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魔王城の人姫  作者: 川輝 和前
序章 『魔王城の人姫』
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5 本音は心の叫びとなる

期待していたわけでは無い。たまたま出会って、家に勝手に送ってくれて、そのまま消えた人のことなんて特になんとも思っていない。


「…また会ったね。」


思っていないけれど、星空の下で笑ってそう言ってくれた彼の横に、私は静かに座った。


「昨日、酷いですね。魔法で眠らせて…おくってくれたんですか?」

「あぁ、その事について謝りにきたんだ。ごめんね。」

「流石にいきなり過ぎますあれは。驚いたんですから。まあ、別にいいですけど…」

「あぁ、全くもってその通りだね。僕も、手荒すぎたと反省している。」


謝りにきた。 その言葉で許してしまうのは単純すぎるだろうか。でも、少しでも嬉しいと感じた時点で、怒る気にはなれなかったし怒れない。


「本当に、反省してください。」


なんて偉そうな事言っているが、昨日出会ったばかりである。ただ、不思議と話しやすいから、つい言ってしまう。


「…君、昨日とは随分雰囲気というか、印象が…なんというか別人のようだ。」


不意に男にそう言われ、驚く。昨日とは違って、今日は確かに素の私だったからだ。とはいえ、それを昨日出会ったばかりの男に見抜かれるとは思っていなかった。


「よく…分かりましたね。」

「昨日は剣を構えていたとはいえ、君からは強い気力みたいなのを感じた。だが、それを今日は全く感じない。むしろその逆。弱っているのかと心配するぐらいだ。体調が悪いならすぐに戻った方がいい。僕が気づくぐらいだ、周りも心配している可能性がある。」


周りが心配。そんな事は絶対にありえない。何故なら私は長いこと、私という存在を偽ってきたから。そうでもしないと、気が狂いそうだったから。

ずっと、選ばれた者として、運命に従順で、強く賢い子の仮面を被ってきたから。


「おめでとう。お母さんはあなたを誇りに思う。だから、役目をしっかり果たしてきてね?」

「おめでとう。お前は俺たち家族の誇りだ!しっかり役目を果たすんだぞ!」

「おめでとうー!自慢の親友だよ!お役目、頑張ってね!」


捧げ者に選ばれた後、母と父、そして親友だった人に言われた言葉だ。嫌だ、怖い、辞めたい、逃げたい、そういった弱音とかを話せて、そして理解してくれる人達だと思っていた。だが実際は、真っ先に私に絶望を教えてくれた人達になった。その時から私は、あの国で笑顔以外をみせたことがない。


「心配させてごめんなさい。でも、大丈夫です。私は元々、強さとは無縁の人間。今の弱そうで弱い私が、本当の私なので。気が強い私は昨日まで。もう、やっとです。やっと解放される。」

「…どうしてそんな事を?」


男は首を傾げた。まあ当然だろう。いきなりこんなこと言われても、どういう意味かは分かるはずかない。


「演じる必要がなくなったからです。私、明日死んでしまうので。」

「死ぬ?君が明日?どうして?」


私は、どこの誰かも分からない彼に、全てを話した。明日死ぬからか?彼が部外者だからか?話しやすかったからか?分からないけれど、話しやすかったから、それで話せそうだから話した。


「外敵から国を守るのに、空の壁は絶対に必要で…そのために、私は明日命を捧げることになっていて…でもずっと誰かに助けてほしくて…怖くて…」


男は口を挟まず、静かに全てを聞いてくれた。

私が勝手に話しているこの身の上話は、同情してほしいからしてるわけじゃない。ずっと誰にもみせず隠していた、心の叫び。だから、とても助かった。きっと一々反応されていたら、私は泣いてしまい、それどころではなくなっていただろうから。


「君は…そうか。一つだけ、一つだけ聞いてもいいかな?」

「なんでしょう?」


唯一聞かれたことがあったとすれば、話しが終わったあとの一つだけ。


「君は…その役目とやらがなかったら、何を目指し、どう生きたかった?」


死ぬ前にそれを考えるのは中々辛いことなので、あまり答えたくはなかったが


「…そうですね。何を目指していたかは想像つかないけど、こんな狂った役目ではなくて、皆から歓迎され、皆から愛される素敵なお姫様には、少し憧れますね。」


来世があるのなら、お姫様がいい。というか、神に捧げられるのなら、来世はそれぐらいあってもいいはずだ。


「そうか…姫になりたいのか。」


すると、男はそれだけ言うと急に立ち上がり


「今日はこの辺で失礼する。」


そう言って、森の方へ歩いていく。


「えっ?!あ、はい!短い間でしたが…お話してくださりありがとうございました!もうお会いすることはないでしょうが、どうかお元気で!」


いや、確かに長話するほど仲がいいわけではないのかもしれないが、ここまで急に帰られると流石に戸惑ってしまう。急いで、お別れの挨拶を言ったつもりだったが、その後、男は振り返ることなく森の中へと消えていってしまった。


「な、なんだったのでしょう。どうしたのかな。」


結局最後まで謎で、怪しい不審者感は消えなかったが、見ず知らずの私の愚痴のような話を、最後まで真剣に黙って聞いてくれたのは嬉しかったし楽になった。


「……さようなら。」


そうして私は、最後に唯一本音で話せた誰かさんともお別れを済ませ、国に戻り、その日の夜の終わりを、ただ待った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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