女子小学生連続殺人事件
鈴木探偵事務所にある中央デスクでタバコをプカプカ吸っている、ウルフヘアの男、ジュンはある事件の謎を追っていた。
事件が起きたのは2019年12月10日。
女子小学生連続殺人事件、私立K学園に通う女子小学生5人が行方不明となり、頭部がミンチ状にされた死体や、頭部から脳みそだけをくり抜かれた死体、足だけが切断された死体…知り合いの刑事から情報は多少なりとも頂いているが捜査に介入できないジレンマに悩まさられる。
容疑者は近辺に住む47歳男性、彼の自宅からジュニアアイドルのグラビアのポスターが押収されたのと、近隣に住んでいる怪しい人というレッテルを貼られているが、これは冤罪の可能性が極めて高い…のだが、メディアや警察はどうやら彼を彼を犯人にしたいと思わせるような動きを見せる。
犯人は彼じゃない、どう考えても彼にはアリバイがない。
この事件を解決するには、探偵である彼が、介入する必要があるのだが、現在の探偵業法では、彼はこの事件に足を踏み入れるのに、限界がある。
そのため、探偵業法が改正されるまで、容疑者のXと面会を続けたり、弁護士のA氏に全面協力をした。
頭を抱えながら、ショートピースを事務所でプカプカと吹かすジュンは、とある通話アプリである女の子と仲良くなった。
それが、小栗マナである。
彼女は、現在14歳だが、事件が起こったこのK学園の卒業生であり、中学部には行かず公立の中学校に通っているらしい。
そのため、現在も、K学園の同級生とよく遊ぶらしい。
K学園の内部事情を詳しく知るため、様々なことをジュンは尋ねた。
そして、事実としてわかったのは、この学校は生徒の主体性を重んじるあまり、いじめや生徒間のトラブルを教師は見て見ぬふりをするそうでいじめが後をたたない。
マナもまたいじめの被害者であり、同時に加害者であった。
そして、この学校はいじめにより自殺をする者が後を立たない。
PTAの中でも問題視されたが。
しかし、良い悪いではなく、いじめは集団によって起こるコミュニケーションの一つである。
つまり、いじめに対しいくらペナルティをかしたところで、いじめが止むことはない。
そして、この学校の理念として、"生徒間は、全て生徒に責任あり"である。
進学校としても有名なK学園は、有名大学の進学率が非常に高く、また卒業生の中には成功者も多い。
この理念は、子供達の主体性を重んじるというものの他にいじめに耐えうる強いメンタルを手にするという意味も込められている。
某ヨットスクールのような体罰はなく、生徒の行動が制限されることもなく、極端な話をしてしまえば、成績さえ残していれば、髪を染めるのもピアスをして投稿するのも、登校しないのも全て自由。
しかし、そういう自由とともに与えられる責任感を子供達に与えることにより、子供は主体的になる。
そして、一定の成績を残せなかったものは、強制退学というペナルティに近いものがあるため、自由を手放したくない子供は必死に勉学に励む。
この循環のためには、生徒間のトラブルや問題に教員が口立ちをしない、言ってしまえば、ルソーの教育論を極端にしたものがK学園の教育方針なのである(校長のデスクの上には、ルソーのエミールが常に置かれている。)
頭を抱えた、ジュンはモジャモジャの癖毛に漂うショートピースの香りを漂わせながら、この事件の介入を如何にして行おうかと考えていた。
また彼は、別件で別の会社の業務も依頼されており、容疑者を冤罪から晴らしたい思いとは別に、クライアントを手放したくないというジレンマから軽く地団駄を踏んだ。
1月18日
モジャモジャの癖毛のあるウルフヘアをマッシュヘアにし、髭もしっかり剃り、そして、彼に似合わない背広を着て、バッグを手にし、業務を行うために株式会社XAXONに向かう。
朝礼が終わりデスクについて、依頼された業務を請けるジュン。
人事担当者Oが、退職したため、社労士の資格を持っているジュンが面接官並びに、採用担当者として一時的に雇用された。
株式会社XAXONは、ベンチャー企業であり、常に数人のメンバーで会社を回している。
そして、退職率もそれ相応に高く、今回のように定期的に業務委託という形で社労士や人事経験のある個人事業主に業務を委託しているらしい。
午前に軽い検修を受けた後に、午後に5人ほど採用面談を行う。
その5人の中で、私立K学園小学部を卒業した女性である景村あきえが来た。
事件解決の糸口になると思い、面接中彼女に小学校時代のことを詳細に聞くことにした。
「なんでそんなに私の小学生時代のことを聞くんですか?」とジュンは尋ねられたが
「実は甥がK学園小学部を受験しようとしていて」と誤魔化す。
「やめたほうがいいですよ。あそこは」と彼女は言った。
「こんなことを言ったら採用が見送られるとは思うのですが、あそこはいじめられて自殺した女の子の幽霊が出るらしく、過去に何度も事件が起こってるそうなんです。
それで私の友達も、ある日突然豹変したようになって…」
