4 狂信
毎日、毎日、窓の外をみると頭がおかしくなりそうになる。用意された、自分には贅沢すぎる豪邸の外、仮面を被った大人達が上を向き、大空へ両手を挙げて
「捧げよ、捧げよ、勇気ある者を天へと捧げよ。さすれば、神のご加護が、空の壁となり我々を守ってくれる。」
「捧げよ、捧げよ。空へ勇気ある者を。」
門のすぐ外に、毎朝こうやって大人達がやってくる。やってきては、一時間近くああやって祈りを捧げてくる。
「…本当に馬鹿馬鹿しい。」
窓の外からみえるその狂気に満ちた光景をみて私は思う。確かに、ここを出て山よりもさらに向こう側へ行くと、とんでもない空の壁が確かに存在する。
そしてそれをここにいる人達は、外敵からここを守ってくれる守護神だと本気でそう思っている。
「あれは守護神のご慈悲である。弱く、脆く、哀れな我々を不憫に思い、ご加護を授けてくださったのだ。我々はそれに甘えているだけではいけない。神に、恩返しを。捧げ者を、用意せねば。」
一体誰が言いだしたのか、そして何故それを信じるのか。昔の人達はそれを掟として、この国の当たり前とした。
その時から、この国には捧げ者という、頭のおかしい決まり事がある。
選ばれるのは勇気ある者。空の壁のように、強い力を持ったものが選ばれる。
その年、最も多く、山の魔獣を狩ったものが勇気ある者に選ばれる。選ばれた者は、当日まで国一番の豪華な場所で、過ごす権利が与えられる。
神に捧げるのだがら、未練や不満を残した不完全な状態では渡す訳にはいかないということらしく、選ばれた者はありとあらゆることが優遇され、自由に生きることが許される。
本当に理解ができない。それに納得しているこの国の人々もそうだが、何より最も魔獣を狩った、つまり殺した人間を捧げられて、神が本当に喜ぶとでも思っているのだろうか。
ここまでも充分におかしいが、さらにやばい事がある。それは、捧げる方法だ。勇気ある者に選ばれた者は当日、国の人達と空の壁まで行き、空の壁の前でもやるこの狂った祈りが終わるまで待ち、そしてその後、自らの足で飛び込まなければいけない。
「怖すぎでしょ…そんなの無理に決まってんじゃん。」
だから私は、ここをほぼ毎日抜け出して、悪い者であろうとする。悪者だと思われたら、もしかしたら勇気ある者を変更するなんて事があるかもしれない。
だが、今日も駄目だった。目が覚めると、今日も目の前には地獄の光景がそこにあった。
「何か変わってくれてるかもって…少し期待したんだけどな…」
昨日の夜のことを思い出す。毎日逃げ、毎日地獄の現実から逃げるようにみにいってた星空の場所で、出会った一人の男のことを。
毎日、帰る時に何かが良い方向に変わってますようにと、星空に願いながら帰る。
だから、あの不思議な雰囲気をした男に会って、起きた時に今日ベットの上に居た時は、悪い夢がようやく覚めてくれたのかと少し夢見たのだが。
「私も酷い…馬鹿だな…」
この国の人達の考えを馬鹿にしているが、私もこの現実が夢であってほしいだなんて、酷い馬鹿な考えをしているんだなと思う。
私の捧げ者としての役目は明日だ。
「あの星空をみれるのも、今日で最後かぁ…」
そう口にした直後、震える身体を私は強く抑え込んだ。
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