鴨が背負って来たのは?
「スライムが面倒な相手である事は理解しました。ですがテイム出来ないと言う事にはなりませんよね?」
「そうだ。テイム不可能な魔物なんかこの世にはいない。だがな?その難易度は魔物によって変わんだよ。お前はテイムの他に【契約】は知っているか?」
「【契約】ですか?すいませんが分かりません」
あれだろうか?魔物に対して名刺を渡したりするのだろうか。
うちのチームに入ればお得ですよって自社の優れている点をアピールするのかもしれない。
それで誓約書などを書いて契約をしたり?
私の脳内でイメージされているのはどうもシュールな光景だった。
「契約ていうのは無理やりに魔物を従わせるスキルの事だ。使用者の方が力量が上なら契約が成立すると言うスキルなんだが、それであればスライムは簡単に契約できる。性質が厄介なだけで単体としての力はお前の言う通り弱いからな。だがテイムはそれとは違う。遥かに難易度が高い」
思っていたよりもスキルの内容がブラックだった。そんな事をしてもいいのだろうか?
「えっと…でもそれって人間に対しても出来ますよね?それって不味いのでは?」
「勿論だが法律で禁止されている。使用者は即刻死罪となるほど重い罰だ」
「なるほど…」
「まぁ一部例外として犯罪奴隷がいるが…その話は今は言い。取り敢えずお前のやった【テイム】は【契約】とは違って簡単に出来る事ではない事を知っておけ」
「はぁ…取り敢えず分かりました。で…この子はどうなるのでしょうか?」
「うん?特に何もしないが?お前さんのテイムモンスターだろう?お前がちゃんと面倒見ろよ」
「え!?でもさっき思いっきり吹っ飛ばしましたよ?何もおとがめなしで良いんですか?」
「まぁ…主人を守ろうとしただけだからな。テイムされた魔物の行動としては何も可笑しい事ではない。だいたい俺がお前に対して殺気を出したのが原因だしな。…まぁそんな話は一度おいておこう。かなり脱線したが回復薬の材料になる薬草の群生地の話をしようか」
「あ、そう言えばそうでしたね」
忘れていたがそう言った理由で此処に連れて来られたんでしたね。
スライムを腕に抱えながら私はギルド長の話を聞く。
「お前は銀貨5枚ほどの定期収入でその情報をこちら側に提供すると言っているんだな?」
「はい、そうです。月の最後に銀貨5枚を下されば問題ないです」
「う~む…」
「やはり高すぎるのでしょうか?」
たかが薬草の情報で銀貨5枚と言うのは欲張りすぎたのかもしれない。大体、スライムの森が中級者向けの場所だと知らなかったのだ。私の考えでは初心者でも荒稼ぎできるからそれくらいが妥当だと考えていたのだが…それが無くなった今、もう少し安くてもいいかもしれない。
「いやいやその逆だ!あまりにも安すぎるんだ。お前は常識も知らねぇ田舎者だ…その額で情報を提供されるのはなんというか子供を騙しているようで罪悪感があってだな?」
「や、安いのですか?銀貨5枚ですよ?それも月ごとにですよ?」
「…お前さんはこの情報の有益さを分かってんのか?スライムの森は中級者向けの場所であり、初心者が行くことは難しいだろうが…それでも冒険者の中では簡単に命の危険が無く稼げる依頼を探している奴は多い。だから銀貨5枚なんてぶっちゃけて言うとはした金になっちまうんだよ」
「そうなんですか?…でも在庫が無いのですよね?であれば私がその情報を出し渋っている場合ではないですよ。それに今の状況的にも回復薬は必要なのでは?」
「山賊の件か…確かにそうだが。本当にいいのか?」
「はい。ですがちゃんと定期収入くださいね?それが無いと私が死んでしまうので」
「よし、わかった。その申し出を受けよう。ここに契約書がある。既に私の名前は書いてある…此処にお前さんの名前を書いてくれ」
「分かりました」
私はペンを受け取り、指定された場所に自身の名前を書く。
漢字を書いても恐らく理解されないしカタカナで良いだろうか?
