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Sky Way!  作者: 碗古田わん
精密機械《アォトマト》編

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14/53

3.天道陥落作戦

 その日の夜。

 霞は、いつもの箱根スカイウェイの箱根側料金所付近で天道を待っていた。

 携帯電話(スマホ)をポケットから出し時間を確認する。既に時間は夜の十時半を回っていた。

 天道からは十時頃、少し遅れる、と短いメールがきて、返信を送ってもその後は梨の礫だった。

 集まっていた他の最速屋(ケレリタス)もみな走り出して、霞は一人残された格好となった。

「どうしたんだろ……う?」

 少し心配になってもう一度メールを送ろうとした時、芦ノ湖スカイウェイの湖尻峠方面からエキゾーストノートが聞こえてきた。続いてつり目のフロントランプが見えてくる。

 天道のエキシージだ。

 458の左ドアを開けた霞は、車の外へと出た。

 夜は無人の料金所を通り過ぎ、エキシージは458の隣へと付けた。

 右のドアが開き、中から天道が飛び出してくる。

(わり)ぃ、遅れた」

 焦った顔の天道はとりあえず謝った。

「なにかあった……の?」

 その様子がいつもと違ったので、霞は首を傾げて尋ねた。

「……電波女に絡まれた」

 天道はバツの悪そうな顔で言った。

 曰く、今日はしっかりバイトが終わるまで待ってた絵奈に自宅まで連れて行けと迫れてて、巻くのに時間が掛かった、とのこと。

「ったく、参ったぜ」

 天道は愚痴ったが、霞は少し表情を曇らせた。

「さて、行くか」

 それには気づかず、天道はエキシージに戻ろうとした。

「あっ、まっ……て」

 しかし、霞は天道を呼び止めた。

「ん?」

 天道が振り返ると、霞は緊張した面持ちで自分を見詰めていた。

「タカ君、明日、バイト休みだよ……ね?」

「ああっ、それがどうした?」

 その返事に霞はますます緊張を強くしながらも言った。

「勉強を教えて欲しい……の」

「勉強?」

 天道は眉をひそめた。

 ちょうど御厨高校では来週から試験週間に入る。その事を言ってるのだろう。

 だが……、

「オマエの方が頭良いだろう?」

 霞は元お嬢様学校の出身だ。成績もかなり優秀だったと()()()()()

「わたし、勉強遅れてるか……ら」

 今でこそ、普通に授業を受けている霞だが、一ヶ月前までは、授業中も上の空で先生の話もほとんど聞いてなかったのだ。

「そういう事か」

 天道は一瞬だけ、考えたが直ぐに、

「いいぜ。と言っても俺に教えることはあまりないと思うけどな」

 と、答える。

「どこでやる? 図書室は混んでそうだしなぁ」

 いつもは人気も無く静かな放課後の図書室だが、試験前は別で慌ててガリ勉する生徒でごった返している。

 それに対して霞は、緊張最大(MAX)で、お願いした。

「タカ君のお家じゃ、駄……目?」

「えっ?」

 その言葉に天道は固まってしまった。霞に自分が一人暮らしであることは伝えてある。そこへ来たいと言うことは……。

(いや……邪推しすぎだ)

