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知らぬ間に


「起きなさい?」

「…母さん?」

「分かってて言っていますか?」

「失礼しました。なるほど…もう死にましたか」


そう落胆したように私は言う。あんな素敵な世界にいただけにこの現実はなかなか受け止めるのは辛い。私の知らない生き物が沢山いたのだ…もうこんな夢の様な話は二度とないだろう。


「いいえ、死んでいませんよ」

「え!?死んでないのですか!」

「ちょ…近いです。離れてください」

「あっすいません。つい興奮してしまって一瞬ですが我を忘れていました」


死んでいないのにゼノンさんに会えているのはどうしてだろうか?

確か教会に行かなければ会えないんのでは?


「まぁ考えていることは分かります。どうして会えているのか…それは私が貴方が気絶している間に此処に呼んだからです。それと死んでいないとは言いましたがかなり危険な状態ですよ?」

「あぁあの毒はやっぱり危ない物だったんですね。油断しました」

「貴方の受けた毒は猛毒です。市場や一般市民が持っていれば即お縄にかかってしまうほどに危険な物でした。逆によく生きていたものです」


…そんな代物をどうしてあんな人たちが持っていたのでしょう?

ろくな使い方をしなかったと思うので私で良かったと思うべきか、運が悪かったと思うべきか。


「ど、どうして生きていたんですか?運が良かったのですか?」

「いいえ…これを見なさい」

「え?」


頭の中でニアが私に触手を伸ば…うん?何かを吸っているように見えるんだが気のせいかな?

それにニアの体の色が少しいつもと違うような気もする。


「このスライム…確かニアと名付けましたね?」

「え?あ、はいそうですけど。どうして女神様がそんな事を知っているのですか?」

「あっ!え、えっと…い、今はそんな事は関係ありません。兎に角このスライムのおかげで今の貴方は一命を取り留めているのです」

「ニア‥‥助けてくれたのか」


その映像では暗い部屋の中私の事を看病してくれている。

複数の触手が私の至る所の体にくっつき、何かを吸っているように見える。私は苦しそうにしながら寝ているが…。


「ニアは何をしているのでしょうか?」

「貴方の身体から毒を抜いているのですよ」

「ど、毒を!?ニアには毒に対する耐性などは無かった。それに元々毒を摂取する魔物ではないですよ!早く起きて止めさせなければニアが死んでしまいます」

「落ち着いてください。ニアが何も考えずに何かをすると思いますか?」

「はい?ですが…現にこうして毒を」

「ニアは進化したのですよ。別の種に」

「進化!?」


進化…それは生き物の突然変異によって引き起こされるものだ。

その環境に適応するためにDNAの中に記録されている何かが強く反応し、通常とは異なる個体が生まれる。そしてそれが本来の種族よりも長く、強く生きてしまい何時しかその種が通常の個体になる。

そうした長い時間をかけて本来は行う事なのだが…それをニアは短時間でやってのけたのですか?


「ど、どうされたのですか!?」

「み、見たかった…ニアの進化」

「言っている場合ですか!」


バシッと頭を叩かれたがやはり見たかった。進化するその瞬間など普通では観察できることが出来ない生命の神秘の一つなのだから。

それに地球にはいなかったスライムと言う種の進化…とても興味がある。


「はぁ…」

「随分と落ち込んでいますね」

「あ!そう言えば先程のようにその瞬間だけを頭の中に映像として流せないでしょうか?」

「す、すみませんがあれは録画制でして…」


録画…随分と現代チックな物ですね。テレビかなんか何ですか?

少し期待したのですがここは諦めるしかないみたいですね。


「ニアはどんな種に進化したのですか?」

「ご自分で確かめられては?人から教わるのはあまり好きではありませんよね?」

「それはそうですが…戻れるのですか?」

「あのドアから出ていただければ何時でも現実に戻れますよ」

「あのドアは…」


確か私が異世界に来たと同じドアだった気がする。記憶力はいい方ですから恐らく間違ってはいないと思いかと。

なるほどあのドアは境界線の様なものなのですね。ここと現実世界を繋ぐドア…何処か聞いたことのあるような名前が出てきますがやめときましょう。女神様も流石にポケットからドアを出したりはしないでしょうしね。


「では私はそろそろ行きます。そう言えば今回呼ばれた理由って?」

「特にないですよ?」

「え!?」

「死にかかっていたので再注意しようと思っただけです」

「あはは…すみません」

「はい。ではまたお待ちしていますね?」

「はい」


私は扉を開けてその奥へと進む。

一瞬だけ体が宙に浮いたような感覚を得たと思ったら次は体中に激痛が走っていた。


「あ”ぁあああ!」

プルプルッ!?


