継続できる凡人
何もかも失った。いや初めから何も持ってなかった。これは1からのスタートだ。
俺は俺がいるだけの1だ。
俺はトラックに轢かれて死んだ。
そして異世界転生して生まれ変わった。
ここは魔法が使えるらしい。俺はまだ使っていなが、家族や友達はみんな使っている。
まだ俺は転生した5歳で、現世では20歳の時に死んだから、足して25歳だ。たいして社会を知らないまま死んだから俺はずっと子供のままだ。
だから俺は生まれ変わった時から、大人のような振る舞いをしてきて、友達はみんな年上だ。
巷では天才赤ちゃんと呼ばれていた。だが5年もすれば飽きられ今はちょっと有名なインフルエンサーって感じた。
俺は友達の中で一番魔法が使える奴に話を聞いた。
「どうやったら魔法を使えるようになるんだ?」
「そうだな、こうやって、こうだ」
友達は俺に指導するが全く当てにならない。
俺には杖を振り上げ、振り下ろしたようにしか見えなかった。
それなのに、振り上げた時には杖には火の玉が発現して、振り下ろした時には火の玉が標的にぶつかり焦げ跡を残し消えた。
因みに標的の木の板には火が燃え移らないように魔法がかけられている魔法訓練用の標的だ。
「ああ、そうだ、魔法には信頼が必要なんだった」
「信頼?」
「魔法を信頼すれば、魔法が僕たちを信頼してくれる」
友達はオカルトっぽいことを言い始めた。
「どうすれば信頼したことになる?」
「そりゃ人に信頼するのと同じだよ、多くの時間を共に過ごしたり、信頼できそうな魔法を見つけたり、頼ったり、信じたりすればいい」
「そうすれば魔法を使えるようになるのかよ?」
「いや、魔法からも信頼される必要がある、誠実に接したり、他の魔法に信頼されていたり、ありのままの能力で無理のない範囲で期待に応えればいい、そうして信頼されればあとは魔法が答えてくれる」
「信頼とかめんどくさいな」
俺がめんどくさがると、友達は杖の先を光らせた。そのまま光を部屋中に撒き散らす。
「面倒に思わない工夫をしないと、この魔法はとっても綺麗だろ、宇宙の神秘とでも言えるぐらいに」
「だからなんだよ」
「綺麗だから続けられる、強くなるから続けられる、上手くいくから続けられる、簡単だから続けられるとかあるだろ?、継続は力なりだって言いたいんだ」
「俺は魔法が使えないんだから綺麗でもないし、強くもならないし、簡単でもないな、どうすればいいんだよ」
「確かにそうだな、悪いことを言った、毎日杖を振るっていう簡単なことから続けてみようか」
「そんなつまらないことできるかっ!」
「いやいや、魔法は使えるようにならないかもしれないが、魔法を使えるようになろうという努力をしているという事実がいいんじゃないか」
「期待してもいいのか、魔法が使えるようになるって」
「期待はしちゃダメだ。結果の伴わない期待は続かないと思う」
「実際俺は魔法を使えるようになるのか?」
「継続すればいつかは使えるようになると思う」
「それで杖を振り続ければいいと」
「最悪やらなかった後悔は少ないと思うよ」
友達はそう言って帰っていった。
俺は魔法訓練場で杖を振り続けていた。無理は続かないというけれども、ついついムキになるのが人間なんだ。
俺は杖を振り続けることができるだろうか。つまらないことを繰り返すことは俺にはできない。されど面白くもできない。では俺はなぜ魔法を得ようとしている。
魔法を使いこなせるようになると思ったから?
異世界転生、俺強、チートで無双できると思ったからか?
そんな上手い話はなかった、あるはずがなった。だってそうだろ、今までの人生、クソみたいな現世の記憶を持って生まれてきただけじゃないか。
天才ならその現代の知識で無双できたかもしれない、だが俺は転生しても怠け者だ。向上心なんて持ち合わせていない。
「悩むな、引きずるな」
今帰ったはずの友達が戻ってきた。
「忘れもんでもしたのか?」
「ああ忘れてたよ、そんな辛気臭い顔で魔法をやるな、魔法は楽しいものだって伝え忘れてたよ」
「それは魔法が使えるやつの方便だよ、俺は魔法を使えねぇ、だから楽しくなんかない」
「お前は、上手くいなかいやつは全部楽しくないのか?、初めはなんだって上手くいかなくて当たり前だろ、それだからお前は、、、いや悪い言いすぎた」
「それだからなんだよ!、そんなのわかっている、だけど続けられないんだ。いつのまにか終わっている、それが俺の人生だった」
「お前の人生これからだろ、簡単なことでいい、続けてみろ」
「わかったよ」
俺は1日1回杖を振ることにした。何回も振るのはめんどくさいからだ。
1日100回よりも、100日1回ずつの方が自分の意思に期待せずに済むだろう。
友達は俺にできないつまらないことでも続けろと言った。
俺は前世では何も続けることができず、終わってしまった。今度こそは10年は何かを続けてみたい。
10年で3650回、杖を振るう、魔法が発現するかはわかない。
ただ継続して努力したという事実が自分に自信をくれるはずだから。