 天道は(かぶり)を振った。

「別にいいぜ」

「ありがとう、タカ……君」

 霞はホッとしたように言った。

「となると問題なのは……」

 絵奈の存在だ。

「あの電波女と鉢合わせは避けたいなぁ」

「だった……ら」

 霞は予め立案していた計画を天道に話した。


「こちらブラボーワン。アルファワン、状況を報告せよ」

『こちらアルファワン、絵奈(目標)は校門前で待機。繰り返す絵奈(目標)は校門前で待機』

「ブラボーワン、了解。そのまま絵奈(目標)を監視せよ」

『アルファワン、了解』

 これは一体、何の茶番なんだ? と天道は思った。

 ブラボーワンこと澄生は、携帯電話(iphone)を使って、校門付近に潜むアルファワンこと由布子と通話していたのだ。

絵奈(目標)は校門前から動いていない。今のうちに」

 澄生の指示に、霞はペコッと頭を下げた。

「ありがとう、銀矢……君」

「てか、なんでてめぇまで協力してるんだ?」

 とうとう耐えられなくなって、天道は口を挟んだ。

「まぁ、いいじゃん」

 それに対して澄生は、爽やかな笑顔でかわした。

「それより、早く」

「ふん!」

 天道は気に入らなそうに鼻を鳴らしたが、状況も理解していたのでそれ以上は追求せずに、下駄箱から校門とは反対側、裏門へと向かった。

 昨晩、霞が話した計画は、こうだった。

 裏門から脱出して、家が近い霞がフェラーリ・458を持ってきて、それで天道の家に行く。もちろん、今日は天道は徒歩で高校まで来ている。

 由布子が監視はしているので安全ではあるが、天道と霞はコソコソと文字通り逃げるように裏門へと向かった。

「じゃあ、ちょっと待って……て」

「一緒に行こうか?」

 天道の提案に霞は首を横に振った。

「ううん、大丈……夫」

 そう言い残して霞は、テクテクと歩き出した。

 待つこと三十分。

 遠くからフェラーリのV8排気音(サウンド)が聞こえてきた。

「おまた……せ」

 458を天道の横に付けた霞は、左のサイドウインドウを開けて言った。急いできたのだろう。服は制服のままだ。

 なにか気の聞いた返事をしようと思ったが思いつかず、結局、無言のまま天道は右ドアを開けると中へ乗り込んだ。

「道わかるか?」

「ううう……ん」

「じゃあ、道案内(ナビ)するぜ」

 天道の指示に従い、霞は458を発進させた。


 天道の道案内(ナビ)で無事、目的地である蓮實邸に着いたフェラーリ・458は、天道の指示で家の横へと路駐すると、二人は車から出た。

「ここがタカ君のお……家」

 それが想像していたよりずっと大きくて、霞は目を丸くした。

 階段を上り玄関前まで来る。天道はポケットから鍵を取り出し、玄関をかけた。

「おじゃましま……す」

 天道に続いて家へと上がった霞は、履いていた(ローファー)をきちんと揃えてから、廊下を先に進む天道の後を追った。

 廊下の先にはリビングがある。二人はそこへ入った。

「他に誰もいないし、勉強するのはリビング(ここ)でいいか?」

 学生カバンをソファーの横に置きながら、天道は聞いた。特に反対はされないだろうと思っての発言だった。

 が、

「タカ君の部屋が見てみた……い」

「えっ?」

 天道はギクッとなった。いろいろな意味で。

「俺の部屋、汚いぜ?」

「それでもい……い」

「いや……マジで散らかってるから」

「それでもい……い」

 天道は難色を示したが、霞は珍しく熱心に押してくる。

「わーったよ」

 結局、根負けした。

「けど、ちょっと待っててくれ。片付けるから」

 それに対して霞は首を傾げた。

「エッチな本、隠す……の?」

「ちげぇーよっ!」

 天道は壮大に突っ込んだ。その手の本は姉の検閲厳しいので普段から厳重に保管してある。改めて隠す必要なのだないのだが、今はそういう問題ではない。

「と、に、か、く、ちょっと待ってくれ」

 そう言い残すと、天道は二階へと上がる階段を昇っていった。

 ほんの少し二階からバタバタする気配がして、それから天道の声がした。

「もう、いいぞ」

「う……ん」

 霞は少し緊張した面持ちで、二階へと上がった。そこでは天道が部屋の前で待っていた。

「まぁ、一応、片付けたけど、まだ散らかってるから、そこら辺は勘弁しくれ」

 珍しく弱気な天道に、レアなものを見たと思いながら、霞は部屋に入った。

「ここがタカ君のお部……屋」

 そこは四畳半ほどの部屋で、壁紙は空色(スカイブルー)、正面には窓あり、そこに掛かったカーテンも空色(スカイブルー)。窓の横には机があり、部屋の右手には本棚とクロゼットが、左手にはベットが置いてあった。

