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外道


ギルドに入ると私の所にやって来たのはケリーさんだった。心配そうな顔をしているが確実に模擬戦の事だろう。


「シズクさん!どうして模擬戦なんか…相手は銀級の冒険者ですよ」

「……そう言えばなんですがその銀級って何なんでしょうか?私には何もないのですが」

「そうでした。常識なのですが説明してませんでした…」


何だろうか…顔を見たらわかるけど凄く後悔している。

銀級の冒険者…多分だが冒険者にもランクがあるのだろう。私はまだ依頼を一つもしていないのでそのランクが付いていないのだと推測する。

是非マニュアルにも書いていてほしいのだが、多分書くほどでもない程の常識なのだろう。


「いえ、もう何となくわかったので大丈夫です。取り敢えず模擬戦の事を教えてください」

「本当にするのですか?今からでも止めることは可能です」

「同じことを宿の中にいる冒険者にも言われたんだけど…そんなにあの二人って危険なのかい?」

「凄く有名なお二人です。あまり私は好きではない冒険者なのですが…実力はある方です」

「なるほど…まぁ実験には丁度いいかもしれないですね」

「実験?と、取り敢えず手短に模擬戦の事をお話いたしますね」


そう言ってケリーさんは冒険者ギルドで行われる模擬戦について教えてくれた。

武器は何を使っても良いが殺しは無し。

負けた側は勝った側の事を最大限に尊重する事。これはまぁ勝った方の言うことを聞けと言う事らしい。なんとも分かりにくい書き方だがこう書いた方が当たり障りが無いとのこと。


「テイムモンスターは?」

「勿論ですがアリです。それでは模擬戦を行う場所に案内します」

「建物の裏ですか?」

「そうです。随分と野次馬もいますが気にせず戦ってください」


建物裏側に移動すると学校などにある小体育館の様なものがあった。

なるほど此処で戦えばいいのですか。


「おぉ?随分と遅かったじゃねぇか!あまりにも遅かったんで帰ってママの膝で泣いてんのかと思っちまったぜ?」

「それとだが…こっちは二人だが問題ないよなぁ?」


にちゃぁと音が聞えそうなほどしてやったりの顔で私にそう言ってくる。

元々そのつもりだったので私は問題ないが隣にいるケリーさんは声を荒げて抗議する。


「あ、貴方達!初心者に対して二人で戦うと言うの!?そんなの卑怯ではないですか!」

「ケリーちゃん?俺もそいつも一人でなんて言ってねぇんだよ。そんな約束してねぇんだから別に良いよな?模擬戦のルールは受けた相手が決める。暗黙のルールだぜ?」

「ですが…」

「別に大丈夫ですよ。私もそのつもりでしたので」

「あ?」

「い、良いのですか?」

「はい、問題ありません。私も戦うつもりだったんですよ?スキルを試したかったので」

「おいおいおい!女の前だからってイキってんじゃねぇぞ?その顔を全員の前でぐちゃぐちゃにしてやるからな?」

「取り敢えずはそのいけすかねぇ顔をナイフでズタボロになるまで切りつけてやるよ」


そう冒険者が言った瞬間バチッと音が鳴り私の鞄が開いた。

そして目の前にはニアがいた。


周りの野次馬も一層騒がしくなる。


「なんだ?そのスライムは?」

「私のテイムモンスターですよ。この子にも戦ってもらいますのでよろしくお願いします」

「「「「「っぷ!あはははは!」」」」」


野次馬と二人の冒険者が笑う。それもそうだ自信満々に言っていた弱そうな冒険者が何を出したかと思えば弱い魔物のスライムなのだ。

誰だって笑っているがケリーさんだけは笑っていないそれどころか可哀そうな目を目の前にいる冒険者達に向けている。それは知っているからだ。このスライムがただのスライムではない事を。


私たちは紙に勝った時に何を相手に求めるのかを書く。そしてそれを仲介人であるケリーさんに渡すと私を信じられないような顔で見つめてくる。

ポーカーフェイスというモノを知らないのだろうか?あんまり反応すると私の意図にも気づかれてしまうのでやめてほしい。


「え、えっとでは模擬戦を開始します。…始め!」


その掛け声と同時に一人のナイフを持っている冒険者がニアへと襲い掛かる。

そしてナイフをそのニアの体に突き刺そうとした時…ピシッと音がなり冒険者の体は宙に浮いていた。


「ガッ!…な、何が起こった?」

地面に体を叩きつけられた男は立ち上がりながらそう言葉を漏らす。


「ニア…次は顎を狙ってみなさい。それと私の事は守らなくて平気です」

フルッ!


