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知らない天井


「もしかして怒ってますか?」

「…べつに怒っていません」

「でもその顔はどう見ても怒ってる顔ですよ?」


私が船の上で倒れた後に近くの診療所に運ばれたようです。

この異世界に医者と言うモノがある事に少し驚きでしたが‥‥先生がおっしゃるには魔力を急激に使用した為体の中にある魔力回路が一時的にショートしただけらしいです。言っていることはよく分かりませんでしたが何でも魔法を覚えて間もない子供がよく陥る症状らしいですね。

それによって熱が体内に溜め込まれ私は倒れてしまったらしいですね。


目が覚めると一番最初には見慣れない天井、そして次に映ったのは怒っているのか分からない状態のケリーの顔でした。


「みんな心配したんですよ?」

「すいません。少しはしゃいでしまったようで」

「はぁ、全く仕方のない人ですね」

「以後は気を付けます。もう少し規模を小さくすれば‥‥」

「本当に反省してるんですか?」


姿の見えない皆は先に宿まで帰って貰っている。

ケリー曰く皆は拗ねてたらしいですが‥‥魔物は立ち入り禁止ですので仕方ありません。


「では皆の所に帰りましょうか。お金を払って戻りませんっとと‥‥」

「まだダメですよ。薬の副作用でまだ体が上手く動かないはずです。あと数時間はここでゆっくり休んでください」

「そうなんですか?」


私は少し外を気に掛ける。

日はすっかりと傾き始めている。私は随分と寝てしまっていたようですね。

今日はたった一つの依頼を完了しただけですので‥‥まだ資金としては足りませんよね。


「明日も頑張って依頼を受けますか」

「それなんですが‥‥」

「どうしたんですか?」


ケリーはずっと手を後ろにやっていて何かを私に隠しているようなポーズをしていた。

彼女が私に見せてきたのは袋に入った硬貨でした。見た感じでは銀貨と銅貨‥‥それに金貨まで入っていますね。


「‥‥まさか!‥‥ケリー、私は貴方を見損ないましたよ」

「変な勘違いは止めてください。違いますよ!あの人達がくれたんですよ。依頼の報酬金だって」

「報酬金?ですがこれは…多すぎませんか?」

「何でも私達のお陰でいつもよりも漁が早く再開できるからそれくらいの出費は屁でもないんだと‥‥そう船長さんが言ってましたよ」

「そうだったんですか」

「ですので明日にはこの街から海を出ようと思います」

「あ、明日ですか?」

「はい、早い事に越したことはないですから」


明日ですか。確かに早い事に越したことはないんですけど‥‥エンジェラを食べてみたかったですね。エンジェラを使った料理‥‥いえそんな贅沢な事は言わずかじるだけでもやっておきたかったですね。ニアが少し羨ましく思います。後で味の感想を詳しく聞きますか。


「それと今日の夜は約束がありますよね?」

「それには間に合いますので心配ありません。それよりも自分の体の事を気にしてください」

「…はい」


少し安堵する。約束を反故にするのは良くないですからね。

私がいるこの診療所には空いたベッドが複数あり、他には見慣れない器具が棚にあるくらいで特に異世界だからと言って特徴的な物は無い。

診療所にしては…物が少ないですね。魔法で怪我を治すことも出来るのでしょうか?


「別にケリーは皆と一緒に宿で休んでいても良いんですよ?お疲れでしょうし」

「いいえ。私には監視する役目がありますので」

「か、監視…」

「シズクさんは目を離すと直ぐに消えてしまいそうな感じがしますし…第一目を話してなくてもこうなっているので余計です」


ぐうの音も出ませんね。

ですが今回一番頑張ったのはユリスでしょう。彼の魔法が無ければ私たちはまだ船の上で網を持ちながらエンジェラを掬っていたでしょうし。あれは辛いです。

私が倒れてしまったのは普段から運動も魔法も使用していないつけが出ましたね。やはり日頃からスキルや魔法を使用していた方が良いのでしょう。


ユリスの…確か生命魔法と言っていましたが、あんな強力な魔法がこの世界にはあるのですね。

きっとあれ以上に危険な魔法も沢山あるのでしょう。全ては使い方次第ですが、それを誤ればすべては水泡のように儚く散るような魔法でしたね。

まぁ彼の場合は大丈夫でしょう。悪いように魔法を使うようには見えませんから。


私たちが少し喋っているとゆっくりと扉が開かれる。

先生がいらしたのかと思えばそこにいたのは黒い服を身にまとったユリスだった。相変わらず日傘は持っているようですね。

今はもう夕刻に近づいているので別に要らない気もしますが…。


「やっほー!」

「ゆ、ユリス?どうして此処にいるのですか?」

「え~?だってシズクがいないと暇だし。ニアもエルゼもみ~んな不機嫌なんだよ?だから僕がさっさと連れ戻そうと思って来ちゃった」

「ダメですよ?シズクさんの体はまだ薬の効果で動かないんですから」

「う~ん?薬の効果?‥‥確かに魔力の流れがいつもよりゆっくりだね。まるで生まれたばかりの赤ん坊の様にのんびりと流れているね。でもシズクの魔力回路は既に充分に回復してるよ?僕なら直ぐに回復出来るけど」

