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闇鍋に潜みし言霊はかく語り

作者: jima
掲載日:2023/01/25

「こんなの入れたのは誰なの」

 ハナちゃんが箸で持ち上げたのはグズグズに崩れたドーナツだった。いや、持ち上げたらグズリととろけてしまった『かつてドーナツであったもの』なのだが。

 残りの3人が笑い声をあげるが、ハナちゃんは渋い顔で言う。

「いくら何を入れてもいいっていう決まりでも、もうちょっと鍋のルールにのっとってよね」


 ツトムが首を傾げて笑う。

「鍋のルールですか」

 俺は笑いながらもハナちゃんの援護をする。

「確かに。やっぱり鍋の味を根本的に崩すものと、煮込みに耐えられないものはアウトだな」

「でもね。これはもっと駄目です」


 フーちゃんが箸で持ち上げ、外へ出したのは陶器でできたフランスパンのミニチュア模型だった。

「これに較べればドーナツは遙かにセーフです」

「つまり、ドーナツはフーちゃんか」

 ツトムが指摘して、自らはカットした白菜を鍋に投入する。

「えへへ、バレましたね」


「すまん。偽のミニフランスパンは俺だ」

 俺が白状すると、ハナちゃんが「もうっ」と睨みながら竹輪麩を鍋に入れた。

「何かちょっと見、美味そうじゃないか?」

 俺の言い訳は誰の賛同も得られない。


「後は、豚肉、鶏肉、ソーセージも入ってるわね」

 ハナちゃんが鍋をお玉で改める。

「ソーセージは味が強く出過ぎるんで、あまり良くないんだけど…まあいいか」

「厳しい。ハナ鍋ルール」

 ツトムが言って、みんなクスクス笑う。


 肉、魚、ソーセージ、野菜各種もろもろが入った鍋にみんなで箸をのばし、ビールを飲む。場が盛り上がってきた。…というとき事件は起こった。


「あ、灯が」


 灯りが消えた。アパートの外を見ると真っ暗だ。

「停電ですね」

 フーちゃんが言う。

「鍋がだいたい出来上がってからで良かった。ムグムグ」

 ツトムが何かを食べながら言ったので、俺は驚く。

「何も見えない状態なのに、よく食えるな」

 ツトムは平然としたものだ。

「これが闇鍋の醍醐味だね。何が当たるかわからなくてスリルがある」

「うう、鍋にスリルなんて求めてないわよ」

 この嘆きはハナちゃんだな。


「…モグモグ、あれ、ドロリと甘いものが…なんだろ」

 泣きごと言ってたはずのハナちゃんも、言葉とは裏腹に食事は続けていたようだ。

「俺、大福入れてみたんだけど」

「もう。太郎はなぜそんな悪ふざけばかり!」

「ワハハハ、こういうのがないと『何でも鍋』が面白くないだろ」

 俺も鍋を探り、当たったものを器にとってフーフーしてから口に入れた。


「当たりだ。カニだ!カニ。やはり真面目に生きているといいものが当たるんだよ。ハナちゃん」

 ププッと吹き出す音が聞こえて、フーちゃんの声がする。

「それはカニカマですね。私入れましたから」

「ハハハ、太郎の馬鹿舌だ」

 ツトムがからかって一同また笑う。




 『何でも闇鍋』が進み、同時にアルコールの進み方も早くなった。缶ビールも残りが見えないと逆にグイグイいってしまう。

「む、何だこれは。堅いものをつかんだぞ」

 俺が言うと、ハナちゃんが「もうっ」と怒りの声を出す。


「誰なの。また食べられないもの入れた人がいるのね」

「…すみません。それ、私のお箸です」

 フーちゃんの消え入りそうな声だ。

「あっ、ごめん。お互いでお箸をつかみ合っちゃったんだね」

「いいえ、…私こそ」

 何かフーちゃんの声がいつもと違うな。ちょっと酔っ払ったのかもしれない。


「あの…」

「何だ何だ。フーちゃん、まさか太郎に告白か。鍋の最中に」

 ツトムが吹き出しながら言う。

「えっと、えっと」

 フーちゃんの様子がいよいよおかしい。