「書きました」
「エムラシズク?…お前さん名字があるのか?山村って言っていたが何処かの辺境の貴族の子供なのか?」
「いえ?私の住む場所ではみんなそれぞれ違う名字を持っていましたよ。まぁあんまり気にしないでください。私の事はシズクでいいので」
「そうか…まぁ過度な詮索はダメだしな。そうする」
私はその後、ニアを鞄の中に戻して部屋の外へ出る。思ったよりも長話をしてしまったので昼時は既に過ぎている。もうお腹と背中がくっ付きそうなほど空腹なのだ。
宿に一度戻り、料理を注文する。
昼時を過ぎていたのだが宿の食堂は結構な賑わいを見せている。それだけここの料理がおいしいのだろうか?確かに美味しいのは分かる…夜食べたのも絶品だった。
私が食事を楽しんでいると二人組の男が私の対面に座って来る。
私は隅っこの四人席で食べていたので席が無く、そう言う事も仕方が無いと思い無視していたのだがどうも男たちが座って来たのは偶然ではないらしい。
それは私に向けられた刃物が物語っていた。
「……何が目的で?」
「テメーみたいな奴がケリーさんと話してんのを見るとな?俺様はなムカつくんだよ」
「あとお前…薬草の群生地の情報を隠してんだろ?それを俺達にも教えてろよ」
凄いな。理不尽と言う言葉がこれほど当てはまる状況は無いのではないかと思う。何処でその情報を知ったのかは知らないがまぁ聞き耳でも立てられていたのだろう。
突き付けられたナイフを見ながらそう考える。
不思議と全く怖くないのだ。ギルド長の殺気と言うものに比べればそよ風の様な優しさがある。今は殺す気が無いのがはっきりと理解できる。
だからと言って目の前の刃物でチクリと刺されれば私は死ぬのは間違いないので対応は気を付けなければならない。人間の感情と言うモノは山の天気と同じように変わりやすいからね。
「はぁ…それが目的ですか」
「お前…新人だろ?調子に乗ってんじゃねぇよ。俺様はな?銀級の冒険者だ。先輩の言うことは聞いといた方がいいぜ?」
「さっさと情報を渡せば痛い思いはせずに済むぜ」
「いくらですか?」
「「は?」」
私がいくらでその情報を買うのかと聞くと二人の冒険者は固まる。
互いの顔を見たと思えば急に笑い出した。
「「アッハッハッハッ!」」
「何がそんなに可笑しいんですか?」
「馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!?テメーに渡す金なんかねぇに決まってんだろ!テメーはただ黙って俺様達に情報を渡せばいいんだよ」
「あまり俺達をなめてんじゃねーよ。これが分からねぇほど馬鹿じゃねぇよな?」
「もしお前がこの話に頷かねぇなら俺達にも考えがある。テメーが薬草を独占しているだとかケリーがそれに絡んでいるだとかいくらでもデマの情報を流すことが出来んだよ」
ふむ…関係の無い人を巻き込むのは良くない。そもそもの話だがこの人たちの目的は単純な嫉妬だろう。私をぶん殴れば済む話ではないのか?そう思っていたのだが少しいい方法を思いついた。
他人を巻き込まず、私も得する方法を。
「……冒険者同士のいざこざは模擬戦で解決する。それがルールですよね?」
「あぁ?だから何だってんだよ」
「やりましょうよ?模擬戦」
私がそんな事を言うとは思っていなかったのか少し驚いた表情をするが次には気持ちの悪い程の笑みを浮かべる。
「…良いぜ?何が商品だ?」
「私に勝てたら情報をただで渡しましょう。ですが負けた場合は金貨2枚でその情報を買ってもらいます」
交渉を二人に持ち出す。
私はニアの戦闘能力を知りたかった。スライムがどれ程戦えるのか…まだこの目でしっかりと見ていない。先ほどのギルド長を薙ぎ払ったような攻撃で触手を使っていたが…それが本当の使い方なのか…まだ別の攻撃方法があるのかを知りたかった。
