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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
第一章 『混沌の魔王城』
8/35

8 例えそれが魔王城であったとしても

魔王城の紹介。それは意外な方法で行われた。


「はい、これとこれ。」


ユウシンに渡されたのは、真っ白い拳ほどの石と、一枚の紙だった。

その紙には色んな言葉が、それぞれ違う文字色で書かれており、それが紙一面にある少し変わった紙だった。


「これは?」

「その紙に書かれている言葉、それぞれ色が違うだろ?その言葉一つ一つが、この魔王城にある部屋の名前だ。行きたい部屋があったらその魔石を口に近づけて、文字の色を伝えなさい。そしたら、転移魔法が発動してその部屋に連れて行ってくれる。」

「えっ?それだけ?というか、いくつあるのこれ。」

「分からない。住む者が増える度に色々な部屋を増やしたから。とりあえず、その紙に書かれているのは知っておいた方がいい部屋だ。見ておいたほうがいい。全てとは言わないけど、知っておいて損はしない部屋ばかりだからね。」


自分の城なのに部屋の数が分からないなんて、どれほど規格外の場所なのだろう。入る前もその大きさには驚いたが、やはり中も恐ろしい広さをしているのが、今の彼との会話で分かる。部屋に行くのに転移の魔法が必要だなんて、聞いたことがない。


「ねえユウシン、このお城ってどれぐらいの大きさなの?」

「改修に改修を重ねてるからね。どれぐらいの広さかな?何人かの部下が勝手に広くしたりしてるから、実を言うと、もう僕でも分からないんだよね。」

「それ、絶対止めた方がよくない?」

「いや、僕も初めは注意しようかなとは思ってたんだけど、よくよく考えれば、毎日魔王城の中身が変わるって、それはそれで毎日が新鮮になって面白いかなって思ったんだよ。それで放置していたらここまでの規模になっていて僕も驚いている。」


魔王城の実態を聞く度に、想像と違いすぎてあの絵本はなんだったのかと思ってしまう。抜け出したあの国にあった絵本、そこから知れる世界が全てだと思っていたから、知らないものや想像と違ったものに私はとにかく弱いらしい。

持ち主自身もよく分かっていない城の探索なんて、絶対全部まわりたくなるに決まってるじゃないか。そもそも、ずっとあの国に居たから、他種族との交流も初めてなわけで、どんな人達と絡めるのか、それを考えただけでも幸せの極みにいける。


「魔王城…夢の塊みたいなところでレンカは大満足です。」

「えっ?まだ何もしてないけど…」

「ふっふっふ。そうです、まだ何もしていないのにこの満足度。ですが、今の私のこの昂った気持ちは、満足程度では収まらない!早速、行ってみたい部屋があるのですが!」

「楽しんでくれていてなによりだ。勿論、希望には応えるとも。どんな部屋だい?」


規格外の大きさの魔王城、色々な種族がいる。この二つの事実を知って、真っ先に思いついた行きたい部屋がある。


「本が、置いてあるところに行ってみたい!できれば沢山!置いてある部屋…ありますか?」


それは、私の大好きなものが置いてある場所だ。選ばれた者として豪邸暮らしとなった私が、唯一普通に楽しめたのが、本が沢山置いてあった一つの部屋だった。

正直、初めは退屈しのぎ程度にしか思っていなかったが、いつしか大好きなものに変わり、それからずっと読んでいたいものにかわった。

だが、量には限界があって、その場にあった二百冊はすぐに読み終えてしまった。その時に、もっと沢山の本を、世界中の本を読んでみたいと願った時があったのだが


「本?だったらその魔石に緑と伝えてみるといい。この魔王城で一番の広さを誇る図書室に転移できるはずだ。」

「図書室!やっぱりあるんですか?!」


図書室、私がいた部屋もそう呼ばれていた。だが、私がいた豪邸とは何もかもが比べ物にならないぐらいの大きさを持つこの魔王城だ。私のいた図書室とも、きっと比べ物にならない図書室であろうことは容易に想像できる。


「うん、あるよ。ただ、初めに行くところが図書室でいいのかい?他の部屋と比べると、特に想像と変わりない普通なところだよ?」

「はい!そこがいいんです!緑…でしたよね?行ってみてもいいですか?」

「当然。レンカが行きたい所なら好きに行ってもらって構わないけど…図書室を初めに選んでくるとは意外だったな。読書が好きなのかい?」

「うん、大好き!大好きなの!本が!」


どうして好きなのかと問われたら、私はきっと幸せな気持ちになれるからと答えるだろう。自分でもよく分からないけれど、全く知らない話のはずなのに、笑ったり泣いたりする事ができて、読んでる間は嫌な事を忘れる事ができたり、集中しすぎて時間を忘れてしまったり、そんな色々なことがおきるのに、結局最後読み終えた後は、楽しかったの単純な気持ちだけが残って笑って終われる、


そんな不思議な力を持つ本に何度救われたか。だから、それが例え一時的なものであっても、幸せを感じられる本が私は好きなんだ。


「そっか!じゃあ行ってみよう!魔石に色を!」


確かにこんなにも素晴らしいところにきて、初めに行くのが図書室というのは勿体ないと思う人もいるかもしれない。

けれど、魔王城とか関係なく、そこに好きなものがあったら私はそれを選ぶ。


「緑!」


こうして私は、魔王城に来て初の探索場所になる、図書室へと転移した。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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