「お願いしてもいいですか?いつまでもここで寝ているわけには行きませんので」

「いいよ~!じゃあ僕の手のひらに中指をのせてね」


私はユリスに言われた通りに中指を乗せる。するとユリスは中指をギュッと優しく握り閉める。

ひんやりとした手から徐々に暖かい何かが伝わってくる。それは次第に中指から手のひらへ‥‥そして腕を伝って私の体の中を巡る。


「魔力の同調‥‥滅茶苦茶な事をしますね」

「これが一番だからね。それに僕とシズクは友達だからね。これくらいは簡単だよ」


たった数秒間指を握られていただけなのに体中が熱を発している。

毛布でくるまれた様に温かい。


「えっと…何をされたのか分からないんですが?」

「僕の魔力を一部シズクの体に流して魔力の流れを少し早めたのさ。僕はシズクの本来の魔力の流れを知っているから出来るんだ。まぁ、荒療治だけどこれが一番早いからね」

「失敗したらどうするんですか!?」

「え?」

「あはは!僕が失敗なんてするわけないじゃないか。確かに失敗したら四肢がはじけ飛ぶだけじゃすまされないけどそんな心配することないよ‥‥多分」

「多分じゃダメなんですよ!今後、その治し方は絶対にやらないでくださいね」

「えぇ~」

「え~じゃありませんよ!」


四肢がはじけ飛ぶ!?

つまり死ぬって事ですよね‥‥普通に身を任せていましたがもしかしてですけど今サラッと私は九死に一生を得たのでは?


「わ、私からもお願いします。流石に死ぬのはちょっと」

「シズクまで!?ちょっとは僕の事を信じてよ。僕だって伊達に長生きしてるわけじゃないんだからね?魔力に関する事だったら僕は誰よりも知ってるつもりだよ」

「ダメです!絶対に許しませんよ。次に同じような事をしたらこの魔剣で貴方を切ります」

「それは困る。その魔剣って多分だけど神剣に近い代物だよね。そんな物騒な剣で切られたら僕でも昇天しちゃうからね」


身体が軽い…薬の効果が完全に抜き切った…というよりはユリスが打ち消したと言うべきでしょうかね。兎に角凄く体中がポカポカしており、軽いですね。


「よっと…もう動けますね」

「無理してませんか?」

「ちょっと?僕はちゃんと治したよ?」

「あんな規格外的な治し方で信用できるわけないじゃないですか」

「えぇ~?」


その後私は診療所を経営している人にお礼を言い、薬の代金を払いました。

そこまで高くなかったのが意外でしたね。

やはり子供がなりやすい症状のようですし、安価にしているのでしょう。


「では宿に帰りましょう。皆が待っていますし、夕食の約束がありますしね」

「楽しみだな~」

「ユリス、今日はお疲れさまでした。ユリスの魔法が無ければどうなっていたか…」

「いいよ~。僕は君のテイムモンスターだしね。それに何と言っても僕と君は友達だしね」

「ケリーも看病をしてくださりありがとうございます」

「いえいえ、私の方こそ…」

「うん?私は何もしてませんが…」

「いえ!こちらの話です」


診療所を出て通りを歩いていると多くの人が行き来している。

夕刻に差し掛かってもこの街の通りは賑やかですね。

…少し賑やか過ぎな気もしますね。何かあるのでしょうか?


「何やら少し騒がしいですね?何かあったのでしょうか?」

「さぁ?取り敢えず今は宿を目指しましょう」

「早く食べたいな~」


後ろの方で騒がしい声が聞えますが今は宿に行ってニアとエルゼに顔を見せておきたいのです。

それに夕食に行くときにこの道は通りますし後でもいいでしょう。

私達はそのまま騒ぎの方とは反対の道へと歩みを進めた。

すると後ろから知らない男の声が聞こえる。


「そこの者!止まれ」

読んで下さりありがとうございます。

少しでも良いと思ってくださればブクマ、評価をお願いします。

不定期で更新頻度がガラリと変わるため少し気長に待っていてください。

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