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いつの日か

やったー、記録更新だ。


「……」

「……」


雫の腕にしがみつくようにして睨み合っているのはニアとローナだった。

この状況からかなりの時間が経っているのは眠そうな二人を見ていると分かる。


「あの…」

「ダメ」

「じっとしてて」

「あ、…はい」


何が起きたのか。簡単に言えば雫の身体に限界が来たのだ。慣れない場所での生活や過度なストレス、魔力、能力の暴走。そして誰かの死に触れた。それが嫌っていた人物でさえ、精神的な疲労は計り知れない。


気を張りっぱなしだった場所から戻り、仲間と再開し安心したのか。エルゼ、ユリスに会うや否や雫は倒れたのだ。

そして、熱を出して現在は療養中であった。

雫が仲間と合流してから数日が経過し、だいぶ事態は収束へと向かっていた。


雫は、何度もベッドから出ようとして外の様子を見に行こうとしたが、それをケリー含めた仲間に止められた。

現在、雫の側にいないのはシャーネリア王国での件で出払っているのだ。

ケリーは、事務的な仕事を手伝い、ユリスは、魔法で瓦礫などの撤去や物資の運搬をしている。

アーンは保護した獣人の子供の世話をしており、エルゼは、抵抗している貴族達の無力化を手伝っているのだった。


幸いにも一般市民達の抵抗は弱く、大人しくベアル魔帝国のいう事を聞いてくれる者が多かったようだ。

中には雫の事を批判し、他のものを焚き付ける者がいたが、すぐに取り押さえられた。

そうしたノモの話を聞いて雫は少しだけ役に立てたのかと思っていた。


左腕にくっつくニアは眠っているのか規則正しい呼吸音が聞こえる。ローナ不安そうな顔をしてこちらを見つめている。

雫は、ローナの目を見て、言わなければならない事を言う。元々、その事件が無事に解決できたなら言おうと思っていた事だ。


「ローナ、君には言わないといけない事があります」

「……なに?」

「アーンと一緒にあなたの故郷に帰りなさい」

「い、いや」

「嫌だと言うのでしょうが、貴方にはまだ親という存在が必要なはずですよ」

「じゃあ、シズクに着いていく」


ローナは弱々しくそう言う。


「私には親の代わりは出来ませんよ」

「でも、私は長に売られたの」

「そうだったんですね。ですが、そうだとしても私の言うことは変わりません」

「…シズクは、私のこと嫌いになったの?」


涙を瞳に浮かべそう聞いてくる。


「違いますよ」

「ほんとう?」

「当たり前です。ただ、親の存在はとても大きいのです。それに、もっと親子で過ごす時間もローナには必要だと思ったんですよ。少しお節介だとは思っているんですがね。もし、嫌な事が起きてもアーンがいるから大丈夫ですよ。彼女は強いですから」


雫は頬を指でかきながらそう照れ臭そうに言う。アーンに同じような説明をし、ローナと一緒に彼女の故郷に居てくれないかと言ったところ快く承諾してくれた。


「でも…でも」

「大丈夫ですよ。また会えます」

「本当に?」

「えぇ、本当に」

「ユビキリして」

「え?」


ローナは小指を突き出し、そう言った。

それは雫がローナにやった時と同じようだった。


「わかりました」


雫とローナは、小指を結び、約束をする。

その約束は果たして叶うのか、それは今の彼らにはわからない事である。

だが、運命という言葉があるのなら…それはきっと叶うのだろう。


そしてそれから数日がまた経過した。

雫たちは避難場所に設置されたテントの中ではなく、とある馬車の中にいた。

雫達が南の国であるアルレリアに行こうかと話し合っているとノモが申し訳なさげにその会話に参加する。


「申し訳ありませんが…その前に国に来て欲しいのです」

「いいですよ、でも急ですね?」

「魔王様が雫様たちとお会いしたいと…」


雫の具合が少しだけ悪くなったのはここだけの話である。

そんなこんなで、次の目的地がベアル魔帝国に決まったのだ。


そして現在はローナの故郷である村に向かっている途中だった。

どうやらベアル魔帝国に続く街道の近くにある村がそうらしいのだ。


「エルゼ、もう十分吸ったと思うんですけど」

『まだまだ足りないないわよ!心配かけた罰よ!本当に心配したんだからね!?』

「わかってます。散々怒られましたから」


雫は、ケリーに泣かれながら説教され、ユリスに静かに怒られたのだ。テントに入り、ユリスに淡々と良くなかった所を言われる雫の様子を見たノモはそっとテントを後にしたほどだ。