 部屋の真ん中には慌てて引っ張り出してきたガラステーブルとクッションが二つ置いてある。

「…………」

 初めて男子の部屋に入った霞は物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回した。

 と、本棚の上に置かれた写真を発見する。

 TA-7J(スカイホーク)背景(バック)に、パイロットスーツ姿に小脇にヘルメットを抱えた小さい頃の天道の写真だった。

「かわいい……い」

 霞は、思わず感嘆の溜息を漏らす。

「そうかぁ?」

 それを聞いた天道はTA-7J(スカイホーク)の事だと思い、首を傾げた。

「まぁ、とりあえず、座ってくれ」

 即する天道に、霞は頷くと、ベットの上に腰掛けた。

「って、なんでベットの上なんだよ!」

 霞の行動に、天道は速攻で突っ込んだ。

「…………」

 だが、霞はなにも言わずに、ジッと天道を見詰めた。その瞳は潤み、頬が微かに朱色に染まっている。

 その仕草に天道は一瞬、ウッとなった。だが、直ぐに(かぶり)を振り、

「いいから、クッションに座れ!」

 と、命令した。

「…………」

 霞はなにか言いたそうだったが、仕方なさそうにのそのそとそれに従った。

 そして、クッションに座るとそのままゴロンと背中をフローリングの床に預けて寝そべり、目を閉じた。

(コイツ……!!)

 天道は心の中で舌打ちした。

(恥ずかしい……よ)

 一方、寝そべった霞も恥ずかしいのを我慢しながら、昨日の由布子との作戦会議を思い出していた。


「男子なんて、身体で縛っとかないと駄目だよ」

 テーブルに両手をついて迫らんばかりに由布子は力説した。

 場所は学校からは少し離れた喫茶店。霞と由布子は窓際の席に陣取っていた。

「だから、蓮實と二人きりになって、とっとと既成事実を作っちゃいなよ」

「で……も…………」

 由布子は吹き込んだが、霞は消極的だった。

「わたし、身体が貧素だから恥ずかし……い」

 霞は全体的にスレンダーだ。腰が細い代わりに胸も小さい。唯一、臀部は人並みだが、腰の細さが災いして大きく見える。

「それなら、大丈夫だよ」

 暗く俯く霞に、由布子は励ますように言った。

「銀矢から聞いた話だと、蓮實は胸の小さな()が好きなんだって」

「え……っ?」

 霞は信じられないものを見るような目で由布子を見た。男子なら誰も胸の大きい()が好きだと思ってからだ。

「本……当?」

「うん……お姉さんが、ああだかららしいけど……」

 霞は天道に姉がいることは知っていたが、実際に会ったことはない。だから、そう言われてもピンとこなかった。

「と、に、か、く」

 由布子は力強く言った。

「かすみんは今のままで充分魅力的だから、自信を持って」

「う、う……ん」

 まだ半信半疑だったが、霞は頷いた。

「じゃあ、具体的には……」


 そして、今、霞は由布子の計画(プラン)通り、天道を()()()()()

 しかし、いつまで経っても天道の反応(リアクション)がない。

 確かめようと閉じていた目を開けようとした時、突然、天道が覆い被さってきた。

「オマエ、男の前でそんな格好(マネ)すれば、どんな目に遭うかわかってるんだろうな?」

 脅すように、天道は言った。

「こっちだって、聖人賢者って訳じゃないんだぜ」

 それに対して、霞はコクッと頷いた。

「いい度胸だ」

 天道はゆっくりと顔を霞に近づけた。

 唇と唇が重なろうとした時、

”ブゥオオオオオオオン!”

