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なろうラジオ大賞4参加作品

ばあさんのお札、ピタン

 小学校低学年くらいまで、近くに住んでいた母方のばあさんに、よく面倒を見てもらっていた。

 若い頃は、旅役者なんかもやっていたとかいうばあさんは、細面の華奢な人だった。


 その頃、私は体が弱かった。同年齢の子と比べて、明らかに虚弱だった。

 年中熱を出し、熱を出すと一週間は起き上がれない。


 親に言っても全く信じてくれなかったが、当時の私は、ばい菌(細菌とかウイルスとか)が、体に入る瞬間が分かった。


 目の前に、黒っぽい煙が現れて、間違って吸い込んでしまうと、途端に咽喉が痛みだす。

「あ、風邪ひいた」

 その後一時間を待たずに、発熱するのだ。

 解熱剤や抗炎症剤、抗生剤も、あまり効かなかった。


 そんな時、ばあさんはふらっとやって来て、ブツブツ言いながら、私の額にピタンと、何かを貼る。

 薄目を開けて見ると、半紙の切れ端に、墨字で文様が書いてある。

 その文様が、梵語というものだと知ったのは、随分後になってからだ。


 貼ってもらった翌日は、不思議なことに熱は下がった。



 ある日ばあさんの家で遊んでいると、滅多に鳴らない固定電話がジリジリ音を立てた。

 ばあさんは、二言三言喋ると、徐に紫色のタスキをかけた。


「ちょっと、行ってくる」


 ばあさんと同居している従兄によれば、ばあさんは「ボランティアお祓い師」をやっていたのだ。


 しばらくして帰って来たばあさんに、聞いてみた。


「お祓いって、どうやるの?」

「そりゃあ気合。気合で吹き飛ばす」


 ばあさんはキセルを手に取り、白い煙を細く吐き出した。

 その姿が粋だった。


 ばあさんが天寿を全うしたのは、私が大学に入ってからだ。

 実家からも、勿論ばあさんの家からも遠い場所にある大学なので、私は寮に入った。


 その年の正月を迎える少し前に、私は久しぶりに、自分の体を取り巻く、黒い煙を見た。


 あ、やばい!


 そう思った時には、咽喉がヒリヒリ悲鳴を上げていた。

 そのまま寮の自室で倒れ伏す。

 年末である。近くの開業医は軒並み休みだ。

 帰省のため、寮内には殆ど学生がいなかった。


 布団を何枚かけても寒気が止まらず、体温計は四十度を示している。

 手持ちの薬もない。

 ガクガク震えながら、意識が朦朧としていく。


 ピタン!


 額に、何かひんやりとしたものが貼られた気がした。

 気持ちが落ち着いていく。


 あ。

 思い出した。


 小さい頃、お世話になった、アレだ。


 ばあさんの、お札。



 翌朝、目が覚めた時に額に触れたが、何もなかった。

 ただ、白い煙が薄っすらと、朝日に溶けていった。

あのお札に書かれていたのは、何の真言だったのか。

今となっては、分からないのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと不思議な、でも気合いで払うばあさんがほのぼのしてて、そして守ってくれてるのか、良い話。
[良い点] ボランティアお祓い師のおばあさん、実に頼もしいですね。 死して後も主人公を助けてくれるとは、実に頼もしいです。
[一言] ばあさんカッケェ( ˘ω˘ )
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