「着きましたよ。ここからこの道を歩けば村があります。私たちはここで待っています」


御者をしていたノモがそう雫に言うとケリーやその他の仲間も行ってらっしゃいと言う。


「行って来るよ。じゃあ、行こうか」

「うん」

「わかった」


緊張気味のアーンとローナを連れて道を歩いていくと小さな村が見えて来る。

村の住人が雫たちに気がつくと警戒しているのかじっとこちらを睨みつけて来る。


「まぁ、そうですよね」


雫はわかっていた。獣人たちが人間にされた事を考えれば理解できる。

自分はやっていない事でも、彼らからすれば自分も同じ人間だと言うこと。それだけなのだと雫は沈んだ気持ちを切り替える。


「ローナのお母さんとお父さんは、いらっしゃいますでしょうか!!娘さんを連れてきました!」


そう大きな声で言う。すると一つの家の扉が勢いよく開く。そして、こちらを見ると物凄いスピードで女性が走ってきていた。


「ほら、行っておいで」


雫はローナの背を押すとローナはそのままこちらに向かってきてる女性の方に走っていく。


「お、お母さん、お母さん、お母さん!!」

「ローナ!?本当にローナなの!?生きててよかった…本当に本当に生きてて…うぅ」

「ごめんなさい、ごめんなさい…逃げれなかった…逃げてって言ったのに…体が動かなくて」

「いいのよ…私こそ、ごめんなさい。あなたを守れなくて…本当に…こうして生きて帰ってきてくれたのだから…本当によかった」


抱き合う二人を見つめる他の獣人は、涙を流していた。しばらくすると森の方から走ってきた男が抱き合う二人を抱きしめる。


「あのぉ」

「ん?」


ローナたちを眺めていると犬のような耳を生やした女性が雫たちに話しかけてきた。


「あなたたちは…一体」

「私は雫です。こっちはアーンです」

「そうですか。あの子を救ってくださり、ありがとうございます。村民を代表してお礼をします」

「そうなると、あなたがこの村の長ですか?」

「……はい。聞いたのですね?あの子に」

「そうですね。ローナは、長に売られたと、そう言っていました」

「今でもあの日が夢に出てきますよ。そして、後悔していたんです。なぜ立ち向かわなかったのかと、大人の私がなぜ子供のあの子に全てを押し付けてしまったのかと…」


村長は悔いるように虚空を見つめる。


「私は、村長の決断が間違いだとは思いませんよ。長として、村の人を一人でも救うため、犠牲を最小限にするためにした決断だったのですよね?」

「…はい」

「ですが、貴方は過程を飛ばしすぎた」

「過程ですか?」

「若者である私の戯言だと思ってください。私の住んでいた言葉に三人寄れば文殊の知恵と言う言葉があります。それは一人で考えるよりも三人で考えればより良い案が浮かぶと言った意味です。長は村を守る役目がある。それは理解できます。ですが、それは決して一人じゃなくてもいいではないですか?」