 遠くからエキゾーストノートが聞こえてきて、天道は寸前で動きを止めた。

 それは紛れもなくランボルギーニV12排気音(サウンド)だった。

「ヤバい!」

 天道は慌てて立ち上がった。

「どうした……の?」

 目を開き、身体を起こした霞が聞いた。

「姉キが帰ってきた!」

 泡を食った天道は、部屋を右往左往し始めた。

「こんなところ、姉キに見られたらマズイ!」

 こんな混乱(パニック)になる天道を見るのは初めてだったので、それで霞は事の重大さを理解した。

「と、とにかくどこかに隠れて……」

「でも、車ある……よ?」

 霞の指摘に天道は天を仰いだ。

 そうしてる間にも、エキゾーストノートは家の前で止まる。

「あれ? フェラーリが止まってる……誰か来てるのかな?」

 そして、ランボルギーニ・アヴェンタドールを降りた姉、蓮實(はすみ)空子(くうこ)の声が聞こえてきた。

 天道はいよいよ蒼ざめた。

 空子が玄関を開けると、見慣れない靴を発見した。

「やっぱり誰かき……って、これって女子の靴……!?」

 それに気づいた空子は乱暴に靴を脱ぐと早足にで廊下を歩いて行った。

「タカ君っ! タカ君っ! 誰か来てるのっ!?」

 その様子を後ろでアヴェンタドールの持ち主(オーナー)である牛来(ごらい)紗理奈(さりな)が、冷や汗笑いで見ていた。

「うるせぇーぞ、姉キ!」

 観念した天道は、霞を連れてリビングへと降りていった。

「客人が来てるんだから静かにしろよ!」

 とりあえず、そう牽制してみる。だが、空子は霞の姿を発見すると、

「その()、誰!?」

 もの凄い勢いで問い詰めた。

「クラスメイトだよ」

 その姉の反応(リアクション)にうんざりしながら、天道は答えた。

「今日は家で勉強会の予定だったけど、澄生と肆輪がドタキャンしやがったんで()()だけが来たんだよ」

 それからとっさに嘘をつく。

(彼女だとは紹介してくれないん……だ)

 その台詞(ことば)に霞は小さく傷ついた。

「なぁーんだ。そうだったんだ」

 一方、空子はそれでようやく胸をなで下ろした。

「お姉ちゃん、タカ君だけ先に大人の階段昇っちゃたかと思ったよぉ」

 姉キ、まだなんだ、心の中で冷や汗笑いしながら、天道は改めて霞に姉達を紹介しようとした。

 だが……、

Kwo(クゥ)Sarina(サリナ)……?」

 先に霞の方が、二人が誰であるか気づいた。

「初めまして」

 それで空子は外面モードに自分を切り替えると、自己紹介した。

「タカ君の姉の蓮實空子です。Kwoの名前で芸能活動をしてるわ」

「あたしは牛来紗理奈、空子と同じくSarinaの名で芸能活動をしている」

 続いて、それまで後ろで事の成り行きを静観していた紗理奈が自己紹介する。

「前に話したろう? 走りの師匠がいるって。それが紗理奈姉ぇだ」

 それを天道が補足する。

「この女性(ひと)が……」

 一瞬、霞は興味深そうに紗理奈を見た。だが、直ぐに大事なことに気付いてペコッと頭を下げた。

「初めまし……て。()()()()()()()()()()の司馬霞で……す」

 その挨拶には明らかな棘があったが、天道は気付かなかった。

「外の458は、あんたの車か?」

 紗理奈の問いに、霞はコクッと頷いた。

「それじゃあ、あんたが蒼ざめた馬(ペイルホース)か」

 感心する紗理奈に、霞はまたもやコクッと頷く。

「???」

 紗理奈は、()()()()()|について大まかに聞いていたが、なにも知らない空子は頭に(クエスチョンマーク)を浮かべた。

「でっ? なにしに戻ってきたんだよ?」

 ムスッとした天道は、投げやり気味に聞いた。

「明日はこっちでロケだから、今日は紗理奈と一緒に泊まろうと思って」

「またかよ」

 空子の答えに天道はうんざりそうに言った。

「タカ……君」

 それを聞いた霞は天道の耳元で囁いた。

「わたし、今日は帰る……ね」

「ああっ、その方がいい」

 天道もその判断を了解した。

 一端、天道の部屋に戻り、学生カバンを取ってきてから、霞は天道に送られて玄関へと向かった。

「今日は、(わり)ぃ」

「うう……ん」

 謝る天道に霞は首を横に振った。

「じゃあな」

「う……ん」

 そう頷いて玄関を出た霞だったが、その背中は寂しそうだった。

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