蠢く触手が頷く。どうやらわかったようだ。

私も観察にこの能力を使う気はないのですが…使ってみたい気持ちはあるのですよね。


「【解析】を開始します」


試しにニアと戦っている男の事を解析すると名前、年齢、身長、持っているスキルの情報が次々と頭に入って来る。

なるほど…これは絶対に使わない能力に認定ですね。こんな事をしていたら考察も推測もクソもないでしょう。そんな楽しくない事をして何になるといいますか?


「だが今だけは別ですね。このスキルを試めしてみますか【試行】!」


【試行】とは試しにやってみると言う意味ですが…どうやら解析したスキルを試しに使えるようですね。本来は解析した魔物のスキルを使って見てどんな事に使用できるのかなど考えるのですが…これも無しですね。絶対に観察では使わないでしょう。

男の持っている戦闘に役立ちそうなスキルは体術、短剣術のみだった。随分と少ないようだがこれが普通なのかもしれません。


「よそ見してんじゃねぇぞ!」

「おっと!危ないじゃないか!っよ!」

「クソ…ちょこまか動きやがって体術のスキル持ちか」


ニアの事を観察しているともう一人の冒険者が私めがけて殴りかかって来る。それをひらりと躱しながら私は反撃を試みる。

私は知識とは強力な媒介だと考えている。ただ技術を磨くと強い力になるがそれに知識が合わさる事によって凄まじい相乗効果を得る。例えばこんな感じに…。


「確か…こんな感じですよね?っは!」

避けた後に手の指先を男の体に軽く触れさせる。そして軽くパンチを男の体に叩き込む。


「グエェッ!」


体術のスキルのおかげなのか体がイメージ通りに動いてくれた。

今、私が行ったのは寸勁…のようなモノ。流石に武術も習った事も無い人間が簡単にそんなのを出来るわけもなく不完全な物になっている。

昔、中国に行ったときに友人の知り合いに武術を嗜んでいる人に説明してもらったことがある。

要は重心の移動距離を極端に短くし、その運動量をそのままぶつけたものが寸勁らしい。

私は今、それをやって見せたのだが…効果はあったみたいだ。私の不完全な寸勁を受けた冒険者は立ち上がれず、うずくまっている。


「グゾッ!…でめぇ!ただのルーキーじゃねぇのか?」

「正真正銘の初心者ですよ?ただ少しだけ恵まれているだけです」

「チッ!」

「まぁもう勝負は終わったみたいですし…そちらの負けで良いですか?」

「ま、まだだ!俺様達がお前みたいな奴に負けるわけねぇんだよ。へへ…これでも食らいなッ!」


男が懐から小さな瓶を私に投げつける。私に当たった衝撃で瓶は割れ、中の物が私の肩から腕にかかる。


「う"ッ!?こ、これは」

「毒ポーションだよ!猛毒だがな?へへざまぁみろ!俺様を見下すからそんな事になるんだよ!」


かかった場所が痛む。

蜂に刺されたようなズキズキとした痛みが腕から体全体に広がり始める。


「馬鹿野郎が!お前みたいな雑魚はな?俺様達の役に立てねぇなら死ねばいいんッグべ!」


ニアの触手が喋っていた冒険者の顎にヒットする。やはり触手がスライムの武器に間違いないようだ。そしてニアは恐らくだが並みのスライムよりも賢い。それは個性なのかそれともテイムしてからなのかは分からないが…もうそんな事を考えている余裕は私には残されていなかった。


あの瓶に入っていた毒は随分と危険な代物だったらしい。触れただけで体全体に毒が回るなんて思わなかったね。少し油断したかもしれない。


「ニア…!終わったようだね?」

プルプルッ!?


「勝負あり!勝者シズク!」


勝てたのだ。これで金貨2枚が得られるな。そしたらこの街を…。


「…すまない」

「…さん!?…さん!」

「おい!こいつを運んでやれ!」

「こいつらは?」

「そんな奴ら放っておけ!」


私はその一言で意識を失った。消えゆく意識の中には駆け寄って来る複数の冒険者とケリーさん、そしてニアの姿があった。


今回は初めてのまともな戦闘ですね。

寸勁の話はあまり気にしないでくれると嬉しいです。お詳しい方がいたら誠にすいません。

少しでもええやんと思ってくださればブクマ、評価をしてくださると大変励みになります。


明日も頑張って投稿するので是非読んでください。ではまた会いましょう(@^^)/



追記:誤字訂正いたしました。ついでに幾つかの場所を改善いたしました。2021/8/6 23:52



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