「そう…なのですかね」

「えぇ、きっとそうですよ。あと、アーンがこの村に住むことを許してもらえませんか?ローナを助けたお礼として、私の願いを聞き入れてもらえると有難いのですが」


そう言うと村長の目はアーンを見る。

そして、少し申し訳なさげに頭を下げる。


「…本当にありがとうございます」

「いえいえ、こちらの願いを聞いて貰えましたから何も問題はないですよ」

「では、私はそろそろ戻りますね。アーン、君は無茶をせずに元気で過ごしなさい」

「わかってる。でも忘れないでよ?僕はシズクの従魔なんだからね?」

「そう言えばそうですね。テイムしたのを忘れていましたよ」

「ちょっと!?」


雫は顎に手をやり思い出すふりをする。

アーンはそれにツッコミを入れ、雫も冗談だと言うが雫にとっては忘れてくれてもいいと思っていた。自分に縛られるのではなく生きて欲しいと考えていたのだ。


「もうこの繋がりは切れないよ。それに、ちゃんと責任もってお世話してもらうから」

「…お手柔らかに」

「シズク!」


アーンと話しているとそこにローナとその家族がやって来る。


「ローナの母です。本当にありがとうございました。どうお礼をすれば」

「お礼ですか?そうですねー、では、ローナの事をちゃんと守ってください。そして、今以上に大切にしてあげてください」


元々、金銭的な見返りなどは雫は必要としていない。それに村や村人を見てわかるが、恐らくこの村はそこまで裕福な暮らしは出来ていないのだろう。そう雫は考え、一切のお礼を断るつもりでいた。


雫がローナの母親にそう答えるともう一人の逞しい体つきをした男がガッと雫の肩を掴む。ローナの父親なのだと雫は確信する。


「ありがとう……お前が居なければ俺たちは生きる目的を失っていた。もう躊躇わねぇ、もう失わねぇ。絶対に悲しませねぇよ」

「はい、よろしくお願いしますね」

「…ところで、お前は俺ら獣人に対して…」

「ん?」

「あーその、なんだ…嫌な感情はあったりするのか?」

「お父さん!?」


ローナの父親は聞き辛そうにそう言ってきた。

何故かローナが顔を赤らめて父を呼ぶがローナの父親は聞こえないふりを続ける。


「まさか、ある訳ないですよ」

「そうか!そうか、そうか!がっはは!」


そう雫が断言するとローナの父は雫の背中をバシバシと叩き笑う。

ローナの母親はあらあらと顔に手をやり、ローナは手で顔を覆う。そしてそんな光景を微笑ましく見ている村人たち。そんな構図が出来上がっていた。


「では、私は行かないといけないので」

「おう!また来いよな?」

「そうね、また顔を見せてくれると嬉しいわね。ね?ローナ」

「……行っちゃうの?」


ローナは、悲しそうにそう言う。だが、寂しそうではなかった。

この間までの彼女には居なかった家族が、仲間がそこにはいたからであった。


「また会えますよ」

「うん。…えい!」


かぷっ


ローナは抱きつくと雫の首筋に軽く歯を当てる。そして上目遣いで「好き」と小さな声で言うと脱兎のごとく母親の後ろへと隠れる。


雫は呆気に取られ、しばらく放心しているとアーンに行くよ?と言われ村の出口へと向かう。


「ねぇねぇ、あの意味知ってる?」

「さっきの行動のですか?」

「そう」

「好意を向けられていることは流石に理解できますよ」

「そっか……じゃあ僕はここまでだから」

「お元気で」

「雫もね」


雫が馬車の待つ場所へと戻っていく後ろ姿を見ながらアーンは独り言をこぼす。


「シズク、2回目の意味は『逃がさない』なんだよ?……あーあ、ローナちゃんは苦労するだろうなぁ」


暖かく柔らかな風を感じ、アーンは笑いながらそう言って村へと戻って行く。


読んでくださりありがとうございます。

これにて一つの章が完結いたしました。

稚拙な文章で申し訳ないのですが、少しでも楽しんで頂けたのなら私としては書いてよかったかなと思います。

と言うことで次からは新章となります。次は魔帝国編。

お楽しみにね?

因みにですが、ローナは、独占欲強めの女の子です。


ブックマークや下の星をポチッと押して応援してくださるとありがたいです。(視覚的に色んな人に読んでもらえてるのだとわかってやる気が出ます)

感想は……お手柔らかに。

次もなるべく早く投稿しますので、忘れないでくれると嬉しいです。


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