それにこの話は私に利しかない。この情報はもう既に冒険者ギルドに売っている。この二人は私にとっては鴨が葱を背負って来るようなものだ。
「はぁ!?き、金貨2枚だと?そんな高い金出せるわけねぇだろ」
「何を言っているんですか?その薬草は今は冒険者ギルドが喉から手が出るほど欲しいモノですよ?その価値は右肩上がりの状況です。貴方達が独占したら最低でも金貨10枚ほどの利益が出るのでは?もっとうまくやればそれ以上の利益が出ると思いますが…」
「き、金貨10枚…あ、アニキ、俺はその話を受けても良いと思うぜ?悪い話じゃねぇだろ?俺達が剣一つも持ってないこんなルーキーに負けるわけないだろ?」
「……確かにそうだな。よし、その話を引き受ける。模擬戦は今日この後だ」
「分かりました。昼食を食べた後に向かいますね」
「はぁ?何を言ってんだ?今から行くんだよッ!」
そう言って冒険者の一人がスープの皿を私の頭上で逆さまにする。
他の料理は食べ終わっていたのであまり被害は無い。
だが、楽しみに取っていたスープが台無しになってしまった。店の方には申し訳ないな。
「くははは!そっちの姿の方がお似合いだぜ?じゃあ少し待っててやるからすぐ来いよ?」
「ビビッて来なかったら俺様達の不戦勝だからな?」
二人の冒険者は私の事を笑いながら宿を出て行った。
周りの席に座っていた人たちは心配そうに私の事を見ている。そして騒ぎを聞きつけたのか店の方が私の所までやって来た。
「お、お客様!?だ、大丈夫でしょうか?」
「あぁ心配ない。ただスープが台無しになってしまった。折角作ってもらったのに申し訳ない」
「そ、そんな…あの一先ずこれで拭いてください」
「ありがとうございます」
布を渡される。私は取り敢えずそれで床に零れたスープを拭き始める。
「な、何をやっているんですか!?そんな事はしなくても良いんです!自分を拭いてください!」
「あ、そう言う事だったんですね。いや~すいません。ですが私の事はお気になさらず…取り敢えず片付けをしちゃいますね」
黙々と冒険者がこぼしたスープを拭き始める。
鞄の中でプルプルとスライムが振動しているのが分かる。自分を出せと言っているのだろう。
昔、妻の怒りの電話に出ないようにしていたら携帯の振動が止まらなくなったのを思い出す。あれは怖かった。
今の鞄は絶対に勝手に出ないようにボタンで上を留めているのだ。
前は外すのが面倒なので開きっぱなしにしていたのだがそうもいかなくなった。
拭き終わると店の人がもう一枚布を持ってきてくれたのでそれで顔を髪を拭く。
宿を出て冒険者ギルドへ向かおうとすると酒を飲んでいる冒険者から声がかかる。
「あんさん…あの二人と決闘するんかぁ?」
「決闘?…あぁ模擬戦の事ですね。そうですよ」
「今からでも遅くはない。やめときなぁ~?あの二人は新人潰しって言われているぐらい新人に目ぇ付けてしつこく食い荒らす外道も外道だ。あんたもその被害者のうちの一人になっちまうよ。あんさん…もしかしなくても強くないやろ?」
「そうですね。私は強くありませんね」
「だったら」
「でも私にも譲れない物もありますので…それではご忠告ありがとうございます」
「っへ…良い目するじゃねぇか」
追加のお金とスライムの戦闘実験の成果は計り知れない価値がある。それだけは絶対に譲れない。
それに対人間という状況が成立するのは難しいでしょう。こんな滅多にないチャンスを逃す理由はありませんね。
私は宿を出てギルドへと向かった。
読んでくださりありがとうございます。今回は考察ゼロの回でした。
面白ければブクマ、評価をしてくださると嬉しいですね。
もう一話投稿いたしますのでそれも読んでくださると嬉しいです。
プルプル…
「おっと…電話が来たようだ。ではまた会いましょう」