あまりの痛さに叫び声をあげるといきなりドアがガチャッと開き複数の冒険者とケリーさんが部屋の中に入ってくる。


「どうした!?」

「シズクさん!?」

「おい!しっかりしろ」


それぞれが心配の言葉を私にかけてくれるのはありがたいのだが…体を揺さぶるのはやめてほしい。

表面に毒がないとはいえ感染しないと言うのは分からないし、痛いのだ。


「だ、大丈夫です。ただ痛いだけなので…」

「本当ですか…良かった…本当に良かったぁ」


ケリーさんは何故か私の膝のところに倒れかけて泣いている。

ニアが触手でケリーさんをどかそうかどうか迷っているのは気のせいだろうか。


「皆さん…どうしてこんな病人の所にいるのですか?」

「どうしてって‥‥そりゃあお前さんが倒した奴がそう言う奴だからさ。あいつらに苦しめられて来たのはこの街じゃ少なくねぇんだよ。それをお前さんとそこにいるスラ坊が倒しちまうからみんな大騒ぎだ。ここに居るのはあいつらに強い恨みを持った野郎だけだよ」


あの二人組の冒険者は随分と恨みを買っていたようだ。

まぁあの様子なら納得できる。私も観察の為とは言いつつも少し怒っていましたしね。


「そうですか。心配をかけてありがとうございます。もう暫く安静にしていれば大丈夫ですので‥」

「そうかい?そりゃあめでてぇこったな?あんの毒を食らって死なねぇなんて‥‥お前さん強いじゃねぇか」

「大物ルーキーの誕生だな」

「本当にありがとうございました。街のみんなも感謝していましたよ」


そう言って冒険者達は部屋を出て行った。

もう誰もいないかと思えばケリーさんがまだその場に残っていた。


「あの~ケリーさん?」

「私のせいですか?」

「はい?」

「私の事を思って模擬戦なんかをしたのですか!?先ほどいた冒険者の一人から聞きました。貴方は脅されて模擬戦をしたのだと…何に脅されたのかは教えて貰えませんでしたが何となくわかります。あの二人組の冒険者の一人はしつこく私に言い寄って来ていましたから」


泣いて赤くなった目で私の事を見ている。その顔には後悔、謝罪、申し訳ない気持ちなどの気持ちが詰まった様な感じがした。


「違いますよ。確かにケリーさんの言う通り模擬戦を受けなければ悪い情報を流すと言われ脅されました。その脅しの中にケリーさんの名前もありました」

「では!」

「ですがそれはついでです。ニアの戦闘能力を知りたかったのと私のスキルがどれ程の物かを見ておきたかったのです。それで良かれと思ってお引き受けしたのですが…後悔はしてませんよ」


ニアの戦闘能力は非常に高い事が分かった。

私のスキルも観察には使用できない事、戦闘では使えることがわかり、戦闘では最後まで油断してはいけない事に気づかされた。手痛い出費でしたがそれでも非常に価値の高いモノだった。

ついでに感謝されましたしね。後悔する要素が何処にもありませんよね。


「う…うぅ‥‥わたしぃ、自分のせいで誰かが死んだらと思うと」

「もう私は大丈夫です」

「‥‥う″ぅうわぁあっ」


私は絶対に死にません。この世界では絶対に死んでも死に切れませんからね。

ケリーさんは子供のように私の胸の中でただ静かに泣き、やがてそのまま眠ってしまった。

ニアに頼んで触手でベッドの上に乗せ、私は椅子に座りながらニアの治療を引き続き受けたのだった。


読んでくださりありがとうございます。

今回はあまりお話の展開が無い回でしたね。そう言えば主人公受けた毒ですがもう一度受けるともれなく確定で死にます。異世界にもアナフィラキシーショックはあるのですよ。

夏は暑いですからね‥‥蜂やムカデ、クラゲなどの毒を持つ生き物にご注意ください。


うん?主人公の毒耐性ですか?そんなもんは勇者でもないんですからあるわけないじゃないですか。

ただの観察大好きな人間なんですから。


もう一話投稿するのでそちらも是非読んでくださると嬉しいです。

少しでも面白い、良いんじゃない?と思ってくださる方はブクマ、評価をしてくださると嬉しいです。

ではまた会いましょう(@^^)/

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