


「すまんな、兄者、こんなことに時間を使わせてしまって」


「何言ってんだよ、こういう時こそ、俺を頼れ、てか困ったときはいつでも俺を頼れ」


「頼りにするよ」


「それでいい、人は助け合って生きるものだ」


  そうこうしている間に俺たちは初級モンスターであるシルバーファングが生息する場所についた。


「お前がシルバーファングを倒したら今日は俺がご馳走してやる」


「やる気でできた、頑張るぞ」


 俺と兄者はシルバーファングに遭遇した。全長2メートルほどのイノシシだ。


 前世で遭遇すれば、軽自動車に轢かれるのと同じくらいの敵だけど、こちらの世界は魔法や剣技を駆使して立ち向かう冒険者が多い。


 シルバーファングが兄者に向かって突進してきた。兄者はそれを華麗に交わした。


 シルバーファングはゆっくり減速して方向転換し、再びこちらに突進してくる。


 シルバーファングは俺めがけて突進してくる。


 俺の心臓はバクバクしている。前世が車に轢かれて死んだのが原因か、異世界で初めて死の危険を感じているのが原因なのか、きっと両方だろう。


 俺は突進するシルバーファングめがけて魔法を使った。


 火の玉はシルバーファングの鼻面に当たる。シルバーファングは嫌がるように鼻を振り、突進をやめた。


 シルバーファングのhpが減る。


 この世界はhpやspなどが可視化される。簡単に実力がわかってしまう。


 そのため無謀な挑戦をする人は前世よりも少ないように思う。


 ときに残酷だか、実力が可視化されることは自惚れることなく、卑下することなく、自分の能力と向き合うことができる。


 シルバーファングの緑色のhpバーが4分の1ほど減る。


 俺は昂っていた。戦っている実感がした。


 シルバーファングは俺に狙いを定めて、足を回して、突進する準備をしている。そして突進してくる、その突進のスピードは以前よりも早く俺は逃げきれないと判断してそれを受け止めようと考えた。


 俺は運動エネルギーを甘く見ていた。自分ならやれると過信していた。


 俺は盛大に吹っ飛び、左足の骨が折れた。


「いってー」


「足が折れてるな、今日は無理そうだな、まぁ失敗は成功の元だ、今度はシルバーファングの突進を止められるようになろうな!」


 再び足が折れて立てずにいる俺にシルバーファングが突進をしてきた。


 その間に兄者が入る。


 兄者は日本刀のような剣でシルバーファングを受け止めた。


 それから兄者は牙ごとシルバーファングを一刀両断した。


「すごい」


「どんなもんだい!」


 俺は兄者との力の差を痛感した。異世界無双できない現実を絶望した。


 失敗は成功の元というが、失敗はトラウマにもなりうる。


 俺には失敗を乗り越える勇気があるのかわからない、今までなんだかんだ言い訳してあらゆることから逃げてきた。


 勇気はある方だと思ってたけど、最後までやり遂げることがあまりない。

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