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白狼

お待たせしました。失踪してないよ…しそうになっただけだよ。本当だよ?


地下に連れてこられた私たちは牢の中に入れられる。

明かりも少なく、暗い場所では人間の私では何も見えなかった。だが、少し血の匂い、そして何かが腐ったような臭いがする。


「ここで大人しくしていろ」


そう言って苦い顔をして兵たちはそそくさとここから出ていく。

暗闇でよくわからないが、牢屋の中は意外と広かった。そして、牢屋の奥には幾つもの光っている瞳があった。動物は人間の目の構造とは違い、少しの光でも見えるようにしてくれる構造がある。恐らく、獣人族にも同じ構造があるのでしょう。


「…人間?」


奥から聞こえたのはか細い声だった。少し高いが少年の声だろうか?

私はその声の主に話しかける。


「ええ、逆らったら捕まっちゃいまして…」

「そっちは同族かな?」

「そうですよ。少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか」

「来ないで!」

「!?」

「あ、いや、そう言う意味じゃないんだ。僕たちは獣人、だから人間の君は近づかない方が身のためだと思って。君はまだここから出れるかもしれない」


私はそういうことならとその声の主の方へと歩き出した。

地下牢には地上に繋がっている窓…というか通気口のようなものがあった。月明かりに丁度照らされて、声の主の姿がようやく見ることができた。そして、微かに聞こえていた、怯えるような声と震える呼吸音の理由が分かった。声の主だろうか?一人の獣人の周りにピタッとくっついている獣人の子供の姿があった。怖い化け物を見るような目で私のことを見ているのは無理もないのかもしれません。


「こんばんは」

「こんばんは、君は可笑しな人間だね?普通は獣人なんかに近づこうとする人間なんていないんだけど」

「まぁ、そう言う人間もいるんですよ。私は雫といいます」

「僕はアーン、白狼族という少し珍しい種族でね。人間たちは僕たちをどうやら自分たちのものにしたいらしい。でも僕はそれを拒んだんだよ。その結果がこれさ」


アーンの身体は欠けていた。片腕と片足を一本ずつ何かに切り落とされたように無くなっていた。

だからアーンは牢屋の壁に背を向けて座っていた。そしてその体を支えるように子供たちはアーンにくっついていたのだ。


「この子たちは親とはぐれた時に捕まった子たちだよ。森で迷子になった子もいれば、街の中で迷った子供もいるよ。理不尽だよね、子供の獣人を見つけては攫って、ここに連れて来るなんて。この子たちは僕に懐いてしまってね。こうして体が倒れないようにしてくれているんだ」


無気力にそうアーンは淡々と話す。まるで怒ることが疲れたようにその目はただ静かに事実を語っていた。周りの子供たちはそれをただジッと聞いている。何も話さず、私のことを警戒しているのがわかる。


「君はどうしてここに来たの?」

「私の仲間をあのべデブとかいう使徒が連れて行こうとしたので止めただけですよ。それで無理やりここまで連れてこられたのですよ。こっちも迷惑してるんです」

「そうなんだ。君もあの使徒に連れてこられたんだね」

「こっちの子もそうなんです」


私はローナを見る。


「…どうしたのかな?元気がないようだけど。確かにこの牢屋の中の臭いは獣人族にとってはきついけど暫くいれば慣れるよ」

「いえ、つい先ほど死刑宣告をされてしまったんです。それで…」


そうアーンに告げたとき、私の手を握っていたローナの手がギュッと私の手を強く握りしめた。


「その子を僕の前に」

「…わかりました」


アーンは優しい声で私に言った。危害を加えるようなことはしないと思うので、私は言うとおりにローナをアーンの前に連れていく。ローナはずっと下を向いて、アーンの方を向こうとしない。すると、アーンはローナの顔に片手で触れる。顔を上げて、目を合わす。


