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Sky Way!  作者: 碗古田わん
海王《ネプチューン》編

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41/53

5.対峙

 翌日の月曜日。

 御厨高校は文化祭の振り替えで休みだった。

 なので天道は御厨西高が終わる時間に合わせて、喫茶店であかりと待ち合わせた。

 離れた席では、霞、澄生、由布子がこっそり控えている。

 制服姿のあかりはやはりギャル風で、胸元を大きく開き、豊かな胸の谷間が露出している。

 あかりはミルクティーを頼み、天道はブレンドを頼んだ。

 店員が注文(オーダー)を運び終わる待って、天道は話を切り出した。

「何か困った事でもあったのか?」

「うん……」

 あかりは頷くとちょっと困ったような顔をした。何から話したら良いか迷っている、そんな感じだった。

「あたしね……別れた後も蓮實君の事が好きだったんだ…………」

「えっ?」

 その言葉を天道は意外に感じた。あかりは自分の事を車に夢中になって彼女を疎かにしたと、恨んでいると思っていたからだ。

「それで蓮實君の事を少しでも理解したくて、車好きのソーシャル()ネットワーキング()サービス()を覗くようになったの」

 あかりは視線をティカップに落として、静かに語った。

「そこで、()と知り合ったの」

 一年ぐらい前の話だ。

「最初は掲示板(BBS)経由で話してたんだけど、そのうち仲良くなってメッセのIDを教え合うようになったんだ」

 そこであかりは短く()()()スカートの上に置いた拳をギュッと強く握りしめた。

「写真とかもやりとりしてね……()、優しそうだったから、あたしも油断してたんだ」

 天道は、神妙な顔で聞いていた。

「でも、個人的に合わないかって何回か誘われたんだけど、それは怖くて断ってたんだよ」

 誤解されるのが嫌で、あかりは天道を見詰めて訴えかけた。

「そしたら、夏休み前のソーシャル()ネットワーキング()サービス()のオフ会があって、みんなに誘われて参加する事になったの」

 それが油断だった。みんなで会うなら大丈夫と思ってしまったのだ。

「そこで初めて()と会ったんだ」

 初めて会った敦は、メッセでやりとりしていた時と同じく優しく紳士的だった。

「オフ会は飲み会だったんだけど、あたしは烏龍茶を飲んでいたんだよ」

 車好きのソーシャル()ネットワーキング()サービス()という性質上、オフ会に参加したのは成人した人が多かったが、未成年もいないわけでは無かった。

「でもね……なんか、途中で眠くなってきて、寝ちゃったんだ」

 その言葉に天道は片眉を跳ね上げさえた。

「薬を盛られたのか?」

「多分……」

 あかりの顔が痛恨で歪んだ。

「それで目が覚めた時にはホテルに連れ込まれてて……」

 そこであかりは言葉を詰まらせた。

()()()されたのか?」

 代わりに天道が聞く。

「うん……」

 あかりはコクッと頷いた。

「その時、動画も撮られて、それをネタに彼女になるように脅されたんだ」

「ゲスが!」

 天道は思わず詰った。

「本当はこんな格好するのも嫌なんだけど、()の命令で仕方なく……」

 あかりは薄らと目に涙を浮かべていた。

「どうして、こんな事になっちゃったのかな……?」

「わかった」

 そんなあかりを見て、天道は即決した。

「俺が話をつける」

「でも……言って聞くような人じゃ無いよ?」

 あかりは悲観的だった。 

「ソイツは最速屋(ケレリタス)なんだろう?」

 天道の問いにあかりは頷いた。

「だったら、話のつけ方は一つだ」


 話を終えて、あかりは先に喫茶店を出た。

 それを確認してから、霞と澄生、由布子は天道の所に集まった。

「どうだった?」

「予想してたとおりだった」

 由布子の言葉に、天道は怒気を含んだ口調で応えた。

「詳しい事は言えないけど、海王(ネプチューン)がゲス野郎だってことはわかった」

 その怒り具合で、三人はあかりがかなり酷い目にあったんだと察した。

「でっ? どうするんだ?」

 やはり怒りで眉をつり上げた澄生が聞いた。

海王(ネプチューン)対戦(バトル)する」

 それが最速屋(ケレリタス)としての話のつけ方だ。

「あかりに聞いたら、週末だけ箱根に来てるらしいから、その時会えるように頼んだ」

「勝てる……の?」

 霞は心配そうだったが、天道は断言した。

「余裕だ」

 敦の走りは、文化祭の時に見ている。あれなら赤子の手を捻るも同然だ。

「それ以前に乗ってくるのか?」

 澄生は疑心暗鬼だったが、天道は自信満々に言った。

「ちょっと考えがある」


 その週の土曜日。

 天道は芦ノ湖スカイウェイの箱根料金所にいた。

 少し離れた場所には、霞と由布子を乗せたフェラーリ・458イタリアが停まっていて、その陰には澄生が隠れていた。

 そこへMC20が国道方面からやって来た。

 エキシージの直ぐ後ろにつけると、両方のドアが跳ね上がって、中から敦とあかりが出てきた。

 それをサイドミラーで確認してから、天道もエキシージを降りた。

「話があるっていうのは、てめぇか?」

 天道を睨みつけた敦は、厳つい顔で威圧した。

「アカリから話は全部聞いた」

 負けずに睨み返して威嚇しながら天道は言った。

「動画を消して、アカリを解放しろ」

「へっ!」

 その話を敦は鼻で笑った。

「てめぇには関係ない話だろ?」

