狂う者
今回は少し胸糞な言葉、思想があります。ご了承ください。
漸く馬車が止まる。
やっと休憩するようですね。夜遅くまで走っていましたが…やはり魔道具の馬なんですかね?ちゃんと見たわけではありませんので分からないんですよね。チラッと見ただけでしたので。
「っと…」
私は肩にもたれかかっているローナの頭を床に静かにおいて離れた場所へと移動する。
これで起こしてしまっては少し可哀そうではありますが仕方がありません。
私が移動し終えるとこちらの方に何名かが歩いてくる音が聞こえる。鎧を付けているお陰で彼らの足音と言うモノは聞きやすいのでありがたいですね。というかあのように重い鎧を着ていて辛くはないのでしょうか?私なら絶対に耐えられないと思うんですよね。
護衛の方が二人来て私に最低限度の食事をくれる。先ほどの方は来ていませんか…。
彼らの目は私をゴミを見るかのように冷たい。浮気がバレた夫を見る奥さんの様な冷たさですね。
元同僚の事をこんな時に思い出すなんて随分と私も肝が座っていると自分ながら感心してしまいますよ。今はそれどころではないと言うのに。
渋々と言った感じで縄を解いてくれましたね。確かに食事をするには不便ですのでありがたいです。
「ありがとうございます」
「…ふん、使徒様に歯向かう愚か者を見ようと思い来てみたが…やはりゴミはゴミらしい醜い姿をしている。その痩せた姿に黒髪などは最早使徒様の反対の存在とまで言える」
「そこまでにしておけ。この愚か者に何を言っても無駄だ。どうせ死ぬのだからこいつに使う時間が勿体ないぞ。今は食事の為縄を解くが逃げ出そうとしたらその場で殺す」
そう二人は言う。一人は何処かへ行ってしまいましたがもう一人は見張り役でしょうか入り口の前でこちらに背を向けて立っていますね。一方的な喋りで少し驚きましたが…にしても食事がこれだけとは思いませんでしたね。私が護衛の人から受け取ったのはパン一つ。どう考えても足りない…更にローナの分も無い。彼女の言葉で語られた事が本当でしたら与える価値もないと言う事でしょうか。
「あの~」
「…」
無視ですか…。
価値観が合わない人間は生きていれば必ず出会います。それは地球で嫌と言うほど身に染みています。そう言う人には関わらないかその価値観に自分が適応するのが上手い対処ですね。…そして私は後者を選んできました。ですが今回は無理なようです。
「鞄の中に何か食べれそうなモノは…これしかないですよね」
鞄の中に入っていたのは携帯食料。念の為にと買っていたモノですがあまり私は食べたくない。
その理由は単純明快でとても美味しくない。ハッキリ言うとかなり不味いんです。アフリカに行った時に食べた虫の幼虫の丸焼きの方がまだ美味しかったと思えるほどです。
「はぁ…これ食べますか」
私は寝ているローナを見る。彼女はまだスヤスヤと寝ているからまだ起こさない方が良いですね。
起きた時にパンをあげましょう。
私はパンを布に包んでバレないように鞄の中にしまう。
そして携帯食料をそのまま齧って口の中でゆっくりと噛んで食べる。
出来るだけ咀嚼を多くして食べ物の消化にエネルギーを使わないようにし、お腹が一杯になるように満腹中枢を刺激します。嚙むことによって脳の活性化にも繋がるので不味いから嚙まないで飲み込むと言う選択は取れないんですよね。
「相変わらずの不味さですね。一度食べて吐きかけたっきりですよ。こんなんで役に立つとは思いませんでしたけどね」
静かな声でそう言う。
どうやって王様に会いに行くかを考えないといけない…まぁ痛い目に合わないように解決したいんですよね。殴られるのも刺されるのも嫌ですのでね。
私が携帯食料を食べ終わると違う足音が近づいてくるのが分かる。
護衛の足音ではないですね…鎧が擦れる音が聞えません。ですがそれにしては足音が重い。
「ぐふふ、惨めだな」
「…」
「自分がこれから死ぬのが怖くて何も言えないか?うん?」
「奥の獣人はどうしたんですか?」
「あぁあの気味の悪い獣人か。あれは通りかかった場所の近くに集落があったから適当にその中から選んで来ただけだ。汚いが奴隷としては獣人は価値がある。やはり人間に使われる為に生まれて来た種族は丈夫なだけ様々な使い道があるのだよ」
我慢…我慢ですよ私。今ここで殴ってしまってはダメです。私が護衛によって殺されるだけ。
「…様々な使い道ですか?」
