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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
序章 『魔王城の人姫』
6/35

6 魔王城の人姫に

捧げの日。選ばれし者が、国を救うために神へと捧げられる日。


「は、あ、ああ、なんだ、なにがおきている?!これは、一体どういう事だ?!おい貴様ら!」


この儀式の進行役であるリオードは、空を見上げ、そのありえない光景に驚く。リオードだけでなく、その場にいた国民、そして捧げ者当事者である少女も、その光景をまた信じられないでいた。


「こんな事って…」


神の加護によってつくられたとされる空の壁。その壁に私が突っ込むことで、儀式は終了し、全てが終わるはずだった。


「どうして…空の壁が消えているんだ?」

「いや、それよりあいつらがしたのか?誰なんだあいつらは」


儀式を一目みようと、ついてきた国民たちの間にも困惑と混乱がひろがっていく。

皆が驚いている理由は二つあった。一つは、本来、空の壁があるはずの場所が綺麗に晴れており、雲ひとつない晴天になってしまっていたこと。そしてもう一つは、その空に、黒のローブに黒のフードを被った男が浮いており、そしてさらにその男の後ろには、数え切れないほど、同じ姿をした者が並んでいたこと。


「おい!貴様ら!ここにあった空の壁はどうした!」


先頭に立つリオードが上空に向かって吠える。今この瞬間、リオードだけでなくその後ろの全ての者が、その集団を見上げていた。

すると、その声に答えるように一斉にその集団が降下し、地上のリオードの前に降り立つ。


「ひっ!」


リオードが情けない声をあげ、後ろに倒れる。その黒の集団の先頭、私だけが唯一見覚えのあるその人が、リオードの横を通り過ぎ、その後ろにいる私の元へと近づいてくる。


「…どういうこと?」


目の前までやってきたその男に、私はそう問いかける。知っている人物がいるということ以外、全くもって理解できない現状だ。

なにがおきているのか。私が後ろにいる人達みたいになんとか騒がずにいられるのは、知っている人物がいたからに違いない。


そしてその男は、私の問いに対し、フードをとり


「お迎えにあがりました、姫。さぁ、我らが魔王城に帰りましょう。」


紫色の短髪で、黄色い眼が目立つ男が、私にそう答えた。


「…はい?」


男がそう言った直後、後ろにいた黒い集団が皆、片方の膝を地につけ、私に向けて顔を伏せる。思わず拍手をしたくなるぐらい、誰一人遅れることなくだ。


「えっ、ええ?な、なんですかこれ?!」

「昨夜、言ってたじゃないか。姫になりたいって。だから、叶えに来た。」


男は笑顔でとんでもない事を言いだした。

開いた口が塞がらない。いや、本当に何が何だか理解ができない。できないというより、目の前の光景が非現実過ぎて、事実だと受け入れられない。


「こ、困ります。突然過ぎて…そ、それに魔王城って…何言って…だってそれは魔王の住処?でしょ?そんなのあるわけ…」


昔読んだ絵本で登場していたくらいで、誰かと話していてこの単語を聞いたのは初めてだ。だが、空の壁が消えているのと、目の前の跪く大勢の人、人と呼ぶのが正しいのかも分からなくなったが、この現状を考えると凄く心がざわついてくる。

これはもしかするともしかしてしまう、とんでもない事態になっているのではないかと。特にこのリーダーっぽい人に話しかけられている自分は、特にやばいのでは。


「うーーん、それは少し違うかな。正しくは、魔王である僕と、配下の者達も住んでいる家だ。」

「…魔王?配下?えっとぉ?」


参った。本当に分からない。これはこの言葉のまま理解していいのだろうか。だとしたら、だとしたらだ。


「え?本当に何しに来たの?」


男は少し困ったような顔をするが、すぐに笑顔に戻り


「ふむ。少し混乱しているか。でも、理解は後からでもできるからね…じゃあもう少し分かりやすく言おう。僕と一緒に来てくれ。」

「どうして…私?」

「助かりたい、姫になりたいと言っていたじゃないか。だから、姫を助けに来た。」

「…は、ははは。確かに…言ったけど…言ったけどさ…」


こんなにも私にとって都合の良い話があっていいのだろうか。行くと言うだけで、私が望んだこと全てが手に入るこの話を。


「夢みたい…ねぇそれ信じていい?」

「当然。僕は嘘をつきにきたわけじゃない。」


本心を一度話した相手だからか、信じてみてもいいと思ってしまう。そして答えなんて決まっている。納得いかない、今の気に食わない運命を受け入れるか、夢みたいな話を信じるかの二択だ。