「苦しかったね?辛かったよね。でも、君はまだ死なないよ。安心して?僕はわかる。君は未来を生きている。必ず、ここから生きて帰れるよ」

「…本当?」

「うん。だからまだ諦めたらダメだよ」


ローナに今必要なことは生きることへの肯定。そして、生きるための希望が必要です。誰しも死にたくなる時は山ほどあります。苦しい時ほど簡単な死に行きたがる。それを止めるのは他人の声だったりする。友人でも家族でもない何でもない他人が自殺を止めたなんて話は有名な話です。


「精神回復魔法【マインドキュア】…どう落ち着いた?」

「うん。不思議な感じ…あれ?なんだか眠いよ」

「よかった。君はもうお休み。明日は君が頑張るんだ」

「うん、おやすみなさい…」


ローナはそのまま前に倒れてアーンに抱きかかえられる。ローナを抱えるアーンの姿は母性を感じるものがあった。


「君たちは何者かな?君は何か考えがあるんでしょ?そうでもないとそんなに冷静じゃいられないよ」


アーンは片腕に抱えたローナを見ながら私にそう聞く。私はアーンに明日行われるであろう事を話した。


「明日、処刑は執行されます。それも多くの人に見られる見せしめとして」

「気分のいい話ではないね」

「ここから話すことは誰にも言わないでほしい。そしてどうか騒がないでくれませんか?」

「わかった。君たちもいいね?」


アーンの周りにいる子供たちは首を縦に振る。私はシャツを脱いで、証を見せる。


「にゃ、なにをしてるんだっ!は、早く服をきてくれ!」

「ん?何をそんなに慌てているのですか?とりあえず、これを見てください」

「うん?一体何があるって…それは!?君も使徒だったのかい?」

「しー!静かにお願いします。あまり多くの人に知ってほしくはないんですから」

「あ、ご、ごめんよ。でも、まさか君が使徒だったなんて…」

「これでどうにかできませんかね?」

「う~ん…多分出来ると思う。でも気を付けた方がいい。べデブは厄介な奴だから、一筋縄ではいかないと思う。神闘権が発動するかもしれない」


神闘権?なんですかその権利は。そんな物騒な権利は破棄しますけど、恐らくそう簡単に破棄できないですよね?私はアーンにその権利について尋ねてみた。


「僕もよくわからないんだけど、使徒同士で決闘するんだって」

「決闘ですか」


私は生き物の観察をしたいだけなんですが、どうして厄介ごとに巻き込まれるんでしょうか?

まぁ、今回は自分で首を挟んだようなものですが、また決闘ですか。…あれ?私、今仲間がいなくないですか?もしかしなくてもピンチなのでは。


「…不味いですね。仲間が来てくれれば何とかなるかもしれないのですけど」

「仲間?」

「そうです。私は魔物などをテイムして、戦ってもらうスキルを持っているみたいで、自分自身の戦闘能力は皆無に等しいんですよ」

「そうなんだ。じゃあ、味方のいない今はもしかして」

「何もできない役立たずですね」

「笑顔でそんなこと言わないでよ」


まぁ、事実ですしね。

見栄を張ったりしても意味がないですし、ここは正直に言いませんと。


「じゃあさ、ローナをテイムしてあげてよ」

「何を言っているんですか?私は魔物じゃないとテイム出来ないですよ?」

「知ってた?獣人族って魔物が先祖なんだよ?」

「え!そうなんですか?それは初耳でした」


魔物が人と混じった事で生まれたのが今の獣人族らしい。

だから獣人族には沢山の種族がいる。魔物の数だけ、獣人族の種族が生まれる。


「ですが、例えそうであっても私はローナをテイムしたりはしませんよ」

「君は獣人を道具と思わない。だから君の傍にいればこの子も安全なんだよ。それにテイムはお互いが信頼関係になければ出来ない」

「ですが…」


テイムするというのには抵抗がありますね。犬や猫のようなペットを飼うという感覚でやっていいことではない。人の人生を変える行為ニアなどの完全な魔物だとまだ抵抗が少ないですけど…。