 そして、一蹴する。

「アンタも最速屋(ケレリタス)だろう?」

 取り合おうとしない敦に天道は聞いた。

「だから、何だって言うんだ?」

「だったら、対戦(バトル)決着(ケリ)をつけようぜ」

「はっ!」

 天道の提案を、敦はまたも鼻で笑った。

「なんで、俺がてめぇと対戦(バトル)しなきゃならないんだよ?」

 それから馬鹿にしたように言った。

「メリットが無いだろう」

「もし、俺が勝ったら動画を消す。負けたら……」

 それを読んでいた天道は、とっておきのカードを切った。

「てめぇに姉キを差し出してやるよ」

「姉キ?」

 怪訝そうな顔の敦に、あかりがソッと教えた。

「グラビアアイドルのKwoだよ」

「ほーっ」

 敦は目を細めた。

 もちろん、空子の許可は取っていない。完全なハッタリ(ブラフ)だ。

(こんな時ぐらい役立ってくれよな)

 天道は祈るように敦の反応を伺った。

 すると敦は、エキシージとMC20を興味深そうに見返してから、少し考える素振りをした。

「いいだろう」

 そして、応えた。

「乗ってやるよ、その対戦(バトル)

 天道はエキシージに、敦はMC20に乗り込んで、車をスタート位置につけた。

 スターターはあかりが務めた。

 右手を高々に上げて、握りしめた拳を指一本づづ開いていく。

 二台のエキゾーストノートが高まる。

 五本の指が開かれ、手のひらが振り下ろされた瞬間、対戦(バトル)はスタートした。

 天道はいつも通り、絶妙なクラッチワークとアクセルワークでスタートダッシュする。 敦もMC20のトラクション()()コントロール()の恩恵で好スタート切った。

 馬力(パワー)差で、MC20が頭一つリードして最初の115Rへ突入する。

 天道はブレーキング競争はせずに、敦を前に出した。

 そのまま第一コーナーをクリアして、30R、110Rを駆け抜ける。

「思った通り、速くない」

 まだコーナーを三つを過ぎただけだが、天道は既に敦の技量を見透かしていた。

「ならば……」

 続く左の65Rで天道はエキシージをアウトに持ち出した。

 そのままブレーキング競争を仕掛ける。

 案の定、MC20は遙か手間でブレーキングに入った。

 MC20の前に出たところで天道はフルブレーキングする。

 そして、アウトから被せるようにインへドリフトで切り込む。

「なに!?」

 だが、天道は驚嘆した。MC20が構わずインへと突っ込んできたからだ。

 その結果、

”ドスッ!”

 鈍い音共にMC20のノーズがエキシージの左ドアへとヒッとした。

「クッ!」

 ドリフト中にプッシュされて、エキシージは横に吹っ飛ぶ。

”ガリガリガリ”

 嫌な音がしてエキシージの右フロントサイドがガードレールに擦れる。

「クソッタレ!」

 反動でイン側へと跳ね返ったエキシージを的確に操作して、天道はなんとかコーナーを抜けた。

「接触上等かよ!」

 天道は吠えた。

 ――勝てないとわかると、どんな汚い手を使ってでも勝とうとするらしいからな。

 師匠の言葉が頭に浮かぶ。

「畜生め! 姉キに怒られるじゃねぇーか!」

 悪態をつきながらも、今の接触で遅れた分を取り戻そうと天道はエキシージを飛ばした。

 右の40Rをドリフトで駆け抜け、直線に入る。

 すると遙か前方にMC20が見えた。

 ここは馬力(パワー)差で、ジリジリと差が広がる。

 しかし、これはいつもの事なので、天道に焦りは無かった。

 やぎさんコーナーと続くヘアピンで充分追いつけると踏んでいたからだ。

 その予想通り、いつものフェイントモーションでコーナーをクリアすると、差は一気に縮まった。

「もう追いついてきたのか!?」

 それをルームミラーで確認した敦は、驚きの声を上げた。

 80R、110Rを抜ける間にグイグイとエキシージの姿が大きくなる。

「速い!」

 敦はエキシージの速さに舌を巻いた。

「だが……」

 慌ててはいなかった。またブレーキング競争を仕掛けてくれば、()つければ良い。インをついてくるなら、()()()()()()良い。

 30Rヘアピンで二台の差はほぼゼロになっていた。

 そのままテールトゥノーズで中速区間を駆け抜ける。

 そして、低速区間に入る入り口で、天道はブレーキング競争を仕掛けた。

 呆れるほど手前でブレーキングするMC20の横を抜けて、前に出る。

 そのタイミングでブレーキを叩き踏み、ロック寸前でブレーキを抜きながら、ヒール&トゥでシフトダウンする。ステアリングを送って、アクセルワークと合わせてエキシージをドリフトに持ち込む。

「させるかよ!」

 それを見た敦は、MC20をインへと突っ込ませる。

 だが、これは天道も読んでいた。

 アウト・アウト・アウトのライン取りで、MC20のノーズをかわす。

 それでもコーナリング速度の速さから、立ち上がりでMC20に並ぶ。

「クソッ!」

 それを()()()()()敦は、アクセルペダルを思いっきり踏み込んだ。

 タイヤが馬力(パワー)を路面に伝えきれず空転(ホイルスピン)しそうになる。それをトラクション()()コントロール()が敏感に感じ取ってトルクを押さえ込む。

 結果、MC20は適切なトラクションで立ち上がり、なんとかエキシージの前に出る事が出来た。

「今のは危なかったぜ」

 敦は額に流れた冷や汗を右手で拭いた。

 一方、今ので抜けなかった天道は思案した。

「さて、どうする?」

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