「行く!魔王城!」

「おお、良かった。断られたら笑い話になっていたよ。」

「本当に、お姫様になれるの?」

「うん、なれるよ。魔族の姫だけど。」


素敵だ。ありだ。ものすごく、ありだ。


「連れてって~!」


言ってみたかった台詞。まさか言える日がくるなんて思わなかった。


「じゃあ掴まって。はい、皆。撤収だ。」


魔王がそう言うと、後ろのいる魔族達が一斉に立ち上がり、再び宙へと浮いていく。

そして私も、魔王のローブに掴まり


「おおーー!本当に魔王なんだ!凄い!」

「これは魔王じゃなくてもできるよ。それこそ君もね。」


浮いていく身体に感激する。


「ほんと?教えて!えっと…なんて呼べば?私はレンカ!」


今更になってお互いの名前を知らないことに気がつく。


「そうか、よろしくねレンカ。僕はユウシン。向こうで教えるよ。」

「よろしくユウシン!」


こんなのありか?こんな現実許されていいのか?まだ分からないけど、なんて爽快な気分なんだろう。


「待てい!!」


そこで、空に上がったところで、リオードの声が下から聞こえてくる。


「なんだ?」


そこで上昇が止まり、ユウシンがリオードに答える。


「そいつは捧げ者だ!勝手に連れていくことは許さん!」

「空の壁は消えた。レンカは自由だ。」

「そいつを捧げれば、また神の加護が、空の壁が復活する!魔王などとふさげおって!我らのものを返せ!」

「…恐ろしい考えだ。あなたの考えを、僕は理解ができない。そして、そんなあなたにこの子を渡すことはできない。」


そこで、リオードは初めて私の方をみて


「…選ぶべき者を間違えたか。そして、間違えたから私達は神に見放され、空の壁は消えた…きっとそうなんだ…レンカ…レンカァ!貴様のせいだぞ!一体どこでそいつと繋がった?汚れた身で、ずっと私達を騙してきたんだな!この悪魔め!満足か?!この結果になって、満足か?!この贄の分際で!」


下にいる者たちが一斉に、その言葉にのっかるように悪魔だと私に言う。

言われる側になって、改めてこの国の異常さを思い知る。空の壁なんて、何一つ分かっていない、曖昧な存在を守ることに対し、ここまで人は狂気的になれるのか。


「レンカ、姫として最初の仕事だ。この状況、君は何を望む?」


ユウシンが、私にそう聞いてくる。


「…私は変わりたい。自分の道を、夢の道を自由に行きたい。というか、平和で幸せな、普通の暮らしがしたい。でも、それは皆にもあって当然のもの。だから、ここにもそれを。私が望むのはそれだけ。」


正直、この国に対しては何一つ良い思い出がない。あったのかもしれないが、悪い印象が強すぎて忘れた。でも、流石に自分だけが良い思いをするのもなんだかなあという気持ちで。だから、平等に。それだけ。


「レンカ、貴様ふざけるな!ここの平和だと?!空の壁を壊した張本人が!どの口で言っている!」


壁、壁、壁。壁を壊したのは私じゃないと言っても信じないだろうな。何から何まで人のせい。

何か一つでも言い返してやろうかと思ったが、そこでユウシンが先に口を開いた。


「なにか勘違いしているようだが、空の壁を壊したのは僕だ。趣味の悪い事をしていると聞いたから、消した。」


察しはついていたが、やはりそうだった。下のリオード達は衝撃で完全に動きが止まってしまっているが。


「でも安心してほしい。姫はここの平和を望んだ。だから、僕が代わりになるものを作る。」


そう言うとユウシンは、片腕を空のほうへ伸ばした。その直後、頭上に巨大な円形の、黄色いに輝く魔法陣が出現し


「あんな薄っぺらい壁より、よっぽど役に立つ結界だ。レンカ、これでこの国はこの先も平和だ。」

「あ、ありがとう。」


魔法のことは一切分からないが、なんだか凄そうなものを作ってくれたのは分かった。


「ふ、ふざけるな!魔王を名乗る者の守りなどいるか!それに…薄っぺらいだと?!貴様ら…捧げ者を神から奪うだけでなく、侮辱まで…許されん行為だ…穢れた人間だが、返せ!そいつには裏切りの罰を!」


リオードが衝撃から立ち直ったのか、再び吠えてくる。


「…もういい。ユウシン、私を連れてって。」


限界だ。これ以上ここにいたら、本当に、本当に、嫌い以上になってしまいそうだ。一応は故郷。これ以上の感情にはなりたくない。


「分かった。あぁ、念の為最後にもう一回聞くよ?魔族の姫になる準備はいいかい?」

「うん、できてる。」


答えた直後、宙に浮いている足元に、今度は紫色の魔法陣が出現する。


「おい待て!魔王とやら!捧げ者を連れていくな!神が!許さんぞ!」


リオードは別れの直前でも、変わらず神だのなんだのそんな事を言っている。それ以外の人も、母も父も親友も、誰一人として違う場所に行こうとする私に対して何も言わない。それが、答えだろう。この選択は、きっと正しい。


「ならばその神に伝えろ。許さないというのであれば、僕はいつでも話をしてやると。レンカは、この子は僕が連れていく。以上だ。」


ユウシンがそう言い放った直後、宙に浮いていた皆の身体が、紫色に輝く光に呑み込まれる。


「これは?」

「転移だ。光が消えた時、僕たちは魔王城の前にいる。」

「すご!」

「もうそろそろだ。」


光が消えていく。そうして、目に映ったのは信じられないほど大きな扉と、正面からでは全体像が分からないほど大きな城だった。


「私…今日からここで暮らすんですか?」

「ああ、そうだよ。それも、魔族の姫としてね。」

「夢みたい…でも私なんかで本当にいいんですか?」

「大歓迎だ。早速、いってみようか。帰ったぞ!!」


ユウシンがそう言うと、私なんかが押してもびくともしないであろう巨大な扉が、内側へと開いていく。


「わぁ…」


扉の中は、絵本の中にある城は、本当に実在したんだとそう思ってしまうぐらいの絵に書いたような素敵な場所で


「新たなる魔族の姫レンカ、ようこそ、魔王城へ。」


私はユウシンのその言葉を聞いて、改めて夢ではないことに驚き、嬉しく思う。そして生きてきて初めて私は、自分の未来を楽しく想像できた瞬間だった。


「本当に…叶っちゃった…」


こうして私は、魔族の姫となったのだ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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