エピローグ 彼女の思惑
その翌日の昼休み。
いつもの屋上で天道はパンをかじっていた。
「ふふふ~ん……♪」
今日も霞は、クラスメイトの誘いを断って一緒に弁当を食べていた。その頬は緩み、口からは鼻歌が流れている。
「なんか、上機嫌だな」
そんな様子を無視できるはずもなく、澄生が霞に興味津々で聞いてきた。
「昨日の夜、タカ君が、俺の彼女っ……て」
言葉を噛み締めるように、霞は箸を持った手を頬においてうっとりと言った。
「ばっ、オマエ……!」
「ほーっ」
慌てる天道を澄生は目を細めて見た。
「最初から疑問だったんだけどよ」
それから首を傾げる。
「なんで、初めから彼女がいるって言わなかったんだ?」
その問いに天道は言葉を詰まらせた。
それは霞も思っていたことだったので、天道をジッと見詰める。
「それは……」
二人の視線を浴びて天道は観念したように理由を話した。
「……人前で、そんなこと言うのは、恥ずかしいだろう?」
珍しく顔を赤くして照れる天道を霞はかわいいと思った。
「ふーん……そうなん……だ」
そう思うとニマニマが止まらない。
「なに、笑ってるんだよ!」
霞の表情に、天道は怒鳴った。
「別……に」
それでも笑みをこぼすのをやめない霞は、とても満足げだった。
東京の東にあるとある屋敷の一角。
その部屋のソファーの上で一人の女性がくつろぎながら、タブレットに目を通していた。
ウェーブ掛かった背中まである髪を明るい茶色に染めて、パッチリとした黒目がちの瞳。ほっそりとした輪郭にプックリとした唇の美女だ。
風呂上がりらしくバスローブを身にまとっている。
「ご苦労様」
一通り、報告書を読んでから、彼女は自分の前に立つ執事にねぎらいの言葉をかけた。
「いえ……」
しかし、執事、御盾晶は、苦渋の表情で頭を下げた。
「結果的に封鎖しきれませんでした。申し訳ありません」
「まぁ、大事に至らなくてよかったわ」
そんな晶に顎で頭を上げるように命じながら彼女はサラッと言った。
「警察にも圧力はかけてあるけど、事故が起こると後が面倒だから」
「はい。肝に銘じます」
それに対して晶はまた頭を下げる。
「それにしても……」
彼女はもう一度タブレットに目を落とすと、画面をスワップさせる。
「蓮實天道君か……面白い子ね」
その唇には笑みが浮かんでいた。
「また報告をお願いね」
その命令に晶は、司馬ホールディングス次期代表取締役、司馬麗華に対して深々とお辞儀をした。