「少なくとも本人の意思がないと私は絶対にやりません」

「う~ん。頑固というか、律儀というか…君という人間にはあったとこがないよ。じゃあ!僕をテイムしてみたら?ほら、お試し感覚で」

「いや、ですから」

「本人の意思があればいいんでしょ?僕は構わないよ、だってこんな体だしね。僕に何が出来るとも思えない。だから、ほらほら!」


…なぜでしょう。どうしてこんな目を輝かせているんでしょうか?確かに出来るのかどうか、その結果は非常に私としては気になります。確かめたいこともあります。けど…やるかと言われれば出来ないでしょう。人体実験を行うようなものですからね。ここはやんわりと断っておきましょう。


「と言われましても、そんな簡単に出来るわけないんで」

『……個体名 アーンのテイムを完了しました』

「え!?…また勝手にやってくれましたね」


『新たな種族を登録。【魔典】の成長を確認しました。新たなスキル【覚醒】を獲得…成功です。個体名 ニア エルゼ ローブ アーンにスキル【覚醒】を実行します。……個体名ニア エルゼ ローブの【覚醒】に失敗。個体名アーンの【覚醒】…成功しました』


頭の中に声が響く。いつもはワクワクするお知らせなんですが、今回に限っては嬉しくないですよ。

どうして、勝手に発動するんですかね?私の意思は!?ねぇ、本当に私のスキルですよね?


「ん?どうしたのって…あれ?体がなんか光ってる?」

「あ~…私は何も聞こえてません。もう勝手にして下さい」

「おねぇちゃん!死んじゃうの?」

「嫌だよ!」

「僕はどこにも行かないよ。というかこの感覚は…え?あれ、僕の腕」


光が収まるとそこには五体満足のアーンの姿があった。

アーンは自分の腕を触り、足を震える手でさする。数秒間の間をおいて私を泣くような目で見つめる。


「よかったですね。というか女性だったんですね」

「…うん。今言うことかな?」

「いや~まさか、全部治ってしまうとは思いもしませんでした。やっぱり使徒の力って凄いですね」


アーンが少年じゃなかったことは一度置いておきましょう。それよりも、やっぱりこの力は危険ですね。

自分の力というか神様にいやいや貰った力に少し驚いた。これのせいで巻き込まれたこともありましたが、救うことも出来ることがわかってよかったです。

アーンはローナを横に寝かしつけ、立ち上がる。そして私の前で膝をついた。


「今より私は貴方様のものでございます」

「えっと…それは嫌だ。というかやめて欲しいですね」

「え?そ、それはどういう」


捨てられた子犬のような目をするんじゃないですよ。


「いや違いますよ?ただ、そういう変な上下関係は要らないと言っているんです。ほら友達…親しい友人関係としてよろしくお願いします。あと敬語も禁止で」

「わ、わかったよ。それで、私の願いを聞いてくれないかな?…この子たちも同じようにテイムを」

「それは絶対にしません」


私は食い気味にアーンのお願いを断った。いや、普通に無理ですって…アーンのテイムだってスキルが勝手に判断したことですし。これ以上の負担は私の身を滅ぼしかねない。


「テイムは一度発動すれば二度と外れない鎖です。子供たちにそんなものをつける事は私には出来ません。それに責任も負えませんしね」

「…」

「ですが、助けますよ。ここを出るときに一緒に連れていきましょう。私が前にいた場所に行けばどうにかしてくれるかもしれませんし」

「ありがとう!本当にありがとう」

「明日も早いでしょうし…私は寝ます」


明日、無事に生きて終わればいいんですがね。

私の心配が杞憂に終わることをその日は願って眠りについた。


読んでくださりありがとうございます。

また投稿を始めますので読みに来てくださると嬉しい限りです。

ブクマなどをして次回をお待ちください。

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