幽霊・・・非科学的なものはなるべく信用しないようにしてるジュンではあるが、この時ばかりは違った。
いじめが原因の自殺と次々と惨殺される生徒、ジュンは祖父が解決したある事件を思い出した。
戦時中、ある疎開先で起こった連続殺人事件。
次々と行方不明になる児童達、最初こそ脱走した児童達による事故だと思われたが、ジュンの祖父である鈴木 木の推理により、疎開先で虐められた児童による復讐であった。
そして、その事件の謎が解かれるまで米兵の幽霊の仕業と言われていた。
学園内という閉鎖された環境はかつての疎開先での事件を彷彿とさせる。
ジュンは退勤後、近くの喫茶店でアイスコーヒーに大量のミルクとシロップを飲みながら、容疑者リストを確認する。
外部の人間による犯行…は、学園内にいる警備員によって、阻害されるため、不可能ではないが現実的ではない。
となると、虐められた児童による復讐と言ったところが打倒だろう。
しかし、"虐げられた"児童達が被害者にいる時点で、この推理に矛盾が生じる。
頭を抱えながら中断されたジュンによる捜査。
そして、次々と脳裏に浮かぶ犯人像は、ジュンを迷わせた。
1月22日
そして第二の容疑者として、多良木みづほがあげられた。
みづほは、11歳でこの学校の児童であるが、在学中に精神に障害を患い、特別支援学級である「あおぞら学級」の生徒となった。
元々高IQであった彼女は、突然何かに取り憑かれたように、暴れ出し鋏を持ち、生徒に斬りかかった。
そして、ボキャブラリーもとても貧相なものになってしまったが、ジュンは彼女にそんな高度なトリックができるとは、到底思えなかった。
特別な許可を取ったジュンは彼女に質問をした。
ジュンは高校時代に学んだ臨床心理学をフル活用することにしたのである。
まず、彼女の警戒を解くために彼女が好きなアニメーションの話をする。
そして、徐々に打ち解けたところで本題に話をシフトさせようとした。
「ひと ころす 悪いこと
いじめ 悪いこと 先生 こわいひと
でも こわいひと きゃあああああ」と彼女が叫び出して調査は中断された。
先生が怖い…?虐待の可能性があるというのか…
ジュンは事務所に戻り頭をぼりぼりとかいた。
そして、この結論が正しいかは、わからないがジュンはある人を容疑者Xと仮定して捜査をした。
2月1日
雪が降るその日、夜道の中、犯人に追われ走る少女の姿があった。
「助けて…」
身長170cmのその"怪物"に襲われそうになる。
誰が入っても警報ブザーは、ならない。
寮内に忍び込んでいたジュンが、その犯人Xに強い蹴りを入れて、犯人を取り押さえた。
「やはり、君だったのか!景村さん!!!」
「離して!離して!!!」
ジュンは彼女を取り押さえ、女子小学生連続殺人事件の真相を聞いた。
「友人・・・私の友人の小冬を・・・殺したのよ!この学校が!!!」
「何!?」
「小冬と、私は辛くもこの学校を卒業し、社会に出て働いた。
小冬は、とある新聞社に働きこの学校を記事にしようとした…けど、何者かによって殺された。
小冬はこの学校が隠蔽しているいじめや自殺、生徒たちの虐待を暴こうとしたの。そして、この学校を廃校し、子供達の未来を守ろうとしたの!
小冬を殺した、この学校の存在を許せない!
だからね…私、"教員"として、この学校に紛れ込もうとしたの。
けど、結局教員としての試験は落ちたから、せめてもの想いで、用務員になった。
そこから…様々な方法で生徒達を殺していった。これだけ事件が起これば、メディアは取り上げる。
そう信じた・・・けどね、やっぱりこの事件は隠蔽された。
生徒の親にも口封じのための金を渡して、誰もこの事件をないものにしようとした。
だから、もう・・・そこからは勢いで、生徒達を・・・
でも私疲れたの。だから殺人なんてやめて、この学校を退職、その後はあの会社に入社。
そこで初めてあなたに出会ったの。
改心しようと思った、だけど、ある日校長から電話がかかってきたの。
"もう、殺人はやらないのか?
お前が犯人なのはもうわかってる。
お前の日常を今壊してもいいんだぞ"と校長に脅されて、私は最後の殺人を行なった。
そして・・・あなたに・・・」
「そうか・・・」
そして、彼女は押さえ込んでいるジュンの手を振り解き、逃げ出した。
景村は学校内の屋上から飛び降り、自殺した。
2月10日
事情を全て警察に話し、彼女の声の残ったICレコーダーを警察に渡した。
逮捕直後、校長が自殺。
そして校長室から生徒達の死体の破片が見つかった。
"女子小学生連続殺人事件"
忌々しいこの事件は終わりを迎えた。
ジュンは事件を解決後、喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら、ショートピースを吸っていると、ある雑誌を見かけた。
そこに残っていたのは、小冬さんのことであった。
かつて、ある新聞社に勤めながら、学校の闇を暴こうとした彼女の記事を見て、ジュンは涙を流した。
完