「そうだ。単純な力仕事はあいつらを使えば上手く事が運ぶ。それに体が丈夫なだけあって長く使う事も出来るしな。あとは性奴隷としても優秀だ。あいつは性奴隷として使ってやろうと思ったのだ。一部の界隈から獣人の子供を使う事で悦びを感じるらしいしな。汚らわしい獣人を国に入れる事すら私は虫唾が走るが道具として考えると存外悪い気分はしないものだ」
「ふ、ふざけている。そんな事が許されるわけない」
「ぐふふ、許されるのだよ!それが使徒である私の権利。使徒である私の言うことは全て正しいのだよ。その他の有象無象が何を言ったところでただの戯言に過ぎない」
狂っている。
その一言に尽きた。彼のその思想…それを許してしまうこの世界の現状。その全てが狂っている。
この人と話しても意味がないでしょう。何もかもが私とはあまりにも違いすぎる。
「明日には国に着く。そしてお前の公開処刑だ」
「王様には何も言わなくても良いんですか?」
「面倒だが決まりだから勿論言う。ただ私は哀れな罪人を連れて来た、我が国でその罪を浄化するとな。そうだ!王にもお前のその哀れな姿を見せてやろう。グヒヒッそれが良い!そうしよう!」
一人ではしゃいだ後、私の顔を見て何やら満足して何処かに行ってしまった。
そして私はもう一度縄を縛られる。そう言えばですがローナは縛られていませんでしたね。まぁその理由も何となくは分かります。
誰もいなくなった事を確認し、私はローナの場所まで移動します。
私が近づくとローナはゆっくりと目を開ける。
「起きていましたか?」
「…うん」
「いつから?」
「使徒様が来た時に…」
「そうですか」
聞かせたくない所を聞かれてしまった。
「私…売られるの?」
「違いますよ。そんな事は絶対にさせませんから安心してください。…そうだ!お腹は減っていませんか?」
「減ってる…でも私は食べれない」
「私の鞄の中にパンが布に包まれています。それを食べてください。足りなければかなり不味いですが携帯食料もあります」
「……ダメ。そんな事をしたらシズクの食べ物が無くなる」
良い子ですね。自分も食べていないのに私の事を気遣ってくれる。あの男にこの子の爪の垢を煎じて飲ませたいですよ。まぁそんな事をしても無駄でしょうけどね。
「私はもう食べてしまいましたので考えなくて良いんですよ。早く食べてしまいましょう?落ち着いたらまた物語を話してあげますよ」
「ほんと?」
「本当です。ですから早く食べてしまいましょう?」
「…わかった。ありがとう」
ローナは鞄の中に手を入れてゴソゴソと物を取り出す。目的のパンを取り出してローナはちょびちょび食べ始める。乾いた木の床にポトポトと何かが落ちる音が聞こえる。
「うっ!‥‥ゴホッゴホッ‥‥あ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
「大丈夫ですよ」
過度な脱水症状で食べ物を飲み込む事すら出来なくなっていましたか。人間よりも丈夫とあの人間は言っていましたが恐らく体の構造は人間とは殆ど変わらない。人間も約15%程の水が無くなるとそう言った事が起きます。‥‥確か水の入ったボトルが鞄の中に入っていたはず。
私もそろそろ限界ですが徹夜は慣れているんですよ。生き物の観察をする上で何日も寝ないで夜を過ごすなんて朝飯前なんですから。限界を迎えてからが本番です。
「鞄の中に水が入った入れ物があります。それを出してください」
「分かった…これ?」
「そうです。その入れ物です。蓋を捻ると開くので水を飲んでください」
「でも…」
「言ったはずです。私の事は考えなくて良いんですよ。私はもう終わったんですから。それと出来れば飲み切ってもらえると嬉しいですね。少しずつで良いのでゆっくりと飲んでください」
「わ、わかった!」
ごく、ごくとローナはボトルの中に入っている水を飲み切る。
余程喉が渇いていたのでしょう。あの人間の事です、この子に何日も飲まず食わずで過ごさせたんでしょう。今のこの子の体の中にある水分は今補給した水でも必要な量には圧倒的に足りていません。ですが物を食べる事が出来るほどには潤ったはず‥‥。
「ぷはぁ‥‥飲みきれてない」
「ではパンを食べ、水を飲みながらで良いので新しい物語をお話しするので聞いてください。今日は少し怖いお話も混ぜながら」
「うん」
少しでもこの子の感じている恐怖を別の事をして忘れさせてあげたい。
今の私に出来るのはこれくらいです。
明日が本番ですね…私の思惑通りに事が進めばいいのですけど‥‥。
読んで下さりありがとうございます。次回も主人公視点です。
少しでも良ければブクマ、評価をお願いいたします。次回もなるべく早く投稿しますのでよろしく。
ではまた会いましょう(@^^)/




