3 気まぐれは運命的に
その日、何故かは分からないが、急に散歩をしたくなった。
「どちらまで?」
適当な竜種を召喚し、いざ行こうとした時、後ろから部下の一人にそう声をかけられる。
「…心配しなくていい。適当に飛んだら戻ってくる。」
「王が散歩とは…珍しいですね。気をつけて行ってらっしゃいませ。」
「ああ、行ってくるよ。」
竜の背中に乗り、空へと飛び立つ。
この世で最も速く飛ぶことができ、尚且つ生物の中でも一二を争う実力を持つのが竜だ。何をするにしても、どこへ行くのだとしても、竜が一匹いれば大体のことは可能だ。
「…僕にも、こんな日があるんだね。」
王になって以来、一度もこんな気持ちになったことはないというのに、本当にどうしてか、今日は外に出たくて仕方なかったんだ。自分にまだそんな余裕があったことを喜ぶべきか、怒るべきか。
「考えても仕方ないか。衝動的な行動だ。答えなんて無いだろう。」
時間の無駄だと切り捨て、とりあえず今は、風を感じこの時間を精一杯楽しんでみることにする。
竜の速度はどんどん加速していき、それに合わせて下の景色がどんどん変わっていく。
「この辺は知っているから…竜。止めるまで、さらに奥まで頼む。」
その言葉に応えるように、竜は速度を上げ、どんどん加速していく。
ほとんどの景色はもう見慣れた。せっかくの散歩で息抜きなのだ、見た事のない場所を目指そう。
そうして、恐らく竜に乗っていた最多時間を超えたあたりの時だ。目の前に分厚い雲の壁が立ち塞がったのは。
「…こんな場所あったのか。」
竜もかなりの大きさのはずだが、目の前の雲の壁と比べると、竜が親指程の大きさに思えるほどの大きく分厚い雲だった。
「ここにしよう。竜、あれを突き破れ。」
「ガオっ?!」
「安心しろ。僕がいる。」
「ガウ!」
さすがに怖気づいたのか、躊躇っていたがそれも一瞬だ。頼もしい返事の後すぐに、竜は加速し、雲の中へと突っ込んでくれた。雲の中は竜でさえ真っ直ぐ進めないほどの強風と、無数の雷が降り注ぎ、何故か時折、骨のようなものが飛んでくる、まさに死の嵐のようになっていた。
「大丈夫だ竜。君の速度ならもう出れる。踏ん張れあと少しだ。」
「ガウウ!」
どれだけ荒れていたとしても、空において、竜を止められるものはいない。例えそれが大自然だったとしてもだ。
「よし、よくやった。みてみろ。これは凄いよ。」
「ウウ…ガアア!」
雲を抜けると、美しい星空が出迎えてくれた。嵐のようだったのは雲の中だけだったようだ。
「ウウウ…」
と、そこで竜が徐々に降下を始め
「ああ、すまない。少し無理をさせすぎたかな?ここで休んでいるといい。僕はもう少しこの辺をみてまわる。」
地上に降り、羽を閉じて休めている竜の周りに結界魔法を張り、一度別れる。
身体の感覚的に、ここはどこかの山の頂上付近というとこまでは分かった。だが、それ以外は本当に来たことがなかったため分からなかった。
「とりあえず、あと少し歩けば頂上だ。そこをとにかく目指してみるとしよう。」
突然の散歩衝動にくわえ、未開の地での探索意欲。今日は身体の調子がとにかく変だ。
だが、不調の極めつけはこの後だった。それは歩くこと数分、獣道を抜け、木々の生い茂る場所から抜け出した先のことだった。一変木々の生い茂る場所から、何もないただ広い草原にでた瞬間のことだった。
その中心、そこに寝転ぶ一人の少女の姿を発見する。黒の短髪で赤眼が目立つ子だった。そして、その直後自分の耳に
「あぁ…星になりたいなぁ。あれだけ綺麗に輝けたら…将来星になりたいなぁ」
その少女の声が聞こえた瞬間、何故かは分からないが、僕の身体は彼女の元へと、導かれるように向かっていったんだ。
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