(ふき)は太郎が好きなのよ。太郎、空気を読め!」

 これはハナちゃんの声だ。

「ええええ。そ、そうなの」

 フーちゃんの恥じらうというか、ちょっと酔いの回った声がする。

「で、でもそれは言えなかったの。だって(はな)だって」

「それはいいの!蕗!」

「でもきっと太郎さんは華の方が…」

「そんなことないよ。絶対、太郎は蕗の方だよ、蕗」

「ううん。やっぱり華の」

「違うって、蕗」


 暗闇の中、俺は若干無視されつつ二人で話し合いが進んでいる。何だ何だ。この展開は。


「あのさ」

 ツトムの声が闇に響く。

「じゃあ、二人とも太郎のことが好きってこと?」

「…うん」「はい」

 俺、モテモテじゃん。しかし、二人揃って停電の鍋で告白ってどういう状況?



 ツトムの声が続ける。

「あの、…僕もここに好きな人がいるんだ」

「ごめんね。ツトムくん」

「悪い。ツトム、それは」

 女の子二人から同時に振られるとは器用な奴。何だかゴメン、ツトム。


「違うんだ。ハナちゃんでもフーちゃんでもなくて」

 ええ?それってどういうこと?

「僕も太郎が好きなんだ」

「…?」「…!」「…!?」


 三者三様の「…」が闇に浮かぶ中、ツトムがさらに続ける。

「ホントは言う予定なかったけど、二人が勇気を出して告白してるの聞いてたら、やっぱり僕だけ黙ってるのは卑怯だなって」

「ツトムくん」

「ツトム、何て男らしいの」


 その感想でいいのかな。俺は誰に何を言っていいのかわからない。喜ぶべき状況なのかどうか。


「私、自分にそんな覚悟があって告白したかっていうと、何か違うような気がしてきた」

「ううん。私もこんなこと言い出した自分が恥ずかしいです」

「いや、僕なんかが首を突っ込むべきじゃなかったかも」

「ううん。勇気を出して素直に気持ちを言えたツトムくんは立派だと思う」

「私もそう思います」

「そうよね。ツトムが笑顔でいてくれるのが一番かもしれない」


 何だか変な話になっていないか。


「私やっぱりハナちゃんとツトムくんに譲ります。太郎くんは好きだけど、二人の告白の邪魔になりたくない」

「そんなことないって。フーちゃんが言い出さなかったら、僕はずっと気持ちを表に出せなかったんだから。フーちゃん、ありがとう」

「そうだよ、フーちゃん。フーちゃんの真っ直ぐな気持ちが一番だよ」

「大げさです。よく考えたら、私はそれほどでもないって気がしてきました」

「ううん、そんな強がり言わないで。私だってさほど好きじゃないっていうか、むしろ太郎のガサツさとか嫌いだし」

「そんなこと言ったら、私だってあの顔はそんなタイプじゃないです」

「僕も顔は好みじゃないかも」


 何だ。なぜ悪口大会に。


「…やっぱり勇気を一番出したツトムくんが幸せになるべきだと思う」

「いやいや。何だか僕は遠慮したくなってきた。付き合いの長いハナちゃんに譲るよ」

「いらないわよ、あんなの」

「私はやっぱりツトムくんでいいかなって思います」

「私もそれでいいかな」



 どういうことだ。いつの間にか、俺を全員で押しつけ合っている。さっきまでモテモテ期だったのに、三回ぐらい失恋した気分だぞ。そして三人の話し合いの末、俺はツトムとくっつけられそうな気配だ。


「なあ、ちょっと、待ってくんない?」

 俺は恐る恐る口を出す。


「太郎さんは黙ってて」

「太郎、今は私たちが話し合ってるの」

「そうだ、太郎。邪魔するな」


 えええええええええ。


 この後、鍋パーティはさらに続き、より一層ドロドロの三角四角関係みたいな感じで書き進めたのですが、だんだん面倒になってきます。そこで思い切って導入部分のみでおしまいにしてみました。どうなんでしょう。

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